非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

13TR-FT8トランシーバ (13)水晶フィルタの組立と測定

水晶フィルタの組立

13TR-FT8トランシーバのSSB用フィルタであるラダー型水晶フィルタとその周辺の緩衝増幅器を組み立てました。

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ラダー型水晶フィルタとその周辺の緩衝増幅器

この回路の水晶発振子もソケットに仮付けとしましたが、背が高くなってしまいました。Trの動作点を決める抵抗は±1%精度のものが使われていますが、RF小信号用のエミッタ接地抵抗10Ωには-0.9%と-1.3%のものが混在していました。他の抵抗は0.4%程度のばらつきのため、値が小さい抵抗を高精度に作るのは難しいのかもしれません。Tx回路に-0.9%の抵抗を使用し、-1.3%の抵抗はRx回路に回しました。なお、抵抗の精度確認には、13TR-FT8トランシーバに先行して組み立てた「E24系列に基づく抵抗計(RMEE01)」が活躍しています。

ラダー型水晶フィルタは、50~500Ωほどの入出力インピーダンスになるとのこと。インピーダンス整合のためにステップアップ・トランスを使う例を多く見ますが、13TR-FT8トランシーバではラダー型水晶フィルタの前後を緩衝増幅器(RF増幅器)で挟む構成です。Tr(2N4401)の hie は1k~15kΩと公差が広く、インピーダンス整合についての回路設計は追い切れていません。Tr出力回路の並列抵抗や入力回路の並列抵抗から見れば、おおよそ良い値に落ちていると思われます。

水晶フィルタの周波数応答の測定

周波数応答の測定系

NanoVNAを用いた下図の測定系により、ラダー型水晶フィルタ単体の周波数応答を測定しました。

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ラダー型水晶フィルタ単体のNanoVNAを用いた周波数応答の測定系

50ΩのNanoVNAとラダー型水晶フィルタ単体のインピーダンス整合(不整合緩和)のために、470Ωの抵抗を入出力に付加しました。抵抗値の最適化は行っていません。NanoVNA Testboard Kit を用いた空中配線になってしまいましたが、後述の通り効果はあったようです。

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470Ωの抵抗によるインピーダンス不整合の緩和
周波数応答の測定結果

抵抗470Ωを付けなかった場合の周波数応答(S21 Gain)を下記に示します。中心周波数7.074MHz(キャリア周波数)、スパン7kHzです。NanoVNA基本点数の101点測定を10回繰り返し、6.938Hz/step(スパンの約1/1,000)の分解能で測定しました。

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インピーダンス整合抵抗無しの場合

キャリア周波数7.074MHzを挟んで、逆サイドのLSB側の抑圧とFT8用USB側のバンドパス特性(Passband around 1500~3000Hz)は確認できますが、大きなリップルの角が2本生えてしまいました。

次に、インピーダンス整合用の470Ω抵抗を入出力に付加した場合の周波数応答を下記に示します。測定仕様は上記と同じです。

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インピーダンス整合抵抗を付加した場合

リップルの角が取れました。ただし、キャリア周波数7.074MHzとPassbandの間でGainが落ちています。インピーダンスの不整合を緩和しただけで整合しきれていないのかもしれません。逆サイドの抑圧能力は約24.6dBを示しています。

USB側を拡大した測定結果を下記に示します。横軸はキャリア周波数7.074MHzから+3.5kHzの7.0775MHzまで示しています。

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インピーダンス整合抵抗を付加した場合(拡大)

-3dBの通過帯域は7.0760~7.0768MHz、オーディオ周波数では2000~2800Hzになります。ただし、後段のRF増幅TrのON/OFFは-3dBの通過帯域で決まる訳ではないと思います。

測定結果には表示されていませんが、右端の7.0775MHzからGainは一旦上昇に転じます。つまり、バンドパス特性として見ているのはインピーダンス不整合による大きなリップルの一つなのかもしれません。

水晶フィルタの周波数スペクトルの測定

周波数スペクトルの測定系

周波数応答の測定結果がインピーダンス不整合の影響を受けて正しく測定できていない可能性を確認するために、オーディオ周波数のシフトに応じたフィルタ出力信号の周波数スペクトルの変化を測定しました。ここまで組み上がった13TR-FT8トランシーバに電源を投入し、PCからオーディオ信号を入力してフィルタ出力 Tr(Q9)のコレクタ電圧の周波数スペクトルを測定しました。その測定系を下記に示します。

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ラダー型水晶フィルタ回路のUSB Dongle SDRを用いた周波数スペクトルの測定系

なお、環境ノイズの影響を下げる目的で、今回はMini-WhipアンテナへのBias-TはOFFにしました。

測定結果(0)オーディオ信号の入力無し

オーディオ信号の入力をOFFにして、13TR-FT8トランシーバを受信モードにした状態での測定結果を下記に示します。

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測定結果(0)オーディオ信号の入力無し

7.074MHzにキャリア周波数が-123dBの強度で見えます。送信回路は動作していないため、局部発振回路から漏れた信号を拾っているものと思われます。基板はケースには入っていませんでした。ノイズフロアは-140dB弱でした。

