非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

13TR-FT8トランシーバ (18)組立完

f:id:amat49:20220102020652p:plain

元旦、快晴。丹沢の彼方に雪を被る富士山頂が良く見えていました。

組立完

年末に、残る受信部の3つのトランジスタ(Q3、Q7、Q8)を組み付け、13TR-FT8トランシーバ の組み立てを完了しました。

f:id:amat49:20220102032715p:plain

ただし、アンテナの準備ができていないため、受信部のテストはまだできません。まず、ケースに封入した状態での送信部の最終評価を行いました。

空中線電力の評価

測定系

USBオシロによる7MHzのRF波形測定の精度には確信が持てないため、ダミーロード(QRP Labs)に付属する整流検波回路を利用して50Ω終端電圧測定を試みました。測定系を下記に示します。

f:id:amat49:20220102134258p:plain

空中線電力の測定系
測定結果

整流ダイオード(1N4004)の電圧降下を予め測定したところ、0.61Vでした。AUDIO周波数2kHz入力時の7.076MHzのRF検波電圧は13.20Vでした。これより、peak-to-peak電圧Vp-p=27.62V、実効値Vrms=9.76V、電力P=1.91Wとなりました。USBオシロで測定した電力P=1.9Wと同じ結果が、異なる測定系からも得られました。

スプリアス領域における不要発射の強度の評価

許容値

空中線電力は「1Wを超え5W以下」に該当するため、スプリアス領域における不要発射の強度の許容値は「50μW以下」(-13dBm以下)になると思います(無線設備規則別表第三号(第7条関係)41参照)。

一方、基本周波数の尖頭電力は1.9W(32.8dBm)でしたので、基本波から-45.8dBc以下であれば許容値に収まります。QRPということで、-50dBcより少し条件が緩和されるようです。

ケース封入前のUSBオシロによる参考値ですが、オリジナルLPF評価時の第二高調波の強度は基本波に対して-47.9dBcでした。解釈に間違いがなければ、LPF改造の必要なく規則を満たしていたようです。以下はLPFを改造(第二高調波トラップ機能の追加)した個体のスプリアス測定であることにご注意ください。

測定系

USBオシロのスペクトルアナライザソフトを用いた評価はサンプリング周波数の点から精度に確信を持てないため、tinySAを用いた下記の測定系を用いて評価しました。

f:id:amat49:20220102143542p:plain

スプリアス領域における不要発射の強度の測定系

f:id:amat49:20220102144250p:plain

スプリアス領域における不要発射の強度測定の様子

f:id:amat49:20220102145327p:plain

13TR-FT8の出力電力は1.9W、32.8dBmでした。20dBカップラからの分岐電力は12.8dBmになります。ステップアッチネータの減衰SW設定は20dBとし、tinySAへの入力を-7.2dBmに制限しました。

tinySA-APPソフトウェアを用いることによって測定点数を増やし、自動設定のRBWが小さくなる影響を見ました。測定スパンは1から71MHzに設定しました。

測定点数:1,000点

f:id:amat49:20220102152948p:plain

測定点数:1,000点、第二高調波:-57.4dBc

第二高調波の強度は基本波に対して-57.4dBcとなり、スプリアス規格を満足します。ノイズフロアは約-75dBmであり、第三高調波(マーカ2)まで見えています。

測定点数:3,000点

f:id:amat49:20220102165817p:plain

測定点数:3,000点、第二高調波:-55.4dBc

第二高調波の強度は基本波に対して-55.4dBcに増加しましたが、スプリアス規格を満足します。ノイズフロアは約-80dBmであり、第六高調波(マーカ5)まで見えています。

測定点数:10,000点

f:id:amat49:20220102170109p:plain

測定点数:10,000点、第二高調波:-54.4dBc

第二高調波の強度は基本波に対して-54.4dBcに増加しましたが、スプリアス規格を満足します。ノイズフロアは約-83dBmであり、第五高調波(マーカ4)まで見えています。

まとめ

第二高調波の強度(基本からの減衰量)を下記にまとめます。変動があるため2回測定しました。

f:id:amat49:20220102173258p:plain

1回目は基本波の電力が減少しています。2回目はtinySAへの想定入力電力-7.2dBmに近い値の約-6.7dBmに収束しています。コールドスタートからの暖機運転の影響があるものと思われます。

LPFの改造(第二高調波トラップ機能の追加)により、第二高調波の強度(基本波からの減衰量)は-54dBc以下が得られ、スプリアス規格を満足します。USBオシロの測定結果は-63dBcだったため、-10dBc近くの測定誤差が確認されました。やはり、USBオシロでのRF測定は難しいのかもしれません。

帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の評価

許容値

空中線電力は「1Wを超え5W以下」に該当するため、帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の許容値は「50mW以下であり、かつ、基本周波数の平均電力より40dB低い値」(-13dBm以下)になると思います(無線設備規則別表第三号(第7条関係)41参照)。50mW(17dBm、-15.8dBc)以下より厳しい規格である-40dBc以下を確認します。

tinySAによる測定試行

f:id:amat49:20220102202804p:plain

tinySAによる帯域外領域スプリアス発射強度の測定試行結果

tinySAについては各技術誌に解説記事が掲載されています。それらを参照することによって予め分かっていたことではありますが、tinySAによる帯域外領域(±10kHz)の評価は困難であることが改めて確認されました。7074+2kHzに基本波スペクトルの中心があることは分かりますが、スプリアス発射強度の評価は困難です。

