非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

Penntek TR-35(0)調査

The WA3RNC Online Store

WA3RNC局John Dillonさんが主宰するThe WA3RNC Online Storeにて、興味深いCW QRPトランシーバキットPenntek TRシリーズが販売されています。

拠点がPennsylvaniaにあることから、Penntekというブランド名あるいは会社名はPennsylvania Technologiesから取っているのではないかと推測しています。

Online Storeには下記3機種が掲載されていますが、現時点で販売中なのはTR-35のみとなっています。TR-25はTR-35の前身で製造中止、TR-45Lは販売準備中です。

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TR-45Lの大型アナログメータはWeb上でも人気があり話題になっています。ディジタル全盛時代に魅力的なデザインと思います。

TR-35は移動用ということで、搭載する4バンドの中に波長が短い17mが入っています。TR-45Lは固定局用ということで、17mが外れて80-75mが入っています。4バンドという制約はLPFのフットプリントに起因していると思われます。

追記(2022/06/16)

TR-45Lは5バンド(80-75m、40m、30m、20m、17m)に設計変更された模様です。

Penntek TR-35

過去に組み立てた、あるいは調査したQRPトランシーバ(QCX-mini、AFP-FSK、RS-HFIQ)とTR-35を、当局の薄学に基づき比較してみました。回路図や組立マニュアルはOnline Storeからダウンロードできます。

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TR-35はポータブル筐体にも係わらず、4バンド(40/30/20/17m)を搭載していることが際立っています。一般的に、LPFのトロイダルコアが大きなフットプリントを占めるため、多バンド化が困難になるからです。

LPF

特徴的なLPFはコイル4段x2式(40-30m用、20-17m用)の構成です。ただし、最終段コイルL26は全バンド共用です。さらに、各コイルが並列コンデンサを備えた楕円関数フィルタ(共振回路の極を利用してカットオフ周波数付近の減衰特性を急峻にするフィル タ)の構成です。すなわち、ウェーブトラップが3段x2式+1=7組搭載可能な構成です。ポータブルでこのように奢ったLPFは初めて見ました。

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TR-35のLPF

終段はB級なので、強度の大きな高調波が発生すると思われます。40-30m用LPF(図中の青)は、10MHzは通過させるが14MHzは遮断する必要があります。20-17m用LPF(図中の赤)は、18MHzは通過させるが28MHzは遮断する必要があります。これらの要請から、急峻なフィルタ特性が必要になったものと思われます。機会が有れば、LTspiceでフィルタ特性を調べてみたいと思います。

なお、キットを選択してもコイルは予め線材をコアに巻いた状態で供給されるようです。QCXのように調整測定機能を備えていない代わりに、再現性や調整がクリティカルな部分は予め調整して供給されるようです。SMD部品も実装済みです。

BPF

受信部のBPFはバンド毎に備えています。RS-HFIQのBPF回路網とよく似た構成になっていて、FETスイッチでPINダイオードに電位差を印可してRF的にActiveな回路を切り替える方式です。フットプリントが大きくなるリレーは搭載していません。

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TR-35のBPF

RS-HFIQのBPFより素子数は多く、可変コンデンサを搭載しており、通過帯域を微調整可能になっているようです。おそらくSMD搭載済み、調整済みで提供されると思います。

RF Gain調整用の可変抵抗がBPFの入力に設けられています。この可変抵抗は全面パネルから独立したノブによってアクセス可能で、下記のUI訴求ポイントの1つになっています。

復調回路

復調回路は、AFP-FSKと同じSA612(ギルバートセルによるモノシリック Double-balanced mixer and oscillator)アナログICを採用しています。ただし、IF用とBFO用に2式搭載しています。

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TR-35の復調回路

前段のIF mixerと後段のBFO mixerの間に4段の水晶ラダーフィルタ(図中の緑)を入れてイメージを抑圧しています。水晶ラダーフィルタのコンデンサの接地回路にトランジスタスイッチを入れて、通過帯域のNarrow/Wideを切り替える工夫があります。QSDダウンコンバータを用いるQCXとは異なるアナログ方式のため、比較の興味を駆り立てられます。

後段のBFO mixer入力から前段のIF mixer入力にAGC(図中の青)を掛けられるようになっています。イヤホンやヘッドホンによる運用ではAGCがあると安心です。

UI(User Interface

TR-35の訴求ポイントは「全ての機能にノブとスイッチを用意した操作性」となっています。ノブによって直接調整可能な項目は、Keyer速度、TXパワー、RXゲイン、ボリューム、そしてチューニングです。サイドトーンのボリュームは基板上で予め調整する必要があるようです。

チューニング用の光学式エンコーダは回転スイッチ式ではなく、連続回転するタイプのようです。写真で見ると小型な部品に見えますが、是非触ってみたいものです。

参考資料

TR-35は新しいモデルのため、まだレビューは少ないようです。AE5X局が「Thoughts on the Penntek TR-35 QRP transceiver kit」という題名のレビューを2022/3/10にブログに掲載しています。自身で購入した上でのレビューですので、良い点、悪い点を述べた公平な内容になっていると思います。

ARRL QST誌(December 2021)に「WA3RNC TR-25 40/20-Meter CW Transceiver Kit」という題名で、前身のTR-25のProduct Reviewが掲載されています。ラボでの性能評価結果も掲載されているため、参考になるかと思います。Online StoreにPDFへのリンクがあります。

補記:注文方法

注文方法を調べてみました。支払いはPayPal、郵送オプションはちょっと心配になるUSPS一択でした。ところが、国名リストをプルダウンしても「US」しか出てきません。何の注意書きもありませんが、北米国内販売しか想定していないようです。

問い合わせフォームがありましたので「日本からTR-35を注文できますか?」と聞いてみました。直ぐにJohnさんから返信がありました。「 以前、TR-35をFedEXで日本に発送しました。Webサイトから直接注文することはできません。 日本の住所を連絡してくれれば、TR-35とFedExの見積もりをメールで返信します。 見積もりに了解なら、Paypal請求書を送ります。」とのこと。既に日本からTR-35を注文した方がおられるようです。