測定結果(1)オーディオ信号500Hz

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測定結果(1)オーディオ信号500Hz

周波数500Hzのオーディオ信号の混合によって7.0745MHzの基本波が観測される他に、その高調波の混合も見られました。基本波は基準の-54dB(後述)に対して-38dBc減衰しています。これに対して高調波の方がパワーが大きく、第四高調波2,000Hz(7.076MHz)の抑圧は-19dBcに留まります。第四高調波等は水晶フィルタを通過するからです。

下段のWater Fallを見ると、最初のVOX Tx ONの時以外にも、間欠的なタイミングでスペクトルが横に広がっている部分があることが確認できます。脈動の発生を反映しています。

測定結果(2)オーディオ信号1,000Hz

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測定結果(2)オーディオ信号1,000Hz

同様に、周波数1,000Hzのオーディオ信号の混合によって7.075MHzの基本波が観測される他に、その高調波の混合も見られました。基本波は基準の-54dB(後述)に対して-28dBc減衰しています。これに対して高調波の方がパワーが大きく、第二高調波2,000Hz(7.076MHz)の抑圧は-13dBcに留まります。繰り返しになりますが、第二高調波等は水晶フィルタを通過するからです。

下段のWater Fallを見ると、よりいっそう頻繁なタイミングでスペクトルが横に広がっている部分があることが確認できます。脈動の頻繁な発生を反映しています。

測定結果(3)オーディオ信号1,500Hz

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測定結果(3)オーディオ信号1,500Hz

水晶フィルタの通過域の低周波数側境界と目される1,500Hzのケースです。基本波1,500Hz(7.0755MHz)は、まだ基準の-54dB(後述)に対して-10dBc減衰しています。第二高調波3,000Hz(7.077MHz)のパワーは基本波より小さくなり、-16dBc抑圧されるようになりました。

上段のパワースペクトルを見ると、基本波と第二高調波の間のベースが盛り上がっています。脈動発生の瞬間を偶然に上手く捕らえた結果です。下段のWater Fallを見ると、より広くスペクトルが横に広がっている部分があることが確認できます。大きな脈動の発生を反映しています。脈動の発生はここまでです。オーディオ周波数1,600Hz(7,076MHz)以上では発生していません。

測定結果(4)オーディオ信号2,000Hz

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測定結果(3)オーディオ信号2,000Hz

周波数2,000Hzのオーディオ信号の混合によって7.076MHzの基本波が観測されます。基本波のパワーはMaxの-54dBであり、これを評価基準としました。

高調波のパワーは逆サイドのLSB側のイメージよりも小さくなっています。第二高調波4,000Hz(7.078MHz)以上は水晶フィルタによって抑圧されるからです。逆サイドのイメージ-2,000Hz(7,072MHz)は-58dBc抑圧されています。下段のWater Fallを見ると、パワーは脈動もなく安定しています。

この周波数では水晶フィルタが上手く働いていることが分かります。

測定結果(5)オーディオ信号3,000Hz

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測定結果(5)オーディオ信号3,000Hz

水晶フィルタの通過域の高周波数側境界と目される3,000Hzのケースです。基本波3,000Hz(7.077MHz)はまだ-55dBを維持しています。高調波も十分に抑圧されています。逆サイドのイメージ-3,000Hz(7,071MHz)も-60dBc抑圧されています。下段のWater Fallを見ると、パワーは脈動もなく安定しています。

SSBの帯域外ですが、これ以上の周波数の基本波はパワーが線形に減少して行きます。

測定結果(6)オーディオ信号4,000Hz

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測定結果(6)オーディオ信号4,000Hz

基本波4,000Hz(7.078MHz)は基準の-54dBに対して-42dBc減衰しています。逆サイドのイメージ-4,000Hz(7,070MHz)も-62dB抑圧されています。下段のWater Fallを見ると、パワーは脈動もなく安定しています。

測定結果のまとめ

 

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水晶フィルタの周波数スペクトルの測定結果のまとめ

水晶フィルタの周波数特性を基本波の通過パワーから求めると、上図の緑色曲線となりました。前記のNanoVNAのS12通過特性の測定で見られた1,500Hz付近のGainの急落はありませんでした。やはり、NanoVNAの測定ではインピーダンスの不整合が残っていたのかもしれません。

また、水晶フィルタによる基本波以外の高調波もしくは逆サイドのイメージの抑圧能力を求めると、上図の橙色曲線となりました。逆サイドのイメージの抑圧能力は約60dBcです。一方、NanoVNAで測定した抑圧能力は約25dBcでした。食い違いの理由は不明です。470Ωを加えた測定系に対するNanoVNAのキャリブレーションが上手く行っていなかったのでしょうか。

SSBの帯域外領域ではなくFT8の帯域外領域として自省的に考えると、水晶フィルタの出力の段階で、基本波に対して高調波を40dBc以下に留めることができる周波数帯域は1,800~3,000Hz(7.0758~7.077MHz)であることが分かりました。最終出力で再度確認しようと思います。

以上の結果は非職業的技師が組み立てた個体の特性であることをお断りしておきたいと思います。組み立て技能も反映されての結果と思います。

日本ラジオ博物館訪問(2)