測定系

そこで、今回もQCX+の評価と同様にUSBドングルSDR(SDRplay RSD1A)を用いることにしました。

今回の測定系を下記に示します。tinySAをRSP1Aに換装すれば準備完了です。ただし、ステップアッチネータは最大の41dBに設定し、カップラと合わせて61dBの減衰を行います。これにより、1.9W、32.8dBmの電力を-28.2dBmまで減衰させ、RSP1Aに入力します。さらに30dB減衰させても良いぐらいですが、手持ちのアッチネータがありません。

f:id:amat49:20220102204830p:plain

帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の測定系
測定結果(0)AUDIO周波数2,000Hz

基本としているAUDIO周波数2,000Hz入力時の帯域外領域スプリアス発射強度の測定結果を下記に示します。RBWは5.09Hzです。

f:id:amat49:20220102211449p:plain

AUDIO周波数2,000Hz入力時の帯域外領域スプリアス発射強度の測定結果

基本波の受信強度は-29.3dBmであり、ほぼ計画通りの値になっています。

7074+2kHzの基本波の左側にはキャリア漏れや逆サイドバンド側のイメージが観察され、右側にはAUDIO周波数の第二高調波や第三高調波が観察されます。これらは全て基本周波数の平均電力より40dB以上低い強度であり、スプリアス規格を満足します。

測定結果(1)AUDIO周波数1,000Hz

f:id:amat49:20220103005440p:plain

AUDIO周波数1,000Hz入力時の帯域外領域スプリアス発射強度の測定結果

7074+4kHzの第四高調波(-60dBm)および逆サイドバンド側7074-1kHzのイメージ(-68dBm)がスプリアス規格を満足しません。

水晶フィルタで抑圧される7074+1kHzの基本波(-46dBm)よりも、水晶フィルタを通過する7074+2kHzの第二高調波(-30.7dBm)および7074+3kHzの第三高調波(-42dBm)の方が強度が大きくなっています。水晶フィルタを通過するこれら複数波が後段でIMD(混変調)を生じるために、水晶フィルタ帯域外の高調波を生じているのではないかと推測しています。

測定結果(2)AUDIO周波数1,400Hz

f:id:amat49:20220103005539p:plain

AUDIO周波数1,400Hz入力時の帯域外領域スプリアス発射強度の測定結果

数多くの高調波および逆サイドバンド側のイメージがスプリアス規格を満足しません。

7074+1.4kHzの基本波(-37dBm)と伴に7074+2.8kHzの第二高調波(-36dBm)が水晶フィルタを通過しています。水晶フィルタを通過するこれら複数波が後段でIMDを生じるために、水晶フィルタ帯域外の高調波を生じていのではないかと推測しています。

測定結果(3)AUDIO周波数1,800Hz

f:id:amat49:20220103003858p:plain

AUDIO周波数1,800Hz入力時の帯域外領域スプリアス発射強度の測定結果

7074+1.8kHzの基本波の左側にはキャリア漏れや逆サイドバンド側のイメージが観察され、右側にはAUDIO周波数の第二高調波や第三高調波が観察されます。これらは全て基本周波数の平均電力(-29.4dBm)より40dB以上低い強度であり、スプリアス規格を満足します。

7074+1.8kHzの基本波のみが水晶フィルタを通過し、7074+3.6kHzの第二高調波以上は水晶フィルタで阻止されています。これにより、後段で大きなIMDを生じていないと推測しています。

測定結果(4)AUDIO周波数3,000Hz

f:id:amat49:20220103004616p:plain

AUDIO周波数3,000Hz入力時の帯域外領域スプリアス発射強度の測定結果

7074+3kHzの基本波の左側にはキャリア漏れや逆サイドバンド側のイメージが観察され、右側にはAUDIO周波数の第二高調波や第三高調波が観察されます。これらは全て基本周波数の平均電力(-29.4dBm)より40dB以上低い強度であり、スプリアス規格を満足します。

7074+3kHzの基本波のみが水晶フィルタを通過し、7074+6kHzの第二高調波以上は水晶フィルタで阻止されています。これにより、後段で大きなIMDを生じていないと推測しています。

測定結果(5)AUDIO周波数800Hz+2,100Hz

SSBトランシーバとしての特性を調べるため、AUDIO周波数800Hz+2,100Hzのツートーン信号を入力してみました。水晶フィルタ阻止域の800Hzは内部で水晶フィルタ通過域の高調波を数多く発生し、2,100Hzとの間でIMD(混変調歪み)を発生させることが予想されます。

f:id:amat49:20220103010839p:plain

AUDIO周波数800Hz+2,100Hzのツートーン信号

f:id:amat49:20220103011407p:plain

AUDIO周波数800Hz+2,100Hz入力時の帯域外領域スプリアス発射強度の測定結果

IMDが発生したように見えますが、スプリアス規格は満足するようです。

測定結果のまとめ

水晶フィルタの測定(13TR-FT8トランシーバ (13)水晶フィルタの組立と測定 - 非職業的技師の覚え書き)で見たように、基本波に対して高調波を40dBc以下に留めることができる周波数帯域は1,800~3,000Hz(7075.8~7077.0kHz)であることが、出力電力からも確認されました。基本波が水晶フィルタの阻止域にあっても通過域の高調波を発生するため、周波数帯域には注意する必要があります。

なお、測定に供した13TR-FT8トランシーバキットの個体は、LPFを改造(第二高調波トラップ機能追加)していることをご留意下さい。キットには組立スキルのばらつきが反映されます。以上の結果は非職業的技師の未熟な組立スキルが反映された個体の特性であることをお断りしておきたいと思います。