非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

13TR-FT8トランシーバ (3)RX/TX電子スイッチ

RX/TX電子スイッチのLTspiceモデル

RFアナログ回路に不慣れなため、AUDIO TX(ATX)信号の混合器への入力経路が回路図上で判然としませんでした。ATX信号がつながるTrのQ1とQ2は、RX回路とTX回路にDC12Vを供給する各々の電源ラインを、ATX信号の有無に応じて切り換えるリレー制御の役割だけをしているようです。混合器につながっているのはAUDIO RX(ARX)信号のみであり、AUDIO TX(ATX)信号はつながっていないように見えます。

図面右上の離れたところにある電子スイッチを経由して、ATX信号がARX信号につながり、混合器に入力されていると推測しました。そこで、混合器に進む前に、まず電子スイッチの機能を回路シミュレーションで確認することにしました。

下記にLTspiceに入力したRX/TX電子スイッチの回路図を示します。

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RX/TX電子スイッチのLTspiceモデル
AUDIO信号

PCのヘッドフォン用出力の仕様は判然としませんが、高出力インピーダンスで信号電圧は0.05~0.5V程度との情報から、10.6mA振幅1KHzの正弦波電流源としました。13TR-FT8の入力抵抗R43(47Ω)に対して0.5Vの振幅を発生させます。

RX/TX電子スイッチのLTspiceシミュレーション結果

TXモード

送信時のシミュレーション結果を下記に示します。

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送信モード

0.5V振幅1KHzのAUDIO信号が、DC6V分圧点(eSW)を経由して、AUDIO TX(ATX)からAUDIO RX(ARX)にそのまま転送されていることが確認できました。

RXモード

受信時のLTspiceモデルとシミュレーション結果を下記に示します。

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受信モード

AUDIO TX(ATX)信号が入力されないと、電源ライン切換リレー制御により、TX用電源ラインは解放になるようです。電子スイッチR51はTX回路の他の素子を経由してGNDに落ちます。

分圧点(eSW)がGNDに落ちた結果、分圧点電圧V(esw)およびAUDIO RX(RTX)信号電圧は抑圧されます。AUDIO TX(ATX)からの仮想ノイズに対して、プラス側はほぼ遮断されています。マイナス側は約1/10に抑圧されています。ダイオードD8の極性から、マイナス側に約1/10のノイズが残る非対称性が生じると思われます。

TXモード限界探索

回路シミュレーションのメリットの1つは、仮想限界実験ができることと思います。例えば、ヘッドホン出力と間違えてライン出力をつないだ等による過大入力の仮想実験が簡単にできます。

AUDIO TX(ATX)信号の電流源振幅を約20倍の200mAにした時の結果を下記に示します。

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TXモード過大入力の検討

AUDIO TX(ATX)信号の電圧V(atx)の振幅は8Vを超えます。マイナス側はそのままAUDIO RX(ARX)に出力されますが、プラス側は6V弱で飽和します。分圧点電圧V(esw)の上限は、ダイオードD8の逆流阻止により電源電圧DC12Vになるからです。

よって、RX/TX電子スイッチから見たAUDIO TX(ATX)信号の上限は、入力抵抗に6Vを発生させる127mA、766mW(28.8dBm)になります。