非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

13TR-FT8トランシーバ (10)電子スイッチの組立と測定

スイッチング・ダイオード代替品

問題発生

ダイオード1N4148は小さい部品のため、大物部品を組付ける前に5本の1N4148を全て実装しました。

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と思ったら、電子スイッチ用のダイオードが足りません。6本必要でした。紛失?と思いましたが、着荷時の写真を確認すると確かに5本しか写っていません。

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電子スイッチはAUDIO_TX信号のAUDIO_RX信号ラインへの漏れを防止するために後から追加した回路とのことですので、中国でのキット袋詰め時にカウントを間違えたのかもしれません。着荷時の部品員数確認が疎かでした。今更、頒布元のお手を煩わせるのも恐縮なため、自己調達あるいは代替品を検討しました。

代替品の検討

1N4148は秋月電子通商でも取り扱いがあり、1パック(50本)¥100、1本¥20です。1N4148の秋月電子通商ホームページ(https://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-00941/)の説明を引用させて頂きます。

フェアチャイルド小信号用汎用ダイオード1S1588、1S2076Aに代わる汎用ダイオードです。日本では1S1588(現在廃盤)や1S2076Aよく知られた小信号用ダイオードですが、世界的には1N4148が汎用ダイオードとして一般的です。海外のインターネットで公開されている回路にはほとんど1N4148が使われています。

なるほど、13TR-FT8トランシーバでも使われている訳です。汎用ダイオードなので在庫しても良いのですが、50本購入でも送料が何倍にもなってしまいます。他の部品と抱き合わせて購入する機会でもないと踏ん切りがつきません。組立時期が遅くなりそうです。

この機会に過去の注文履歴を調べたところ、すっかり失念していましたが、1SS270A-Eを在庫していることが判明しました。

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1SS270A-Eの秋月電子通商ホームページ(https://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-06191/)の説明を引用させて頂きます。

1S1588,1S2076Aに代わる汎用ダイオードです。
1S1588より耐圧が高く、電流が多く流せます。
1S2076Aよりも外形が小さいです。

どうやら同じ1S15881S2076Aを代替できるようです。3段論法を駆使?すれば、保有する1SS270A-Eは不足した1N41418を代替できる可能性があります。主なスペックを比較しました。

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ダイオード比較表

1SS270A-Eの方が小信号向けの仕様ですが、その分高速です。今回の電子スイッチの用途には問題ないと判断しました。念のためLTspiceシミュレーションによる確認を行いました。

LTspiceシミュレーションによる確認

前回のVOX回路の測定で、AUDIO_TX信号電圧はMax. 1.2V弱であることが確認できたため、今回のLTspiceシミュレーションのAUDIO_TX信号電圧は1Vに設定しました。

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(1-1)TXモード

TXモードでは、AUDIO_TX信号電圧がそのまま混合器につながるAUDIO_RX信号電圧に反映されます。厳密には、プラス側振幅が少し減衰しています。

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(1-2)TXモードにおけるダイオード電極の電位

この時のダイオード1SS270A-Eのカソード電位V(D_K)とアノード電位V(D_A)を調べると、順電位0.8V分の電位差があります。カソードとアノードは共に抵抗1kΩを介してGNDおよびDC12Vに接続しているため、6±0.4Vを平均電位としてAUDIO_TX信号電圧が重畳しています。

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(2-1)RXモード

RXモードでは、VOX回路のリレーの中でTX回路のDC電源ラインは解放になるようです。この時に回路全体では、TX回路のDC電源ラインはトランジスタのバイアス回路の抵抗やパスコンを介してGNDに落ちると考えました。

シミュレーションをすると、AUDIO_TXノイズ信号電圧のプラス振幅側は完全に遮断されています。マイナス振幅側は-1.0VでGNDから電流I(Retc)=-200uAが流れ、約-0.4Vの脈動ノイズがAUDIO_RX信号ラインに漏れています。

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(2-2)RXモードにおけるAUDIO_INノイズ信号の振幅感度

AUDIO_INノイズ信号の振幅を0.5Vあるいは0.1Vと小さくすると、AUDIO_RX信号ラインへの漏れは小さくなり、0.1Vでは遮断されているとみなせます。小信号ノイズの遮断には問題ないものと思われます。

電子スイッチの組立

使用するダイオード1SS270A-Eの部品検品のために順電圧を測定したところ、Vf=698mVでした。順電圧のばらつきは電子スイッチの性能には関係しないと思います。

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電子スイッチの組み立て

電子スイッチの測定

VOX回路の測定と同様に、WaveGeneを用いてAUDIO_IN信号を入力し、USBオシロを用いてAUDIO_TX信号電圧およびAUDIO_RX信号電圧を測定しました。

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測定系

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測定の様子(リードを残して裏面からアクセス)
電子スイッチOFF

AUDIO_TX信号を印可するとVOXによりTX回路の電源ラインがDC電源に接続され、電子スイッチにもDC電源が供給されてTXモードになってしまいます。テストのために、AUDIO_TX信号の有無に係わらず電子スイッチをRXモードにする必要があります。そこで、抵抗R51を組み付けないでダイオードのアノードをGNDに落とし、電子スイッチを強制的にOFFにしてRXモードにしました。測定の結果、脈動ノイズはAUDIO_RX信号ラインに漏れていないことが確認できました。

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電子スイッチ強制OFFテスト

実は、LTspiceシミュレーションで脈動漏れを確認する前に測定テストを行いました。ダイオードのアノードを直接GNDに落とすのではなく、抵抗R51介してGNDに落とすべきでした。抵抗R51やその他のTX回路を組み付ける前の回路状態で測定テストを行ったため、脈動ノイズは原理的に発生しないと思われます。とりあえず、その確認まで。

電子スイッチON

抵抗R51を組み付け、電子スイッチを完成させました。AUDIO_TX信号電圧を入力するとVOX回路が電源供給をRX回路からTX回路に切り替え、電子スイッチもONになります。AUDIO_TX信号電圧が、混合器につながるAUDIO_RX信号ラインに正常に伝達されていることが確認できました。

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電子スイッチON

振幅が少し大きくなっているようです。また、AUDIO_RX信号電圧は3Vのオフセットを持っていました。回路が組み立て途中の状態であり、AUDIO_RX信号ラインが解放状態になっているためと考えています。回路完成後に再確認が必要です。