混合器のLTspiceモデル
13TR-FT8トランシーバの混合器はSBM(Single Balanced Mixer)です。その動作は紙面による定性的な説明だけでは分かり難いため、回路シミュレーションの課題として好適です。
作成した混合器のLTspiceモデルを下記に示します。
伝送線路トランス
LTspiceモデルを作成する上での難関は、FT37-43コアに8回Trifilar(等長3本撚線)巻きをした伝送線路トランスです。LTspiceの標準モデルに伝送線路トランスは含まれていないため、3個の極性付きインダクタを用いて作ります。下記のWebページを参考にさせて頂きました。
1次側LO入力のインダクタは、既に局部発振器のシミュレーションの負荷として作成しました。
2次側にも同じインダクタを2つ準備し、極性に注意して結線します。しかし、「FT37-43コア8回巻き」のインダクタを3個準備しただけで「Trifilar巻き」のモデルになるのでしょうか。
「Trifilar巻き」は磁気結合の強さを決めていると考え、結合係数K=1(漏れなし)としました。実情は結合係数の真値が分からないことによる近似です。LTspiceへの指示命令として、「K L11 L12 L13 1」を図面に置きます。
アッチネータ
教科書ではSBMの後段にも伝送線路トランスが置かれていますが、13TR-FT8トランシーバではアッチネータPadが付いています。インピーダンスの不整合緩和に効果があるとのこと。下記Webページで計算すると、減衰5.6dB、インピーダンス68ΩのPadでした。
LO
SBMへの入力は、過去の局部発振器のシミュレーション結果から、4V振幅7.074MHz正弦波の電圧源としました。実際は歪があるため高調波もSBMに入力されますが、ここでは理想モデルとします。
AUDIO TX(ATX)
前回(13TR-FT8トランシーバ (3)RX/TX電子スイッチ - 非職業的技師の覚え書き)の結果に基づき、AUDIO TX信号は1KHz正弦波の電圧源としました。4V、1V、0.5V、100mV、50mVの各振幅に対して、SBMのRF出力の変化を調べました。
混合器のLTspiceシミュレーショ結果
ATX = 4V正弦波
ATX入力(紫)とRF出力(緑)をプロットしました。RF出力は大信号のLO入力をキャリア周波数7.074MHzとして塗り潰されています。
ATX入力のオーディオ周波数1KHzとRF出力の振幅変動の周波数は一致し、変調されていることが分かります。ただし、ATX入力もLOと同じレベルの大信号としたため、本来のSBMの使い方とは異なるためか、プラス側とマイナス側でバランスした綺麗な変調波にはなっていません。
ATX = 1.0V正弦波と0.5V正弦波
プラス側とマイナス側で変調のバランスが改善し、DSBに近づきました。
ATX = 0.1V正弦波と50mV正弦波
変調のバランスがさらに改善しましたが、この辺がSBMの限界のようです。
ATX = 0V(無変調)
AUDIO TX信号を0Vにすると、SBMの出力RF信号は10f(femto:10^-15)V程度のノイズになります。本当かどうか不明ですが、シミュレータからノイズが出てくるのは驚きです。計算ループの中でサイコロを振っているのでしょうか。