非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

13TR-FT8トランシーバ (17)LPFへの第二高調波トラップの追加

背景

13TR-FT8トランシーバの組み立て中の個体に対して、ケース封入前の参考値ではありますが、第二高調波の強度を測定したところ、基本波に対して47.9dBcという結果になりました(参照:13TR-FT8トランシーバ (16)電力増幅器の測定 - 非職業的技師の覚え書き)。

LPFは、λ/4 π型ローパスフィルタの3段接続構成になっていると思われます。コンデンサは各々1個で実装するために容量値に妥協があり、7MHzにおいて両端のコンデンサインピーダンスは58Ω、中央が53Ωと多少のばらつきはあるようです。コイルのインピーダンスは45Ωです。測定の結果、LPF各段の第二高調波抑圧能力は約13dBcでした。3段で約39dBcとなります。LPF入力前の第二高調波の強度の測定結果は9.7dBcでしたので、積み上げ方式でも50dBcの達成にあと一息足りないという同じ結論になります。

抑圧能力を増強する方法の1つは、λ/4 π型ローパスフィルタの1段増設です。61dBcを達成できると予測されます。ただし、コンデンサ1個の増設はともかく、トロイダルコイル1個の増設があい路になります。

抑圧能力を増強する2つ目の方法は、第二高調波トラップ機能の追加です。設計上はコンデンサ1個の増設で済みます。ただし、共振を利用してトラップするため、既存のトロイダルコイルに合わせた容量設計値をコンデンサ1個で実装することは難しく、2個を組み合わせて必要な容量設計値を実現することを目指します。

設計

既に前々回において設計検討した結果を採録します(参照:13TR-FT8トランシーバ (15)電力増幅器の組立とLTspiceシミュレーションの再確認 - 非職業的技師の覚え書き)。

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第二高調波トラップ付きLPFの容量探索(実測値反映)

LTspiceシミュレーションを用いて探索した結果、第二高調波トラップに最適な追加コンデンサC0の容量値は129pFとなりました。トラップが理想的に機能した時の抑圧能力は85dBcと推定されます。もちろん理想の達成は難しく、現実的な目標はλ/4 π型ローパスフィルタの1段増設時に匹敵する61dBcの達成です。

FT8の15秒連続送信時にトロイダルコイルはある程度の熱を持つと予想されるため、温度変動によってトラップ周波数が外れないようにC0G温度特性(温度係数:0±30ppm/℃)のコンデンサを採用します。

129pFを82pFと47pFの組み合わせで達成することにして、手持ち在庫にある以下のチップ積層セラミックコンデンサ(2012サイズ)を採用しました。千石通商にて150円/10個で過去に購入したものであり、コスト30円の機能追加になります。

  •  250V C0G 82pF ±5%:GRM21A5C2E820JW01D(ムラタ)
  •  250V C0G 47pF ±5%:GRM21A5C2E470JW01D(ムラタ)

組立

まず、2個のコンデンサを並列に逆作用ピンセットで挟み合わせ、はんだ仮付けで一体化します。慎重に作業しないと、逆作用ピンセットの復元力で簡単にチップを天井に向けて打ち上げてしまいます(経験あり)。

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つぎに、L2を挟むC39とC40のリードを利用して、基板裏面に実装しました。リードで無暗に引き回さない方が良いと思いますが、絶縁テープで包むことを考えてリード付けとしました。

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はんだ鏝が熱いうちにと気がはやり、基板に実装する前に容量値を実測することを失念してしまいました。追加コンデンサの公差±5%により、容量の真値は122~135pFのどこかにあります。トラップを追加したLPFの周波数特性は、上記LTspiceシミュレーションで試行した121pF~133pFの特性の範囲内のどこかにあるものと思われます。コンデンサの選定を行わないと、抑圧能力はMin.59~Max.85dBcの範囲内でばらつくことになります。

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コンデンサの公差による第二高調波抑圧能力のロバスト

測定

出力の測定方法は前回と同じです。50Ω Dummy Load の電圧を測定しました。Audio TX信号の周波数は2,000kHzです。

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電源投入直後の測定結果

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電源投入直後の測定結果(出力:3.1W)

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電源投入直後の測定結果(第二高調波抑圧:63.0dBc)

電源投入直後の出力電圧は、35.7Vp-p、12.5Vrms、3.1Wでした。第二高調波の抑圧能力は63.0dBc(= 1.755 + 61.269)に向上したことが確認できました。

パワーアップには驚きました。LPFの改造によって、潜在していた挿入損失が減ったのでしょうか? それにしてもノミナル1W機に対して大き過ぎます。悩んでいる最中、暖機運転が進むとパワーは減少して行きました。

暖気運転後の測定結果

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電源投入直後の測定結果(出力:1.9W)

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暖気運転後の測定結果(第二高調波抑圧:62.9dBc)

暖気運転後の出力電圧は、27.9Vp-p、9.8Vrms、1.9Wに収束しました。LPF改造前の出力と同じ値です。第二高調波の抑圧能力は62.9dBc(= -0.1185 + 63.0625)に向上したことが確認できました。抑圧能力は電源投入直後と同じ値です。

測定結果のまとめ

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LPFに第二高調波ウェーブトラップ機能を追加する改造により、挿入損失には変化が無く、第二高調波抑圧能力は47.9dBcから62.9dBcに向上することが確認できました。使用したコンデンサの容量値公差(±5%)から、想定内の妥当な結果が得られたと思います。目標は達成できました。

電源投入直後に出力が大きい理由は不明です。暖機運転後に終段トランジスタは触れないほど熱くなっていました。2N4401のデータシートには125℃のhFE特性曲線が掲載されているため、コレクタ電流が大きいときに125℃に発熱していても異常ではないと思います。

しかし、トランジスタの物性では、高温になるとベースエミッタ間のしきい値電圧が小さくなり、hFEが大きくなるとのこと。2N4401のデータシートのhFE特性曲線もそのようになっています。エミッタ抵抗によって負帰還が掛かることにより出力が発散しないことは理解できますが、減少することがあり得るのか分かりません。

電源投入直後の周波数スペクトルを見ると、測定帯域全体でノイズレベルのベースが増大していることが気になります。暖機運転が必要なのは、USBオシロの方なのでしょうか? しかし、検索しても、温度安定性に関する話題は何もないようです。

キットには組立スキルのばらつきが反映されます。以上の結果は非職業的技師の未熟な組立スキルが反映された個体の特性であることをお断りしておきたいと思います。