非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

40m QCXのLPF改良設計

QCXのLPF改良設計の方針

前回(https://jk1ejp.hatenablog.com/entry/2021/07/16/132311)からの続きで、QCX元祖LPFにコンデンサを1つだけ付加してCWAZ (Chebyshev with Added Zero) LPFと同じ構成とし、第二高調波に対する抑圧能力を向上したいと思います。オリジナルのCWAZ LPFとは素子値が異なるため、LTspiceを用いたシミュレーションによる検討を行います。

40m QCX LPFの改良シミュレーション結果

QCX元祖LPFの中央のL2は1.7μHでした。これと7.02MHzの第二高調波14.04MHzで共振するCは C=(2\pi f)^2/L  から75.6pFとなります。この周囲の82pF、78pF、75pF、68pFについて、第二高調波に対する抑圧能力を調べました。本来はコンデンサの容量系列に沿って系統的に調べるべきですが、そこまで頭が回っておらず、直観に基づく試行錯誤の結果を後追いでまとめています。

82pF

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82pF: Mag. Ratio -68.60[dBc]

共振周波数は13.5MHz程度と低周波数側にずれていますが、第二高調波に対する抑圧能力は-68.60 dBc(=-65.00-3.60)と十分そうです。7MHzで+3.60dBのリップルが乗ります。遮断周波数は7.5MHz程度となり、9MHzに迫る元祖LPFより通過域が狭くなっていますが、CW運用なら問題ないと信じることにします。

78pF

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78pF: Mag. Ratio -77.26[dBc]

共振周波数は13.7MHz程度とまだ低周波数側にずれています。第二高調波に対する抑圧能力は-77.26 dBc(=-73.81-3.45)と大きくなります。7MHzのリップルは+3.45dBと若干小さくなるようです。遮断周波数に大きな変化は無いように見えます。

75pF

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75pF: Mag. Ratio -86.57[dBc]

共振周波数は14.1MHzと僅かに高周波数側にずれています。第二高調波に対する抑圧能力は-83.26 dBc(=-73.81-3.31)とシミュレーションケースの中では最大を示します。7MHzのリップルは+3.31dBとさらに若干小さくなるようです。遮断周波数に大きな変化は無いように見えます。

68pF

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68pF: Mag. Ratio -65.99[dBc]

共振周波数は14.8MHz程度とさらに高周波数側にずれています。第二高調波に対する抑圧能力は-65.99 dBc(=-63.00-2.99)と小さくなりますが十分です。7MHzのリップルはさらに小さい+2.99dBになります。遮断周波数に大きな変化は無いように見えます。

まとめ

シミュレーション検討結果を下記表にまとめます。どのケースも第二高調波(≒14MHz)トラップ用C追加の効果は大きく、目標の-50dBcを達成しています。7MHzのリップルは追加したCの容量が小さいほど小さくなりますが、何れにせよ約3.0~3.6dBのリップルは生じます。

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シミュレーション検討結果のまとめ

各ケースの周波数応答の結果から、Cを追加すると遮断周波数は7.5MHz程度まで小さくなり、Cの容量に応じた大きな変化は無いように見えます。9MHzに迫るQCX元祖LPFより通過域が狭くなってしまいますが、CW運用なら問題ないかな・・・?

リップルが大きくなり、通過域が狭くなるのは、素子値を最適化したCWAZ LPFとは異なり、QCX元祖LPFの素子値を変更することなく、そのまま流用して第二高調波トラップ用のCを追加したことによる副作用と考えられます。Cの追加措置が元祖LPFの極配置と非干渉化されていないためでしょう。

LPF改造仕様の決定

コンデンサの種類は数多くあります。ここでは実装スペースの関係からSMDタイプを採用することが決定しています。その他に決めなければいけない主要な仕様は、温度特性と定格電圧です。もちろん容量値も!

共振回路に使用するコンデンサの温度特性はC0G(EIA規格、温度係数:±30ppm/℃)が良いとされます。QCX元祖LPFにもC0Gのコンデンサが使用されているようです。運用開始からの時間経過に応じた温度変化でフィルタ特性が変わらないようにするためと思われます。ここでも、温度特性C0Gのコンデンサを選定する方針とします。

定格電圧の選定方法は、非職業的技師には正直良くわかりません。秋月電子通商等で電子回路用のMLCCを探すと、耐圧は50Vが一般的のようです。QCXの出力の尖頭電圧は実測で20数Vです。2倍の余裕はあるが3倍の余裕はないといったところでしょうか。スイッチング駆動されるE級増幅回路のサージ電圧等が尖頭電圧の何倍かは不明です。QCXをSDR(uSDXと呼称)化する方法を提示してくれているDL2MAN局はE級増幅回路の再設計もしており、LPFのコンデンサについて「個人的に100V定格を使用」とホームページで紹介しています。「個人的に」と付くのは、安全を見込んだ仕様値を回路から直に落とすのが難しいからでしょう。安全率不詳の非職業的技師も「個人的に」ムラタのGRM21A5C2Eシリーズ(C0G、定格250Vdc、サイズ2012M、容量ばらつき±5%)を試用してみることにしました。E12系列を千石電商等で入手可能です。E24系列まで必要だとMouser等を探す必要があるようです。

最後に容量値を決めます。そのために行った上記シミュレーションにより、追加したCの容量が75pFより大きいと、共振周波数は第二高調波(≒14MHz)より小さくなることがわかりました。CはLC共振周波数の分母に来るため、逆に75pFより小さいと共振周波数は第二高調波より大きくなります。共振周波数が第二高調波より大きくなればなるほど、第二高調波がフィルタの急峻な減衰スロープを駆け上がってしまい、抑圧能力が急速に小さくなってしまうリスクがあります。ばらつきに対してロバスト(頑健)な設計とするためには、Cの容量のノミナル値が75pFより大きくなるようにした方が安全と考えました。そこで、E12系列の2つのコンデンサ(C1、C2)の組み合わせで実現可能な容量C=78pF(=39+39)に決定しました。容量ばらつき±5%を考慮すると、Cの真値は74.1~81.9pFのどこかになります。この範囲では、共振周波数が第二高調波より小さくなることが期待されます。同じ容量39pFを並列にするのは、ばらつきの相殺を狙ってのことです。調達の手間も少なくなります。

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追加コンデンサC選択の検討

 もちろん、大量生産する訳ではありませんので、LCメータがあれば容量を実測して選別するのがベターです。そのためにはQCX元祖LPFの素子値も組立前に測定しておくべきなのですが。

次回は実際に改造した結果を測定したいと思います。