松本にある日本ラジオ博物館を再訪する機会が早々と回ってきました。2か月前は休館日の訪問となり場所の確認だけとなりましたが、今回は開館中に訪問できました。

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紅葉が進んだ今回は「公開中」の訪問を達成

開館日は休日のみのご様子です。開館時間も午後の限られて時間になりますので、公式サイトで確認した上で計画的な訪問が必要です。

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年代別の常設展示と企画展示

私が訪問した時には3組同時の見学となりました。他の見学者が帰った後に、館長より直々にラジオの歴史について詳細な説明を聞くことができました。

某N局の朝ドラで見たと思しき特徴的なデザイン(ミゼット型)のラジオも展示してありました。そのデザインの変遷も説明して頂きました。なお高速展開のドラマの中で、実家のラジオと嫁ぎ先のラジオのデザインも変遷(普及型と高級型?)しています。両方のデザインのラジオが展示されていたと思います。

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ミゼット型ラジオ

非職業的技師が開局前に愛用していたSONYスカイセンサー5800も展示してありました。なぜかシリーズ番号もよく覚えています。非職業的技師の青春?も博物館に収蔵され、歴史の1ページになってしまった思いがしました。

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SONYスカイセンサー5800(1973年)

日本ラジオ博物館の見学後、ブラタモリの撮影スポットの1つである「城山公園(じょうやまこうえん)」の展望台に足を延ばしました。某N局が総力を挙げて選び抜いたスポットに外れは無いと思った次第です。案の定、間違いは無く、素晴らしいパノラマスポットでした。

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夕日を浴びる松本城(左下)

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冬至で日没が早くなりました。

 

13TR-FT8トランシーバ (12)緩衝増幅器のLTspiceシミュレーション

修正記録

  1. 2021年11月23日
    RF小信号のエミッタ接地抵抗を10Ωにするバイパスコンデンサ103(=0.01μF=10nF=10×10^3pF)の値を100pFと間違えていました。2桁異なるため、7MHz小信号電圧のバイパス回路通過率は4%に縮小し、増幅率が低下していました。0.01μFに修正した時のバイパス回路通過率は97%になります。0.01μFに修正したシミュレーション結果に差し換えました。

電流帰還型バイアス回路?

送信(TX)信号および受信(RX)信号が通過するラダー型水晶フィルタの両側にTrが各々2個、計4個配置されています。各々の回路素子はエミッタ接地抵抗1個を除いて共通です。TX回路もRX回路も混合器側のエミッタ接地抵抗が470Ω、アンテナ側が220Ωです。

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どのTr(2N4401)の直流ベース電圧も、2.2kΩと1kΩによる同じ構成の分圧回路により決められています。一見、エミッタ接地抵抗によってベースエミッタ間電圧を自動調整する電流帰還型バイアス回路に見えますが、分圧しているのは電源電圧ではなくコレクタ電圧になっています。

この場合、増幅率が例えば大きくなる方向に変動すると、コレクタ電流が増えて、エミッタ電圧が上昇し、コレクタ電圧が下降するものと思われます。これにより、コレクタ電圧を分圧するベース電圧も下降します。両者の合わせ技で、ベースエミッタ間電圧(ベース電圧 ー エミッタ電圧)への電流帰還が増幅率を小さくなる方向により強力に作用するのでしょうか。

LTspiceによる直流動作点解析

エミッタ接地抵抗(470Ω/220Ω)の違いによる直流動作点をLTspiceにより調べました。

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エミッタ接地抵抗をパラメータにしたIc/Vb/Ve直流動作点解析の結果(*1)

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エミッタ接地抵抗をパラメータにしたIc/Vc直流動作点解析の結果(*1)

エミッタ接地抵抗を約2倍(220 → 470Ω)に大きくすると、エミッタ電圧Veが少し大きくなります(2.01→ 2.32V)。ベース電圧Vbも少し大きくなる(2.69 → 2.98V)ため、両者の差であるベースエミッタ間電圧Vbeはほぼ一定に維持されています。コレクタ電流Icは約半減(9.1 → 4.9mA)しています。近似的には、エミッタ接地抵抗によってコレクタ電流Icが決まることを示しています。

LTspiceによる過度解析

Trのベースに交流小信号を入力し、出力のコレクタ電圧を調べました。混合器(SBM)のDSB出力の振幅は約500mVであったため、振幅500mV、周波数7074KHzのSIN波を入力しました。

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小信号増幅(エミッタ接地抵抗470Ω)過渡解析の結果(*1)

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小信号増幅(エミッタ接地抵抗220Ω)過渡解析の結果(*1)

SBMからのRF小信号はTrのベース電圧Vbに重畳され、コレクタ電圧Vcに転写されることが分かり(*1)ます。エミッタのパスコンを通過するRF小信号に対するエミッタ接地抵抗は10Ωであり、増幅歪みを発生させない構成になっていると思います(*1)RF小信号の正のサイクルでコレクタ電流が増幅され、コレクタ電圧が低下しています。負のサイクルではベースエミッタ間電圧Vbe(= Vb - Ve)が小さくなり、コレクタ電流は遮断されてしまうようです。これにより、増幅歪みは大きくなっています。

RF小信号の電圧増幅率は、エミッタ接地抵抗が470Ωの場合に9倍(=4.5 / 0.5V)、220Ωの場合に13.6倍(6.8 / 0.5V)です。どちらのTrも緩衝増幅器の役割を果たしていると思われます(*1)すだけでなく、RF増幅器の役割も果たしているようです

