非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

RS-HFIQ(3)HDSDRのIQバランス調整

IQバランス調整系の構成

IQバランス調整系の構成を下図に示します。

Configuration of IQ balancing system.

RS-HFIQ内蔵テスト機能

RS-HFIQのPLLシンセサイザ(SI5351A)の3チャンネルの出力は、下記の用途に使用されています。

  1. CK0:LO(局発)
  2. CK1:ユーザ用外部供給(CW利用等)
  3. CK2:内臓テスト用RF_BIT(Built-In Test)信号

内臓テスト用CK2(RF_BIT)はBPFの入力に接続されています。SI5351Aの発振波形は矩形波ですが、選択されたバンドのBPFによって正弦波に近似されます。LNAを経由してQSDでRFサンプリングされ、Op-Ampのアンチエイリアスフィルタを経て、 IQ OUTアナログ信号としてRS-HFIQから出力されます。以後、サウンドカードによってAFサンプリングされ、PCのHDSDRソフトウェアによって信号処理されます。すなわち、RS-HFIQは任意の周波数で模擬受信信号を発生させる内臓テスト機能を備えていることになります。

QRP-LabsのQCXキットも、SDRではありませんが、PLLシンセサイザとQSDを備える点では構成が似ています。QCXキットは内臓調整機能が特徴の1つであり、IQバランス調整のために似たテスト構成を取っているのではないかと推測されます。QCXはプロセッサを備えたアナログトランシーバであるため、IQ信号の振幅と位相のバランス調整は後続の2段のOp-Ampのトリマによって行いました。一方、SDRのRFフロントエンドのRS-HFIQは調整トリマを備えていません。IQバランス調整はSDRソフトウェアで行う必要があります。

テスト機能制御ソフトウェア

RS-HFIQのテストに使用したSDRソフトウェアは、HobbyPCB社のサポートホームページで提供されているディフォルトのHDSDR(High Definition Software Defined Radio)v2.7です。Windows PC上のHDSDRは、Omni-Rigを通信ポートとしてRS-HFIQのArduino NanoとCAT通信を行い、バンド設定やチューニングを行います。

HobbyPCB社からは、HDSDRとは別に「RS-HFIQ Control Panel」という名称のソフトウェアが提供されています。「RS-HFIQ Control Panel」もOmni-Rigを介してRS-HFIQのArduino Nanoと通信し、HDSDRからはアクセスできない内臓テスト機能を制御します。

まず、「RS-HFIQ Control Panel」の「Set BIT to LO Freq」ボタンをクリックして、HDSDRによって設定されたLO周波数(下図7,020kHz)をRS-HFIQに問い合わせ、取得したLO周波数をBIT周波数として設定します。

Reading the current LO frequency of the RS-HFIQ to the BIT frequency of the "RS-HFIQ Control Panel" software.

ここで、HDSDRのLO周波数を動かすチューニング動作を1回は行わないと、「RS-HFIQ Control Panel」にLOの値を読み込めない不具合がありました。LOチューニングのイベントが必要なようです。チューニング動作を行わないと、CAT通信のLO問い合わせに返答する変数にLOの値が入らないイメージです。

次に、「Set BIT to LO Freq +1 kHz」ボタン、あるいは「Set BIT to LO Freq -1 kHz」ボタンをクリックして、LO ±1 kHz のBIT周波数を設定します。続いて「BIT ON」ボタンをクリックしてBIT信号をRS-HFIQの受信部に入力し、イメージを評価します。HDSDRにはIQバランス調整機能があるため、Options → Input Channel Calibration RX から下図の Channel Adjustment Panel (RX) を開き、IQ信号の振幅と位相差の微調整を行います。

Channel Adjustment Panel (RX) on the HDSDR.

IQバランス調整

IQバランス調整前

LO +1 kHz(7,021kHz)のBIT信号を入力し、LSBのイメージを評価しました。無調整の状態でイメージ抑圧は43dBでした。

LSB image evaluation result with LO +1 kHz BIT signal input.

LO -1 kHz(7,019kHz)のBIT信号を入力し、USBのイメージを評価しました。無調整の状態でイメージ抑圧は39dBでした。

USB image evaluation result with LO -1 kHz BIT signal input.

40mバンドに関しては、SSBよりFT8運用時のイメージノイズが4dBだけ大きいという結果になりました。

IQバランス調整後

USB とLSBのイメージ抑圧のバランスを取るのが難しく、USB側も43dBの抑圧に持って行くのが限界でした。

USB image evaluation result with LO -1 kHz BIT signal input after IQ balance adjustment.

USB とLSBの片側だけを優先するなら、さらにイメージ抑圧を測ることが可能との感触を得ました。その場合は、バンドおよびモード毎にIQバランス調整値を持つ必要があります。あるいは、バンドあるいはモード切換毎にIQバランス自動調整機能がバックグランドで働くことが理想的と思います。

 

IQバランス調整はRS-HFIQ側の機能ではサポートされていないため、SDRソフト側で対応する必要があります。Keith's SDRに関しては、フォーラムおよびソースコードを検索しましたが、「IQバランス」に関する話題やコードを見つけるには至っていません。既報の通り、コーディックの不具合に起因するTwin Peaks問題に対しては自動位相調整機能が実装されています。IQゲイン調整機能は見つかっていません。3dB程度のアンバランスは優先度の高い課題にはなっていないと思われます。