非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

AFP-FSK Transceiver(9)TCXOへの換装

ノーマルXOでは毎回の起動時に数分の暖機運転が必要になるため、キャリブレーション作業に進む前に、オプションのTCXO(温度補償型水晶発振器)に換装することにしました。AFP-FSK TransceiverのPCBには配線パターンが用意されています。

TCXOの調達

Digikeyの部品番号 XC2070CT-NDのTCXOが指定されていましたが、在庫はゼロでした。代替品を探し、周波数(25.0000MHz)、サイズ(5.0 x 3.2mm)、電圧(3.3V)、精度(1-3ppm)等が適合するFOX924 SERIES(FT5HNBPK25.0-T1)を調達しました。(これも今見ると在庫ゼロになっています。どうなっているんでしょう・・・?)

Small TCXO in a large anti-static bag.

送料の比率を減じるため、他の部品と抱き合わせで発注しました。大きな静電防止袋の中に小さなTCXOが1つだけ入っていました。Digikeyの梱包では、デバイスは全て大き目の静電防止袋に個別に入れられて来ます。コネクタ類等はビニールチャック袋です。大は小を兼ねる規格の袋に規格の個別伝票を張り付けてシステマッチックにピッキングして行く方法が最も効率が良いためと思われます。

Digikeyの配送はFedExになり、国内に在庫拠点があるのではないかと疑われるほどの速さでミネソタ州から届きました。住所もPayPal登録住所から1文字の違いもありません。ITを使えばそうなりますよね。前に報告したUSPSとのロジ品質の差には愕然とします。USPSの輸送中紛失が多いため、米国のベンダの中には海外発送を取りやめるところも出てきているようです。海外調達は円安とロジ障壁のダブルパンチですね。

しかし公平を期せば、FedExが優秀なのであって、USPSだけに問題が生じている訳ではないことが分かりました。最近、EU(オランダ)にエンコーダ部品を発注しましたが、こちらも一度「RETURN IN TRANSIT」(発送国に返送)になり、もうだめかと諦めかけたところ再輸出になり、半月の予定が1.5か月ほどもかかって到着しました。海外サイトのトラッキング日本郵便のトラッキングを併用して追跡していたため、日本に到着する前に「RETURN IN TRANSIT」になったことを確認しています。最初は一体どこに発送したのでしょうか・・・?

閑話休題。TCXOとMS5351Mの間に挿入する100nFのコンデンサの追加も必要です。こちらは2012サイズのSMDを秋月から調達しました。マニュアルでは50VDC MLCCとわざわざ指定されていますが、3.3Vの回路に耐圧50VDCの指定は必要なのでしょうか?

TCXOのドライブ能力

コンデンサの耐圧よりも、TCXOの仕様の1つであるOutput Load 15pF Max.が気になりました。この仕様は、コンデンサ100nFの反対側のMS5351Mの端子がそれ以上の容量を持っていると、TCXOからドライブできないという制限になっているようです。蓄電してHレベルになる前に次のサイクルで放電してLレベルになってしまうということかと思います。この端子容量15pFから見ればコンデンサの100nFはAC的に直結しているのと同等と見做して良いと思われます。

MS5351Mのデータシートは不明ですが、Si5351A/B/C-Bの48ページに及ぶドキュメントにはCrystal Requirementsが規定されています。Crystalに要求するOutput Load Capacitanceは6~12pFになっています。TCXOに15pFのドライブ能力があれば問題ないと思ったのですが、Si5351側に下限上限があるということは、大き過ぎてもリンギング等の問題があるということでしょうか。PCBの寄生容量を期待?して、15pFで良しとしました。MS5351Mのセカンドソースとしての再現性は未知ですが、Si5351と同様の半導体プロセスで作られていて同様の電気的特性を持っていると信じることにします。

ドキュメントをさらに読み進めると、Si5351は内部負荷容量を0、6、8、or 10 pFの間で選択可能になっていました。わざわざ容量切替に回路を割り付けているということは、PLLシンセサイザにとってCrystal RequirementsのOutput Load Capacitanceが重要な要求仕様になっていることが分かります。

AFP-FSK TransceiverのSi5351初期化関数の中に、内部負荷容量の設定箇所がちゃんと下記の通り存在していました。

#define SI5351BX_XTALPF 3               // 1:6pf  2:8pf  3:10pf
i2cWrite(183, SI5351BX_XTALPF<<6 | 0x12);   // Set 25MHz crystal load capacitance

最大の10pFに設定しているようです。CrystalとMS5351Mの距離が近いPCB設計になっているためと思われます。当局はCrystalの実装をソケット方式にしたため、この内部負荷容量の設定に影響する可能性があったことを今更ながら気付きました。25MHzの波形を見ることができるオシロは持っていないため、トラブルが起きていたら原因究明は困難だったろうと思います。

なお、Si5351の出力側のClock信号のドライブ能力も15pFです。終段FETをドライブする74AC02のInput Capacitanceは4.5pFなので、コネクタ経由で配線パターンを引き回しても大丈夫ということなのかもしれません。逆に小さ過ぎてリンギングの原因になっているかもしれません。

TCXOへの換装

ノーマルXOをソケットから抜き、TCXOと100nFをVFO基板の裏面に実装します。100nFはスルーホールの2つの穴の上にはんだ付けしました。ちょうど良い塩梅の穴間隔でした。

TCXO and 100nF capacitor mounted on the back of the VFO board.

TCXOは4隅の裏面電極をはんだ付けするのですが、裏面がはんだで濡れたかどうかが良く分かりません。4隅のエッジにも細く電極が顔を覗かせているため、エッジがはんだで濡れていれば良いものとしました。上からはんだを見ると、エッジに向かって表面張力の模様が走っているような気がします。幻影かな?

Soldering of the electrodes at the four corners of the TCXO.

TCXO換装後の試験

測定結果

前回行った「帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の測定」と同じ測定を実施しました。クロック出力を確認できましたので、ハンダ付けに問題は無かったようです。

7.074MHz oscillation by PLL synthesizer with TCXO as external reference source.

AFP-FSK Transceiverの強制出力ピンに係わるコードを調べたところ、VFO設定値で励振するようになっていました。この試験でのVFO設定値は7,074,000Hzです。ノーマルXOを外部基準発信源とした前回は、960Hz乖離した7,074,960Hzで発振していました。TCXOに換装した今回は、-752Hz乖離した7,073,248Hzとなり、キャリブレーションが必要な方向が逆になりました。

コード修正の要否

AFP-FSK Transceiverのコードには、下記の通り、最初から2.7kHzの補正が施されていました。

#define SI5351BX_XTAL 25002700

TCXOに換装した場合は、ノミナル値からのずれを想定しない下記25,000,000Hzの設定に変更するように指示があります。

#define SI5351BX_XTAL 25000000

しかし、逆方向に振れたということは、2.7kHz+αのキャリブレーションが必要なことを表しています。今回のTCXOに対してはコードの修正は必要ないようです。

50Hzノイズ

スペクトルを拡大したところ、前回観測された発振周波数両側50Hzのノイズを今回は観測できませんでした。

The oscillation frequency neighborhood where 50 Hz noise is not observed on both sides.

今回、ケーブルの脱着によってケーブル類の重なり具合が変わったため、電源ノイズの回り込みに変化があったものと推定しています。