 

13TR-FT8トランシーバ (11)混合器の組立と測定

混合器の組立

13TR-FT8トランシーバのSBM(Single Balanced Mixer)混合器を組み立てました。

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トロイダルトランスの製作準備

混合器のトロイダルトランスを実現するためには、FT37-43コアに8回Trifilar(等長3本撚線)巻きが必要です。見た目、トロイダルトランスはRF回路を代表する部品の一つですが、手工芸品であり、再現性が心配になる部品でもあります。

エナメル線を切り出す必要があるため、13TR-FT8トランシーバの全てのコアに必要な線長を洗い出しました。13TR-FT8トランシーバの先代にあたるD4Dデジタルトランシーバの資料を参考にしました。

赤色エナメル線は約40cm、金色エナメル線は約140cmの線材が供給されています。赤線の供給は撚線の中間タップを出し易くするための心遣いですから、Tri-filarとBi-filarに各1本使用します。もう一色あるとTri-filar巻きが楽になるのですが・・・贅沢というものでしょう。

LPFコイル用のT37-2コアには単線を巻くため、線長はhttps://toroids.info/から計算でき、各25.4cmです。

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LPFに必要な線長25.4cm

トランス用のFT37-43コアに単線を巻く場合の線長は、同様にして toroids.info から各15.2cmと求まります。

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FT37-43コアに単線を巻く場合の線長15.2cm

Tri-filarとBi-filarでは撚る分だけ単線より長く必要です。しかし、その計算方法は不明です。経験則しかないと思いますが、経験を積むだけの予習用線材はありません。先代D4Dデジタルトランシーバの部品表にBi-filar 8T 20cmと指定されているため、Bi-filarはこれを踏襲します。Tri-filarも同じで良いかどうか不明ですが、供給された赤色線材長が40cmしかないため、消去法で自動的に20cmと決まります。これに合わせて金色線材長を割り当てると、合計で供給線材長にほぼ同じ136.2cmとなり、下記表のとおり整合します。後はこの線長でピッチの仕様(1インチ=2.54cm当たり 5 回ピッチで捩じり)を満たせるかどうかが課題になります。

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エナメル線材の切り出し長のまとめ表
トロイダルトランスの手工芸製作

13TR-FT8トランシーバのホームページには、電動ドリルを使用した撚り方が紹介されています。電動ドリルが無い場合は、QRP labs の Receiver module のマニュアルが参考になります。 Receiver module はQSDの前段に同じ FT37-43 Trifilar toroid を使用しています。

QRP labs の方法は2本のドライバーに線材の左右端部を結び付けて、テンションを掛けながら撚る方法です。端部に結び付ける余裕が必要なため、今回は線材の左右端部を2本のラジオペンチで挟んで、片方を膝で挟んで固定し、もう片方を手で回転させて撚る方法を取りました。ペンチで挟んいる直近部でピッチが多くなってしまいますが、後でリードとしてほどくため問題ありません。

撚ることによる線長の短縮は杞憂でした。線径が小さいためか、短縮はあっても2~4mm程度と思います。15.2mm必要に対して、19.5mm以上は確保できました。

製作したT1(Tri-filar)とT2(Bi-filar)の写真を下記に掲載します。右が今回組み付けるT1、左が後日組み付けるT2です。

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製作したトロイダルトランス(右SBM用Tri-filar)

LCRメータ(Peak社Atlas LCR40)でT1の3本のコイルのインピーダンスインダクタンスを測定したところ、21.1uH、21.2uH、 21.1uHでした。測定周波数は自動設定で200kHzです。3本のインピーダンスインダクタンスは揃っていました。上記toroids.infoの計算値は22.40uH(7MHz)でした。誤差は-6%ですが、周波数の違いによる影響は不明です。Tri-filar巻きによりコアとの密着度が悪くなっていることは確かです。目標値となるべき回路設計値は図面に記載が無く不明です。

混合器と周辺回路の組立

金色2本と赤色1本の3本のコイルはどれも同じです(インピーダンスインダクタンスは同じでした)が、中間タップが分かり易いように二次側(ダイオード側)の上コイルを赤線、下コイルを金線(金線2)としました。そして残りの金線(金線1)を一次側(LO側)のコイルとしました。金線1コイルと金線2コイルの分別はテスタによる導通チェックが頼りです。

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混合器へのコイル割り付けと周辺回路

コアの巻き始めを回路図の上側と決め、赤線コイルの巻き終わりリードと金線2コイルの巻き始めリードを撚って中間タップとしました。コアの向きが反転しても、コア内の磁束の回転方向が逆になるだけと思います。

赤線コイルの巻き始めリードはダイオードD4のカソードに接続(赤D4)し、金線2コイルの巻き終わりリードをダイオードD3のアノードに接続(金2D3)しました。また、金線1コイルの巻き始めリードを局部発振器LO信号の入力コンデンサC21に接続(金1C21)し、巻き終わりリードをGNDに接続(金1GND)しました。これでコイルの極性は合っていると思います。

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Tri-filarコイルの配線

周辺回路として、AUDIO_TX信号 → 電子スイッチ→ AUDIO_RX信号をトロイダルトランス二次側コイルの中間タップに入力するルートを完成させ、混合器のRF側に5.58dBのアッテネータPadを組み付けました。

