非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

13TR-FT8トランシーバ (6)局部発振器の組立と測定

局部発振器の組立

13TR-FT8トランシーバの局部発振器(LO)を先行して組み立て、発振周波数の評価を行いました。

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局部発振器(LO)

DCプラグ、電源スイッチ、電解コンデンサといった背の高い電源系統の部品も最初の段階で組み付けました。それらは今後の組み立ての邪魔になりますが、機能モジュール毎に組み立てを行い機能を確認しながら進める方が、問題発生時の原因の切り分けが容易になると考えました。特にLOはLTspice回路シミュレーションで発振周波数がズレる問題があるため、現物で早く確認したいと思っていました。

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局部発振器(LO)の組み立て

LOの水晶振動子(7.074MHz)はソケットに仮組としました。丸ピンIC用シングルソケットから3連分を折り、中央の金属の足の細径部を折って太径部が基板と接しないようにヤスリでオフセットを付けて仕上げました。両端部の足はスルーホールの間隔と合います。ラダーフィルタも同じ寸法間隔のようです。

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水晶振動子の実装用ソケット

局部発振器の評価

発振波形の評価

Q5のエミッタフォロワTrのエミッタ抵抗R35の電圧をUSBオシロスコープ(Analog Discovery 2)で測定しました。PC側のソフトはWaveForms3です。

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発振波形確認のための測定系

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測定の様子

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WaveForms3の画面

WaveForms3画面の上段は発振波形、下段はそのFFT処理結果です。Analog Discovery 2のサンプリング速度は100MS/s(Sample per second)のため、確認できる上限の周波数は50MHzです。

波形が歪みを含み、高調波が高次のものまで発生していることが分かりました。調べてみると、コルピッツ発振回路(周波数調整用のC46があるのでクラップ発振回路?)の波形は歪を含むのが普通のようです。水晶振動子を使うと正弦波で発振するというのはまったくの思い込みでした。水晶振動子を使う理由は高い周波数精度の方にあります。高調波は後段の水晶ラダーフィルタや終段のLPFで抑圧することになります。

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WaveForm3の測定機能による波形パラメータの測定結果

波形パラメータの測定結果において、発振周波数は7.0741MHzが得られました。ただし、これはカット&トライを何回か試行して偶然得られた値です。試行毎に大きなばらつきがあります。Analog Discovery 2のサンプリング速度100MS/sから、7MHzの1サイクルのサンプル点数は約14点(=100MS/s / 7MHz)になります。何周期分のデータをFFTの対象にしているのかは不明ですが、発振周波数の評価には荷が重そうです。

発振周波数の評価は後述の別の方法に委ねるとして、発振波形の評価を行いました。下図の左(1)が先に報告したLTspiceシミュレーション結果、右(2)が今回の実測結果です。

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発振波形の評価

LTspiceシミュレーションの電源設定はDC12Vとしましたが、実測ではDC13.8Vを供給しました。LTspiceシミュレーションのPeak2Peakは約8.4V。これを電源電圧DC12Vから13.8Vへの昇圧で比例補正すると約9.7Vになります。実測のPeak2Peakは10.4Vで近い値を示しました。

波形を目視すると、両者共に立下りはスムーズです。一方、立ち上がりは途中で変曲するショルダー部を両者共に持ちます。LTspiceシミュレーションにより、定量的発振周波数は正確には予測できませんでしたが、定量的振幅および定性的な波形歪の特徴は事前に予測できていたようです。

発振周波数の評価

発振回路からの輻射をミニホイップアンテナで受信してUSBドングルSDR(SDRplay RSP1A)で測定しました。PC側のソフトはSDRuno(最新Rel. 1.41)です。

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発振周波数確認のための測定系

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SDRunoの画面表示

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Main SP画面の拡大

回路基板とミニホイップアンテナの距離は配線長の制約から約0.8mありましたが、Bias-T(アンテナ内臓のインピーダンス変換回路へのDC電圧同軸重畳供給)をONにしたところ、十分な感度で受信できました。

上記画面は、周波数調整用のC46トリマを調整して7,074,004Hzまで追い込んだ結果を示しています。トリマをスラスト方向に押しただけで周波数がズレるほど感度が高いのですが、2~3回の試行で+4Hzまで調整できました。

発振周波数の近接領域にも不要輻射が見られます。回路から輻射されているのか、測定系のノイズかは不明です。今後、後段のフィルタによる抑圧を確認したいと思います。

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RBW = 5.09Hz

今回、SDRunoについて新しい発見がありました。RBW(Resolution Bandwidth:分解能帯域幅)は約30Hzが最小と思っていましたが、特定の操作を行うとRBW=5.09Hzを達成できました。操作手順は、RX CONTROL画面でBands -> 40mを選択してから周波数を合わせ、MAIN SP画面のZOOMあるいはRBWを切り替えるだけです。RBWはFFTに入力する時系列信号のサンプリング点数に依存していると思うのですが、直接設定できるかどうかは不明です。

LTspiceとの整合

水晶振動子のパッケージ表記の発振周波数(7.074MHz)が得られることが確認できました。なぜ、LTspiceの周波数は低くズレるのかは不明です。調べても下記の原因候補しか得られませんでした。

  • 負荷容量のマッチングが反映されていない。
  • 寄生容量や浮遊容量が反映されていない。
  • モデルが不整合

LTspice水晶振動子の等価回路に負荷容量に相当するパラメータが無いため、負荷容量のマッチングは常に取れていると考えています。

寄生容量や浮遊容量が追加されると発振周波数はさらに低くなるのではないかと思われます。

Trの2N4401のLTspiceモデルには下記の通り数多くのパラメータが定義されています。
.model 2N4401   NPN(Is=26.03f Xti=3 Eg=1.11 Vaf=90.7 Bf=4.292K Ne=1.244 Ise=26.03f Ikf=.2061 Xtb=1.5 Br=1.01 Nc=2 Isc=0 Ikr=0 Rc=.5 Cjc=11.01p
+ Mjc=.3763 Vjc=.75 Fc=.5 Cje=24.07p Mje=.3641 Vje=.75 Tr=233.7n Tf=466.5p Itf=0 Vtf=0 Xtf=0 Rb=10 Vceo=40 Icrating=600m mfg=Fairchild)
Fairchildとは異なるメーカのパラメータが全て一致するとは思えません。例えば、onsemiのデータシートを見ると、Rise Time Tr=20ns(Max)、Fall Time Tf=30ns(Max)となっており、桁が異なります。位相遅れの想定が異なるなどの想像が働きます。

正確なシミュレーションには正確なモデルが必要との暫定結論とさせて頂きます。