非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

13TR-FT8トランシーバ (12)緩衝増幅器のLTspiceシミュレーション

修正記録

  1. 2021年11月23日
    RF小信号のエミッタ接地抵抗を10Ωにするバイパスコンデンサ103(=0.01μF=10nF=10×10^3pF)の値を100pFと間違えていました。2桁異なるため、7MHz小信号電圧のバイパス回路通過率は4%に縮小し、増幅率が低下していました。0.01μFに修正した時のバイパス回路通過率は97%になります。0.01μFに修正したシミュレーション結果に差し換えました。

電流帰還型バイアス回路?

送信(TX)信号および受信(RX)信号が通過するラダー型水晶フィルタの両側にTrが各々2個、計4個配置されています。各々の回路素子はエミッタ接地抵抗1個を除いて共通です。TX回路もRX回路も混合器側のエミッタ接地抵抗が470Ω、アンテナ側が220Ωです。

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どのTr(2N4401)の直流ベース電圧も、2.2kΩと1kΩによる同じ構成の分圧回路により決められています。一見、エミッタ接地抵抗によってベースエミッタ間電圧を自動調整する電流帰還型バイアス回路に見えますが、分圧しているのは電源電圧ではなくコレクタ電圧になっています。

この場合、増幅率が例えば大きくなる方向に変動すると、コレクタ電流が増えて、エミッタ電圧が上昇し、コレクタ電圧が下降するものと思われます。これにより、コレクタ電圧を分圧するベース電圧も下降します。両者の合わせ技で、ベースエミッタ間電圧(ベース電圧 ー エミッタ電圧)への電流帰還が増幅率を小さくなる方向により強力に作用するのでしょうか。

LTspiceによる直流動作点解析

エミッタ接地抵抗(470Ω/220Ω)の違いによる直流動作点をLTspiceにより調べました。

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エミッタ接地抵抗をパラメータにしたIc/Vb/Ve直流動作点解析の結果(*1)

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エミッタ接地抵抗をパラメータにしたIc/Vc直流動作点解析の結果(*1)

エミッタ接地抵抗を約2倍(220 → 470Ω)に大きくすると、エミッタ電圧Veが少し大きくなります(2.01→ 2.32V)。ベース電圧Vbも少し大きくなる(2.69 → 2.98V)ため、両者の差であるベースエミッタ間電圧Vbeはほぼ一定に維持されています。コレクタ電流Icは約半減(9.1 → 4.9mA)しています。近似的には、エミッタ接地抵抗によってコレクタ電流Icが決まることを示しています。

LTspiceによる過度解析

Trのベースに交流小信号を入力し、出力のコレクタ電圧を調べました。混合器(SBM)のDSB出力の振幅は約500mVであったため、振幅500mV、周波数7074KHzのSIN波を入力しました。

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小信号増幅(エミッタ接地抵抗470Ω)過渡解析の結果(*1)

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小信号増幅(エミッタ接地抵抗220Ω)過渡解析の結果(*1)

SBMからのRF小信号はTrのベース電圧Vbに重畳され、コレクタ電圧Vcに転写されることが分かり(*1)ます。エミッタのパスコンを通過するRF小信号に対するエミッタ接地抵抗は10Ωであり、増幅歪みを発生させない構成になっていると思います(*1)RF小信号の正のサイクルでコレクタ電流が増幅され、コレクタ電圧が低下しています。負のサイクルではベースエミッタ間電圧Vbe(= Vb - Ve)が小さくなり、コレクタ電流は遮断されてしまうようです。これにより、増幅歪みは大きくなっています。

RF小信号の電圧増幅率は、エミッタ接地抵抗が470Ωの場合に9倍(=4.5 / 0.5V)、220Ωの場合に13.6倍(6.8 / 0.5V)です。どちらのTrも緩衝増幅器の役割を果たしていると思われます(*1)すだけでなく、RF増幅器の役割も果たしているようです