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混合器の測定

測定系

下図の測定系により、PCからのAUDIO_TXテスト信号電圧と、SBMに連なる5.58dB Padの混合(DSB変調)出力電圧を測定しました。

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測定系
AUDIO_TXテスト信号電圧に対するSBM混合出力の感度

WaveGeneによって生成したAUDIO_TXのテスト信号の出力を、最大設定の0dBから-10dB、-20dB、-30dBと絞って、SBM混合出力の感度を調べました。AUDIO周波数は1kHzです。

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WaveGeneからのAUDIO_TX信号:1kHz、0dB(Max)

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WaveGeneからのAUDIO_TX信号:1kHz、-10dB

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WaveGeneからのAUDIO_TX信号:1kHz、-20dB

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WaveGeneからのAUDIO_TX信号:1kHz、-30dB

十分に時間が経過した後では、最大設定の0dBと-10dBの間に目視可能なSBM混合出力の変化は確認できません。-10dB設定の場合、送信切り替え直後は0dB設定時よりも混合出力が小さいのですが、徐々に大きくなって行きます。定常的にはPC設定に依存せずロバストと言えますが、過渡状態では注意が必要です。

-20dBの設定では、SBM混合出力も少し小さくなります。VOXによる送信切り替え限界に近い-30dBの設定では、SBM混合出力も目に見えて小さくなります。

何れの場合もSBM混合出力には濃い青色の部分と薄い青色の影のような部分があります。薄い青色の影のような部分は、USBオシロの反復描画に対して出現頻度が低いデータと思われます。以前報告(13TR-FT8トランシーバ (4)混合器 - 非職業的技師の覚え書き)したLTspiceシミュレーションの結果と照合すると、濃い青色の部分はAUDIO_TX = 4Vの大信号で混合した結果と似ています。薄い青色の影のような部分はAUDIO_TX = 1V以下の小信号で混合した結果と似ています。USBオシロの反復トリガーが1kHzのAUDIO信号に引っ掛かってしまい、7.074MHz近辺のRF信号には引っ掛からないのかもしれません。

SBM混合出力のFFT(USBオシロ

USBオシロFFT機能を使用して周波数スペクトルを確認しました。

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WaveGeneからのAUDIO_TX信号:1kHz、0dB

USBオシロ(Analog Discovery 2)のFFT機能の仕様は判然としませんが、時間領域の表示スパンを拡大しないと周波数分解能が高くなりませんでした。上記測定結果から以下のことが確認できました。

  • スペクトルの中心が7.074MHzであることが確認できました。
  • 7.074±0.001MHzにスペクトルが立っているかは判別できませんでした。7.074±0.006MHzにスペクトルが立っているように見えます。高調波が重畳していると推測されます。
  • 上部の時間領域の測定結果から、混合出力(SBM)信号が0V付近から(おそらく7.074MHzで)振動し、AUDIO_TX信号のゼロクロスで振幅の符号が反転していることが確認できました。

AUDIO_TX信号を4kHzにして、もう少し分離を改善できないか試みました。

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WaveGeneからのAUDIO_TX信号:4kHz、0dB
  • スペクトルの中心7.074MHzのスペクトル強度が小さくなり、DSB信号が発生していることが確認できました。
  • 変わらず、7.074±0.001MHzにスペクトルが立っているかは判別できませんでした。7.074±0.008MHzにスペクトルが立っているように見えます。高調波が重畳していると推測されます。
  • 上部の時間領域の測定結果から、混合出力(SBM)信号が0V付近から(おそらく7.074MHzで)振動し、AUDIO_TX信号のゼロクロスで振幅の符号が反転していることが明確に確認できました。
SBM混合出力のFFT(USBドングルSDR)

USBオシロでは周波数分解能に限界があるため、過去に報告(13TR-FT8トランシーバ (6)局部発振器の組立と測定 - 非職業的技師の覚え書き)したUSBドングルSDRによる測定を今回も試みました。測定系は下記の通りです。SBMに連なる5.58dB Padの抵抗R30をクリップしたリード線をMini-Whipアンテナに数回巻き付けました。

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USBドングルSDRを用いた測定系

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WaveGeneからのAUDIO_TX信号無し

WaveGeneからのAUDIO_TX信号が無い状態では、局部発振器から漏れてくる発振周波数7.074MHz(正確には7.073.997MHz)を拾っています。ベースの凹凸は環境ノイズです。

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WaveGeneからのAUDIO_TX信号:1kHz、0dB

WaveGeneからAUDIO_TX信号(1kHz、0dB)を入力すると、発振周波数7.074MHzの両側に複数のスペクトルが立ち上がります。USBオシロでは、これらが重畳して見えていた訳です。

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Zoom

今回使用したSDRunoのRBWは驚愕の5.09Hzです。スペクトルの1本1本を確認できます。

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約7.074±0.001MHz、7.074±0.002MHz、・・・のDSBスペクトルと高調波を確認できました。混合器は正常に稼働していると思われます。次は、この中から1本だけを送信するフィルタの組立が課題です。

蛇足

変調については周波数領域で説明されることが多いと思います。FM、AM、DSB、SSBと全ての変調方式について周波数領域で考えれば理解は容易です。

時間領域ではどんな波形になっているのでしょうか。FM、AMは時間領域波形も容易に想像できます。DSBもゼロクロスでの波形反転に注意すれば想像できます。では、SSBはどんな波形で飛んで行くのでしょうか。

