非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

AFP-FSK Transceiver(14)マルチバンド化の準備

日乗

KCJコンテストの結果速報が届きました。KCJコンテストは、提出ログを照合し一致したQSOのみ得点を認める厳格な規約になっています。

当局は、コンテストの終盤にCQを出されている局を競合局のいないタイミングで呼ぶスタイルのため、QSO数は僅かです。その中の1局には再送を繰り返して辛うじて取って頂いたため、正確にログが一致するかどうか心配していました。当局のコールサインでは「E」が鬼門と思います。ノイズに埋もれてしまう場合は、スペースから逆算して「E」を感じ取って頂く必要があるかもしれません。

心配は杞憂に終わり、コールサイン、RST、マルチの互いのミスコピーは皆無でした。厳格な規約も振り返りには好適です。「相手のログが提出されていない」による1ポイント減点で済みました。ログ未提出だとコールサインが相手方にその旨伝達されることが分かりました。気をつけねば・・・。

プロローグ

しばらく工作から遠ざかってSDRソフトウェアの勉強をしてきましたが、猛暑も収まり換気のために窓を解放して工作を行うのに適した季節になって来ました。そこで、QRPGuys AFP-FSK (Audio Frequency Processed - Frequency Shift Keying) Digital Transceiver III のマルチバンド化に取り組むことにしました。

QRPGuys AFP-FSK Digital Transceiver III 

AFP-FSK Transceiver はバンドID抵抗を備えたバンドモジュール(送信LPFと受信HPF)を差し換えることで、HF帯(160~10m)のバンドQSYが可能です。標準で40m/30m/20mのバンドモジュールのPCBと部品が付属します。他のバンドモジュールの設計データも公開されているため、部品を集めれば製作可能です。

Band Module Specifications

当局の環境ではアンテナの実現が困難な160m/80mバンドは諦めます。60mは国内では許可されていません。標準添付の残りの30m/20mのバンドモジュールに加えて、17m/15m/12m/10mのバンドモジュールを製作し、合わせて7バンド化を試みることにしました。

部品集め

適切なユニバーサル基板が有れば、ロジスティックスが心配なUSPS経由でQRPGuysから部品を取り寄せなくても済みます。aitendoで塩梅の良い80×20穴のユニバーサル基板(UPCB80X20D)を見つけました。秋月でも同様の仕様の安価な基板がありましたが、コスト削減のためか4隅のRが付いていない仕様になっていました。バンドQSY時に素手で換装する基板になるため、今回はaitendoの基板にしました。

Universal PCB (UPCB80X20D) with 80 x 20 holes.

コンデンサは、LPFのウェーブトラップ調整用に、250V C0G の(2012サイズ)チップ積層セラミックコンデンサの系列をストックしているため、そこから適宜使用することにします。

最も入手が困難だった部品は、受信HPF用の固定インダクタ(1.2uHと680nH)です。近接放送局が無ければ、受信HPFは省略しても良いかとも思いましたが、他の部品と抱き合わせでDigi-keyに発注しました。

Fixed inductors for HPF of received signals that may not be distributed domestically.

配置設計

フリーソフトウェアとして公開されているPasS(Parts Arrange Support System)という名称のユニバーサルプリント基板エディタを使って、追加バンドモジュールの配置設計を検討しました。

PasSは、部品のビットマップイメージの端子ドットの色で配線の結合を判定していると思われるユニークな基板エディタです。トロイダルコイルのイメージが無かったため、似た寸法の電解コンデンサのイメージを流用しました。

Design of band module placement on a universal board.

配線の自由度はコネクタ端子に拘束されます。どうしてもGND配線と交差する信号配線(赤色)が1ヵ所生じるため、裏面配線(青色)だけでは収まりませんでした。

配置設計の過程で、QRPGuysオリジナルのバンドモジュールの配置設計に対して気付きがありました。同じように巻いた2つのトロイダルコイルのINとOUTの割り振りを変えていることです。つまり、IN1⇒OUT1⇒OUT2⇒IN2というパターン配線になっています。これによって磁束の方向が反転し、互いに漏れ磁束を打ち消し合うようになります。追加バンドモジュールの配置設計でも踏襲することにしました。回路図には表れないノウハウです。本来は設計思想は漏れなく図面指示すべきなのですが・・・。

