局部発振器の水晶振動子実測
過去に報告した通り、局部発振器のLTspiceシミュレーションの発振周波数が合わないことが気になっていました。
他の方の8MHz水晶振動子の等価回路パラメータを流用してバックキャストで7.074MHzに調整したモデルを使用したことが原因の1つと考えられました。そこで、治具を取り寄せ、13TR-FT8トランシーバ の水晶振動子の等価回路パラメータをNanoVNAを用いて実測しました。
測定方法
JH1UMV局 cho45さんの下記Blogを参考にさせて頂きました。
Cp(Holder Capacitance)、fs(Series Resonance Frequency)、fp(Parallel Resonance Frequency)、Rs(Series Resistance)を実測し、Ls(Motional Inductance)とCs(Motional Capacitance)はそれらの実測値から算出します。
Cp(Holder Capacitance)測定
Cpは水晶片のサイズや封止パッケージに依存した容量パラメータです。Peak社のLCRメータを使用して実測しました。ACインピーダンス解析法で測定しており、測定周波数は自動で200kHzが選択されているようです。
fs(Series Resonance Frequency)とfp(Parallel Resonance Frequency)の測定
fsとfpは水晶振動子の直列共振周波数と並列共振周波数です。NanoVNA-H4(純正品・・・と思います!?)のCH0とCH1の間に水晶振動子を取り付け、fsをS11反射係数(S11 Return Loss or CH0 LOGMAG)の最小値から、fpをS21伝送係数(S21 Gain or CH1 LOGMAG)の最小値から、それぞれ求めました。
普段のSWR測定ではCH0のキャリブレーションしか行わないため、今回は治具(Test Board Kit)を準備してCH1のキャリブレーション(アイソレーションとスルー)もしっかり実施しました。治具の回路接続は短絡用ピンヘッダを2階に準備して組み替えます。下記写真はピンヘッダの接触抵抗を含めて校正用Load抵抗をDMMで測定するための接続です。治具に付属の49.9Ω表記のチップ抵抗は実測49.7Ω(-0.4%)でした(DMMの精度は不問)。
直列共振周波数fsはS11反射係数とS21伝送係数の両方でピークを持ちますが、S11反射係数のピークの方がシャープです。測定点数固定のNanoVNA本体では周波数の分解能を上げるために細かく掃引範囲を調整する必要があるため、複数回の測定Segmentのデータをつなぎ合わせることにより周波数分解能を上げることのできるNanoVNA Saver 0.3.8 ソフトウェアを使用しました。結果から判断すると、本体測定でも精度は問題なかったかもしれません。掃引後にチャート選択と設定を試行錯誤で変更できること、設定と結果をPCにファイルで残せること、タッチパネル操作のストレスが無くなること等がNanoVNA Saver使用の利点です。
Rs(Series Resistance)測定
Rsは水晶振動子の直列抵抗です。NanoVNA-H4のCH0に水晶振動子を接続して、スミスチャートの測定原理からリアクタンス成分の影響が小さくなる直列共振周波数fs付近で測定しました。具体的な掃引は中央をfs、Spanを1kHzに設定しました。
Cs(Motional Capacitance)とLs(Motional Inductance)の算出
は、並列共振周波数と直列共振周波数の間の下記関係式から、、、の各測定値を用いて算出します。
は、直列共振周波数の下記関係式から、上記の算出値と直列共振周波数の測定値を用いて算出します。
まとめ
得られた7.074MHz水晶振動子の等価回路パラメータを下記にまとめます。
現物の水晶振動子はバックキャストした値よりも少し高い共振周波数を持っていることが判明しました。ただし、前回の8MHz水晶振動子からバックキャストした等価回路パラメータも大きくかけ離れた値ではありませんでした。
LTspiceシミュレーション再び
LTspiceシミュレーションによって求めた局部発振周波数を下記に示します。
今回の等価回路パラメータ実測値と前回の8MHz水晶振動子からのバックキャスト値に大きな違いは無かったため、やはり発振周波数は小さく出ました。C46の50pFトリマーを振ってみましたが、微調整用なので10kHzのオーダーは変わりませんでした。
シミュレーションやモデルに瑕疵がなければ、考慮できていない基板の寄生容量や浮遊容量の影響を加味した設計になっていると考えます。実際に回路を組んで検証したいと思います。