検索しても簡単には絵が出てきません。海外に同じ疑問を持った人がいて、下記のホームページが唯一見つかりました。SSBは奥が深い・・・。

Teensy(4)ブレークアウトボードの調達

Teensy 4.1 Expansion Board

Tindie(marketplace for maker made products)に Teensy 4.1 Expansion Board(ブレークアウトボード)が出品されているのを見つけ、実験用に購入しました。

メーカは BurgessWorld Custom Electronics という名称の会社(スタートアップ?)です。ホームページはありません。代わりにTindieがMarketplaceを提供しています。

最初にTindieを覗いた時には在庫切れの状態でしたが、気になったため在庫補充時のメール連絡依頼を登録しました。程なくメールが届きましたが、補充数が少なかったため速攻で発注しました。PCB製造も部品実装もある程度の数量を造らないと、設備の稼働率の関係から安くならないと思うのですが、ボードが自動車用のCANチップを搭載しているため自動車用半導体不足の煽りを受けているようです。(この後の在庫補充時には、CANチップの高騰の影響でボードも値上がりしてしまいました。)

Teensy 4.1 Expansion Board は ESPモジュールを搭載しており、WiFiBluetoothの無線機能を利用できるようです。しかし「技適」マークが付いていないため、そのまま国内で利用することは不可のようです。無線機能の実験は予定にありませんが、「CE」マーク(EU基準適合マーク)は付いているため、特例制度を利用すれば有期の無線実験は可能かもしれません。可否の詳細は下記ページの調査が必要です。

無線機能よりも、3.3V/5Vのレベルシフタ機能があると便利だと思ったのですが、「I/Oに5Vをつなぐな」という注意書きが・・・。3.3V/5Vのレギュレータは搭載されています。その他の機能は今後探ります。

国際郵便の追跡結果

Tindieの発送オプションは、USPS First Class International しかありませんでした。「First Class」の響きは高級ですが、定形郵便みたいなもので、行方不明になっても保証はありません。Marketplace の Tindie が出荷までは保証してくれているようです。メーカから出荷されないと代金が落ちない仕組みです。

今回の送料(Shipping and handling)は、$14.95 USDでした。小型のダンボール箱に梱包材を詰めた安心の状態で到着し、外装も中身も破損はありませんでした。

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日本郵便の追跡ページからは米国内の動きは追跡できませんが、USPSの追跡ページから追跡できることが分かりました。USPSの追跡に関しては下記が参考になりました。

着荷するまでの主だった経路を追跡し、小包の旅程に思いを馳せてみました。下記追跡結果の青字は米国東部時間、赤字は日本時間で記録されていると思います。10月20日夕刻(日本では21日昼)に発注したところ、14日後の11月4日に着荷しました。

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Teensy 4.1 Expansion Boardの追跡結果

なお、現在の北米ロジスティックスの状況は、コロナ禍の影響でトラックドライバーが不足し、コンテナ船の荷揚げが混雑しているとか。「First Class」により航空貨物なのですが、ロジ拠点間の陸送で普段より遅れが生じる影響が出ているかもしれません。

メーカの BurgessWorld Custom Electronics は北米東海岸側のサウスカロライナ州(SC)の州境に近いBlenheimに拠点があるようです。Blenheimという名称はイギリス発祥の様子で、日本のレディースファッションのブランド名にもあります。1903年に誕生したBlenheim Bottling Companyのジンジャーエールは日本でも入手可能です。(現在はコロナ禍で工場休業中とのこと)。

閑話休題、発注から週末2日を挟んで25日にBlenheim郵便局から発送されています。翌26日にはサウスカロライナ州中央に位置する州都Columbiaを経由してフロリダ半島先端に位置するMiamiの国際交換局に到着しています。米国内輸送も速いですね。

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27日に仕分けされて、その後はおそらく国際貨物機に乗って、28日14時MIAMI空港出発、28日20時HOUSTON空港出発、29日13時SAN FRANCISCO空港出発、30日16時成田空港(日本時間31日6時)とトントン拍子に進んで行きます。月が替わって通関に約1.5日かかり、11月4日に無事着荷しました。

本件は順調に配送されたことが確認できました。同じ頃に西海岸に発注した別の案件(QRPGuysのKit)は24日もかかりました。またの機会に報告します。

13TR-FT8トランシーバ (10)電子スイッチの組立と測定

スイッチング・ダイオード代替品

問題発生

ダイオード1N4148は小さい部品のため、大物部品を組付ける前に5本の1N4148を全て実装しました。

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と思ったら、電子スイッチ用のダイオードが足りません。6本必要でした。紛失?と思いましたが、着荷時の写真を確認すると確かに5本しか写っていません。

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電子スイッチはAUDIO_TX信号のAUDIO_RX信号ラインへの漏れを防止するために後から追加した回路とのことですので、中国でのキット袋詰め時にカウントを間違えたのかもしれません。着荷時の部品員数確認が疎かでした。今更、頒布元のお手を煩わせるのも恐縮なため、自己調達あるいは代替品を検討しました。