LPFの事前シミュレーション

第二高調波がスプリアス規格を満たすようにするためには、ウェーブトラップをLPFに付加する方法が有効であることを経験しています。QRPGuys設計のLPFにはウェーブトラップが初めから付いています。

共振を利用するウェーブトラップでは、手持ち系列のコンデンサ単品で組んだだけでは、スプリアス規格を達成できる保証がありません。そこで、事前にシミュレーションによる容量感度の検討を行いました。ウェーブトラップのC21はチップコンデンサ2個並列まで許容する方針としました。

17m(18MHz)

LTspiceによる17mバンドLPFのAC解析結果を示します。ウェーブトラップのコンデンサC21は、22pF/33pF/39pFとして感度を調べまし。設計指示値は22pFです。

トロイダルコイルのインピーダンスは実測すべきですが、手持ちのLCRメータでは低インピーダンス領域になり、精度の高い測定は出来ませんでした。toroids.infoの計算値を用いています。

AC analysis result of 7m-band LPF by LTspice.

18MHzの第二高調波36MHzで共振するC21は、設計指示値22pFより大きな33pFであることが分かりました。

初段のコンデンサC24は「No C24」(実装不要)との指示がありました。これではLPFがチェビシェフ型にならない上に、E級増幅にも影響を及ぼしそうです。

LPFを搭載したバンドモジュールはコネクタ経由でメイン基板と結合するため、浮遊容量が隠れている可能性があります。それでも、1pF以下のオーダではないかと思われます。逆に、E級増幅の条件を最適化するために、LPFの仕様を二の次にしているのかもしれません。

15m(21MHz)

LTspiceによる15mバンドLPFのAC解析結果を示します。ウェーブトラップのコンデンサC21は、22pF/24pF/33pFとして感度を調べまし。設計指示値は22pFです。

AC analysis result of 15m-band LPF by LTspice.

21MHzの第二高調波42MHz付近で共振するC21は、設計指示値22pFより大きな24pF(12pF+12pF)であることが分かりました。

手持ちのコンデンサでは、22pFの次の系列は33pFになるため、12pFを2個組み合わせる必要があります。

12m(24MHz)

LTspiceによる12mバンドLPFのAC解析結果を示します。ウェーブトラップのコンデンサC21は、15pF/18pF/22pFとして感度を調べまし。設計指示値は15pFです。

AC analysis result of 12m-band LPF by LTspice.

24MHzの第二高調波48MHz付近で共振するC21は、設計指示値15pFより大きな18pFであることが分かりました。

10m(28MHz)

LTspiceによる10mバンドLPFのAC解析結果を示します。ウェーブトラップのコンデンサC21は、15pF/18pF/22pFとして感度を調べまし。設計指示値は15pFです。

AC analysis result of 10m-band LPF by LTspice.

28MHzの第二高調波56MHz付近で共振するC21は、設計指示値15pFより大きな18pFであることが分かりました。

事前検討のまとめ

総じて、ウェーブトラップのコンデンサC21を設計指示値よりも大きな容量にした方が良いという結果になりました。

わざわざ適正ポイントを外す設計をするとは思えないため、予想外に大容量の浮遊容量への対応等、設計の秘密が何か隠されているような気がします。

設計指示値通りに製作して、性能が未達となった時に、シミュレーションが示す適正値に変更する方針の方が良いかもしれません。

欠品 #26AWG UEW

コイルを巻き始めたのですが、QRPGuys支給のポリウレタン銅線(UEW線)はさすがに途中で費えました。手持ちのUEW線はΦ0.29mmとΦ0.5mmですが、指定は#26AWGでした。American Wire GaugeをUEW線の仕様で使う例を国内ではあまり見たことがありません。小分け売りのUEW線のパッケージにもAWGの表記はありません。

調べてみると、#26AWGはΦ0.4mm、安全電流0.32Aでした。5Wだと実効値で0.32A程度は流れそうなのでΦ0.29mmは危険と判断。Φ0.5mmだと巻いた時の曲げRが大きくなり、トロイダルコアとの密着が悪くなりそうです。設計指定通り#26AWG=Φ0.4mmを調達することにしました。しばし中断です。