CW運用だけならTunerは必要ないかもしれませんが、アンテナ再調整なしでFT8運用と両立させるのは困難です。そのためにQRPGuys Z Tunerを組み立てましたが、試験結果は思わしくなく、改良が必要になりました。以下、その記録です。
Dummy Loadの整合試験
下記の構成でQRPGuys Z Tunerの試験を行いました。NanoVNAを用いてSWRを測定するために、TunerのSWRブリッジ測定モードはOFFにしてOperationモードに設定します。NanoVNAの横軸は Z Tunerの仕様範囲40~10mに合わせて7~30MHzとしました。
整合共振回路に直列に配置されたLoadポリバリコンと並列に配置されたTuneポリバリコンを調整して、狙ったバンドでSWRが落ちるかどうかを確認しました。なお、ノブの回転位置の印字数字が大きくなるほど、逆にポリバリコンの容量は小さくなります。
インピーダンス切換スイッチHigh設定
インピーダンス(High/Low)切換スイッチはHigh(二次巻線数が多い)カップリングの方が効率が良いとのマニュアルの記載に従い、まずHigh位置に設定してHighバンドからLowバンドに向かって順に整合を試行しました。
12mバンドと10mバンド
整合操作の結果、10mバンド(下写真右)のSWRは1.17(@28.85MHz)、12mバンド(左)は1.33(@24.25MHz)が最小値になりました。ポリバリコンはLoadもTuneも容量が小さい側になりました。10mバンドの方が12mバンドよりも整合容量が小さくなりました。
整合範囲は10mバンドの方が狭くなっています。10mバンドの方がQ値が大きく、SWRを小さくできているように見えます。
17mバンドと15mバンド
整合操作の結果、15mバンド(下写真右)のSWRは1.43(@21.49MHz)、17mバンド(左)は1.57(@18.50MHz)が最小値になりました。17mバンド整合のLoadポリバリコンは容量が大きい側に転じました。
整合範囲も17mバンドの方が広くなっています。整合目標の周波数が低くなるに従ってQ値が小さくなり、SWR最小値が大きくなって行くように見えます。
40mバンド、30mバンド、20mバンド
40mバンドと30mバンドはSWR 2.0以上となり、整合不可と判断しました。
20mバンド(下写真)のSWRは1.77(@14.36MHz)が最小値になりました。ただし、下写真の通りSWR曲線の最小値を20mバンドに持ってくることはできませんでした。この時、Loadポリバリコンは左に回り切り、容量は最大値になっています。Load容量不足が否めません。
インピーダンス切換スイッチLow設定
続いて、インピーダンス(High/Low)切換スイッチをLow(二次巻線数が少ない)位置に切り換えて、LowバンドからHighバンドに向かって逆順に整合を試行しました。
40mバンド、30mバンド、20mバンド
40mバンドはSWR 2.0以上となり、整合不可と判断しました。この時、Loadポリバリコンは左に回り切り、容量は最大値になっています。
30mバンド(撮影失念)はSWR 1.02(@9.99MHz)が最小値となり、良好に整合できました。
20mバンド(下写真)のSWRは1.01(@14.13MHz)が最小値となり、こちらも良好に整合できました。
インピーダンス切換スイッチをLow位置にした場合は、下写真の通り、SWR曲線に2つの共振点が現れました。この中、左側の共振点でSWRが最小になりました。この時、Loadポリバリコンは回転位置中央となり容量は半分になっています。Load容量をもっと大きくすることによって40mでも整合する可能性が示唆されているように思います。
17mバンドと15mバンド
整合操作の結果、17mバンド(下写真左)のSWRは1.21(@18.04MHz)、15mバンド(右)は1.57(@21.03MHz)が最小値になりました。Loadポリバリコンは容量が小さい側に転じました。
整合目標の周波数が高くなるに従ってQ値が小さくなり、SWR最小値が大きくなって行くように見えます。インピーダンス切換スイッチをLow位置にした場合は、前記High位置とは逆の傾向になります。
12mバンドと10mバンド
12mバンドと10mバンドは、2つの共振点の中の左側の共振点では整合できませんでした。
右側の共振点を使うと、12mバンド(撮影失念)は1.21(@24.49MHz)、10mバンド(下写真)のSWRは1.51(@28.62MHz)が最小値になりました。ただし、ポリバリコンの回転位置に対して感度が高くなり、調整は難しくなります。10mバンドでは、Loadポリバリコンは右に回り切り容量が最小になりました。
まとめと改良
ダミーロードとNanoVNAを用いた試験結果を下表にまとめます。15-10mのHF High側バンドはインピーダンス切換スイッチをHigh位置に、30-17のHF Low側バンドはLow位置に設定すれば全域でSWR 1.5以下に整合できるとの結果が得られました。
40mバンドはどちらのスイッチ設定を使っても整合できませんでした。整合試行の履歴から浮かび上がる改良の指針は以下となります。
- Loadポリバリコンの容量を増やす。
- インピーダンス切換スイッチのLow側の二次巻線(6回巻き)の巻き数を減らす。
LoadポリバリコンのTrimmer調整
マニュアルの指示に従い、Loadポリバリコンの2つのTrimmerは付加容量を最小にする位置に調整していました。これを最大位置に変更して合計約20pFを付加して効果を確認しました。
ポリバリコンのTrimmerは可変容量比を最大化するために付加容量を最小化する位置に調整するものと考えています。可変容量を測定した上図では約20pFのオフセットが乗っただけで可変範囲の絶対値に大きな影響は無いように見えます。ただし、可変容量比は228.4/24.8=9.2から248.4/44.6=5.6に小さくなってしまいます。
Trimmer調整の結果、7.23MHzのSWRが1.76に改善しました。ただし、SWR曲線の最小値はまだ40mバンドから外れています。さらに容量を付加することで40mバンドの運用帯域での改善が見込めますが、他のバンドを含めた整合範囲に影響が及ぶ可能性が高くなります。バンド切換無しで整合させるには無理があるということですが・・・。
Low側二次巻線の巻き数低減
次に、Low側二次巻線の巻き数を設計値の6回から4回に減らしました。途中に5回も試しましたが不十分だったため、最終的に4回にしました。
ダミーロードに対する40mバンドのSWRは1.0を達成しました。しかも、バンド全域(7.0~7.2MHz)でSWR約1.2以下を達成しています。
モービルホイップHF40FXWの整合試験
アンテナ直結
モービルホイップアンテナHF40FXW(DIAMOND)をNanoVNAに直結した際のSWR曲線を下写真に示します。
アンテナはCWバンドに対して調整しているため、FT8(7.074MHz)に対してはSWR 2.88になっています。これをZ Tunerで整合するのが課題です。
Z Tuner挿入
Tunerを系に挿入して整合を取った結果、SWRは2.88から1.68に低減しました。7.074MHzはTunerの2つの共振点のちょうど腹(シーソーの支点)になっており、これが最良値でした。Z-match Tunerは調整の自由度が足りない印象です。
Z Tunerの挿入損失
40m QCX+からダミーロードに向けてパワーを出し、Z Tunerの挿入損失を測定しました。ダミーロード印加電力は整流回路によるピーク電圧測定値から算出しました。整流ダイオードの電圧降下0.61Vも考慮しています。
ダミーロード直結では4.4W、Z Tuner挿入によって3.7Wに低下しました。挿入損失は0.6W(14%)になりました。
SWR 1.9で10%程度の損失になりますので、それ以上のSWRを低下させるためにTunerを挿入するのなら効果が期待できるかも知れません。