代替品の検討

1N4148は秋月電子通商でも取り扱いがあり、1パック(50本)¥100、1本¥20です。1N4148の秋月電子通商ホームページ(https://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-00941/)の説明を引用させて頂きます。

フェアチャイルド小信号用汎用ダイオード1S1588、1S2076Aに代わる汎用ダイオードです。日本では1S1588(現在廃盤)や1S2076Aよく知られた小信号用ダイオードですが、世界的には1N4148が汎用ダイオードとして一般的です。海外のインターネットで公開されている回路にはほとんど1N4148が使われています。

なるほど、13TR-FT8トランシーバでも使われている訳です。汎用ダイオードなので在庫しても良いのですが、50本購入でも送料が何倍にもなってしまいます。他の部品と抱き合わせて購入する機会でもないと踏ん切りがつきません。組立時期が遅くなりそうです。

この機会に過去の注文履歴を調べたところ、すっかり失念していましたが、1SS270A-Eを在庫していることが判明しました。

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1SS270A-Eの秋月電子通商ホームページ(https://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-06191/)の説明を引用させて頂きます。

1S1588,1S2076Aに代わる汎用ダイオードです。
1S1588より耐圧が高く、電流が多く流せます。
1S2076Aよりも外形が小さいです。

どうやら同じ1S15881S2076Aを代替できるようです。3段論法を駆使?すれば、保有する1SS270A-Eは不足した1N41418を代替できる可能性があります。主なスペックを比較しました。

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ダイオード比較表

1SS270A-Eの方が小信号向けの仕様ですが、その分高速です。今回の電子スイッチの用途には問題ないと判断しました。念のためLTspiceシミュレーションによる確認を行いました。

LTspiceシミュレーションによる確認

前回のVOX回路の測定で、AUDIO_TX信号電圧はMax. 1.2V弱であることが確認できたため、今回のLTspiceシミュレーションのAUDIO_TX信号電圧は1Vに設定しました。

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(1-1)TXモード

TXモードでは、AUDIO_TX信号電圧がそのまま混合器につながるAUDIO_RX信号電圧に反映されます。厳密には、プラス側振幅が少し減衰しています。

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(1-2)TXモードにおけるダイオード電極の電位

この時のダイオード1SS270A-Eのカソード電位V(D_K)とアノード電位V(D_A)を調べると、順電位0.8V分の電位差があります。カソードとアノードは共に抵抗1kΩを介してGNDおよびDC12Vに接続しているため、6±0.4Vを平均電位としてAUDIO_TX信号電圧が重畳しています。

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(2-1)RXモード

RXモードでは、VOX回路のリレーの中でTX回路のDC電源ラインは解放になるようです。この時に回路全体では、TX回路のDC電源ラインはトランジスタのバイアス回路の抵抗やパスコンを介してGNDに落ちると考えました。

シミュレーションをすると、AUDIO_TXノイズ信号電圧のプラス振幅側は完全に遮断されています。マイナス振幅側は-1.0VでGNDから電流I(Retc)=-200uAが流れ、約-0.4Vの脈動ノイズがAUDIO_RX信号ラインに漏れています。

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(2-2)RXモードにおけるAUDIO_INノイズ信号の振幅感度

AUDIO_INノイズ信号の振幅を0.5Vあるいは0.1Vと小さくすると、AUDIO_RX信号ラインへの漏れは小さくなり、0.1Vでは遮断されているとみなせます。小信号ノイズの遮断には問題ないものと思われます。

電子スイッチの組立

使用するダイオード1SS270A-Eの部品検品のために順電圧を測定したところ、Vf=698mVでした。順電圧のばらつきは電子スイッチの性能には関係しないと思います。

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電子スイッチの組み立て

電子スイッチの測定

VOX回路の測定と同様に、WaveGeneを用いてAUDIO_IN信号を入力し、USBオシロを用いてAUDIO_TX信号電圧およびAUDIO_RX信号電圧を測定しました。

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測定系

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測定の様子(リードを残して裏面からアクセス)
電子スイッチOFF

AUDIO_TX信号を印可するとVOXによりTX回路の電源ラインがDC電源に接続され、電子スイッチにもDC電源が供給されてTXモードになってしまいます。テストのために、AUDIO_TX信号の有無に係わらず電子スイッチをRXモードにする必要があります。そこで、抵抗R51を組み付けないでダイオードのアノードをGNDに落とし、電子スイッチを強制的にOFFにしてRXモードにしました。測定の結果、脈動ノイズはAUDIO_RX信号ラインに漏れていないことが確認できました。

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電子スイッチ強制OFFテスト

実は、LTspiceシミュレーションで脈動漏れを確認する前に測定テストを行いました。ダイオードのアノードを直接GNDに落とすのではなく、抵抗R51介してGNDに落とすべきでした。抵抗R51やその他のTX回路を組み付ける前の回路状態で測定テストを行ったため、脈動ノイズは原理的に発生しないと思われます。とりあえず、その確認まで。

電子スイッチON

抵抗R51を組み付け、電子スイッチを完成させました。AUDIO_TX信号電圧を入力するとVOX回路が電源供給をRX回路からTX回路に切り替え、電子スイッチもONになります。AUDIO_TX信号電圧が、混合器につながるAUDIO_RX信号ラインに正常に伝達されていることが確認できました。

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電子スイッチON

振幅が少し大きくなっているようです。また、AUDIO_RX信号電圧は3Vのオフセットを持っていました。回路が組み立て途中の状態であり、AUDIO_RX信号ラインが解放状態になっているためと考えています。回路完成後に再確認が必要です。

13TR-FT8トランシーバ (9)VOX回路の組立と測定

VOX回路の組立

VOX回路(音声入力を認識すると自動で送信状態に切り替える回路)を組み立てました。

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組み立て中の基板全景とVOX回路

送受信回路の電源ライン系統とアンテナRF信号系統の2系統を切り替えるリレーの存在感が大きいです。また、AF信号を扱う回路のため、10uFの電解コンデンサも4個備えます。ということで、結構大きなフットプリントとなっています。

AUDIO_IN/OUT信号ジャックや二色LEDのケースへの嵌合が気になりますが、組立公差には余裕がありそうです。

VOX回路の測定

PCのAUDIO_TXテスト信号生成ソフト

PCのヘッドフォンジャックからAUDIO_TXテスト信号を出力するソフトウェアとして、フリーウェアのWaveGeneのお世話になりました。

修正(2022/2/3):

リンクを張っていたのですが、切れてしまったようですのでリンクを削除しました。

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WaveGeneのGUI(1kHz周波数-6dB振幅の正弦波を出力中)

高機能なオーディオ信号波形発生ソフトウェアをシンプルなGUIにまとめているため、HELPの参照は必須です。ただし、Windowsのセキュリティの関係から、「コンパイルされた HTML ヘルプ ファイル (.CHM)」はディフォルトでは白紙表示されるようです。セキュリティを確認した後に、CHMファイルの右クリックでプロパティを開いて「承認」にチェックを入れると表示されるようです。セキュリティについては各自の責任により確認する必要があります。

WaveGeneは機能満載ですが、今回は正弦波の周波数と振幅を変更してVOX動作のテストができれば十分です。振幅は16bitの最大値32767を0dBとして、dB値、整数値、%値で指定できます。

PCのヘッドフォンジャックの電圧レベル

AUDIOレベルの確認を行いました。下図の測定系を用いて、AUDIO_IN信号を受けるR43(47Ω)の両端のAUDIO_TX電圧を確認しました。

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AUDIO_IN信号の測定系

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AUDIO_TX電圧レベル(周波数1kHz、振幅0dB)⇒ Relay ON

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AUDIO_TX電圧レベル(周波数1kHz、振幅-38dB)⇒ Relay ON

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AUDIO_TX電圧レベル測定のまとめ
  • 周波数1kHz、振幅0dB(最大)を設定すると、1.2V弱の振幅電圧が測定されました。事前調査で0.5Vを予想していましたが、それより大きくなりました。PCによって振幅は異なる可能性があります。サウンドカードを変更した場合は再確認が必要になりそうです。
  • 振幅-38dB(1.27%)設定で振幅電圧は147mVが測定され、RelayはONしました。振幅-39dB(1.12%)設定に下げると振幅電圧は130mVに下がり、RelayはONできなくなりました。RelayがON可能な振幅電圧レベルのダイナミックレンジは広いため、問題になる場面は少ないでしょう。
    LTspiceシミュレーションでは、200mVでON可能、100mVでON不可能という予測結果を得ていました。今回の測定結果と整合します。

VOXによる送信状態への切り替え速度

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VOX OFF ⇒ ON

上記の測定系を2CHにして、DC_TX電源ラインの電圧測定を追加し、VOXによる送信切り替え速度と過渡応答を測定しました。オシロスコープのトリガーはAUDIO_TX信号の電圧レベル-10mVに設定しました。AUDIO_TX信号はマイナスの位相から始まりますが、-10mVに到達するまでの時間が誤差になります。

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(1-1)200Hz、0dB

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(1-2)200Hz、-34dB

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(2-1)1.0kHz、0dB

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(2-2)1.0kHz、-34dB

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(3-1)2.8kHz、0dB

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(3-2)2.8kHz、-34dB

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VOXによるTX切替の応答時間
  • PCからのAUDIO_TX電圧のパラメータ(周波数、振幅)に対するVOX回路の感度は高くありませんでした。ただし、低周波数200Hz&低振幅-34dBの条件では応答時間が著しく遅れ、83msを要しました。
  • LTspiceシミュレーションによる応答時間の予測は5~22msでした。実測結果は、83msの例外を除いて、予測範囲に入っていました。
  • AUDIO_TX電圧の振幅値は、周波数が高いと約1.2Vよりも小さくなりました。これは過渡状態の間の現象で、時間が経過して定常状態になると約1.2Vに漸近しました。どこかの容量への充電が関係していると思われます。
  • 予想に反して、何れの条件でもリレーのチャタリングが発生しました。リレーコイルのスナバ回路がダイオードスナバであることが原因と考えています。RCDスナバにしてダンピングを調整するとチャタリングを防止できるかもしれませんが、素子が二つ増えてしまいます。
  • 何れの場合も、DC_TX電源電圧が立ち上がる前にマイナスのドロップが発生しました。DC_RX電源電圧の立下りによって引き起こされる過渡応答でしょうか?

LTspiceシミュレーションで予め予測できたことと、実測で判明したことの両方があることが分かりました。