非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

室内ロングワイヤーアンテナはDXCCの夢を見るか(23)

新着QSL

5K0UA(サン・アンドレス島)

カリブ海の5K0UA(サン・アンドレス島)DXpeditionのQSLカードが届きました。二つ折りタイプのQSLカードでした。

カード表面はメンバの集合写真、裏面はサン・アンドレス島QTHのアンテナの写真が配置されていました。カードを開くと運用風景のスナップ写真とログシールが配置されていました。

カリブ海南国の風景は次に続くブーベ島の風景と対照的です。

3Y0K 桜咲く

動機

3Y0K(ブーベ島)DXpeditionの話題は目にしていましたが、コンディションが低下した今となっては室内LW×10Wで交信するのは無理だろうと諦観の境地でした。

しかし、今サイクル2回目のDXpeditionに対して「今後20年はブーベ島DXpeditionは行われないだろう」との記述を目にしました。今回のペディションが成功を収めてATNOの需要が一定数充足されると、今後20年は巨額の遠征費を集めるだけの次の需要は生まれないだろうとの意味と思います。

この予測を見たら、交信できないまでもパイルに参加しないことには冥途の土産にもなりません。

結果

まず、室内LWを用いてCWで聞こえるか(FT8で見えるか)を探ったところ、意外にも聞こえ(見え)ました。しかし、QSBがあってペディション中盤は交信には至りませんでした。冥途の土産のために粘っていたところ、撤収開始前日の最終盤にビックオープンがあり、15m FT8で交信できました。1スロットの交信ですがATNO解消です。

QSLマネージャの仕事は速く、チームがケープタウンに向けて航行している最中の3月18日にはLoTWでコーンファームされました。なお、室内LW×10Wでは事前にドーネションをする熱量は湧きませんでしたが、過酷な地でのYouTube動画を見るにつけ、OQRSを通して事後のドーネションを行いました。QSLポリシーには事後ドーネションが優先処理に該当するとは書いてないため、今回の迅速LoTWコーンファームが通常処理によるものかドーネション優先処理によるものかは不明です。

追伸:QSLマネージャのLoTWアップロードの順番間違いだったようです。以後、是正されるようです。

詳細経緯

交信できただけでなく、室内LW×10Wに対してプラスdBのレポートがコールバックされる特異な伝搬でした。記憶が鮮明なうちに、詳細経緯を記録したいと思います。

CQ誌の伝搬予測にある通り、JAとの伝搬の時刻-周波数パターンはシンプルです。ハイバンドは夜半から深夜にかけての4時間がピークです。平日も仕事が終わってから参戦できるため、サラリーマンには取り組み易いDXpeditionでした。

ただし、当局はダイニングテーブルへの室内移動運用のため、ピーク時に夕食撤収を余儀なくされます。そこである日に一計を案じ、夕食準備の当番に立候補しておいて、「今日は忙しくて疲れたから弁当にするよ」と宣言して弁当を調達しました。家人にはダイニングテーブル隣の炬燵で弁当を食べてもらい、当局は無線機の前に弁当を広げてFT8の画面にかじり付いていました。交信が成立したのは、まさしく弁当作戦の日でした。

弁当作戦の日から遡ること一週間ほど前、ビックガンの需要が充足されたことを願いつつ、ペディション中盤からパイルに参戦しました。CWはパイルの帯域が広がっており、ピックアップされる予感がしなかったため、デコードされればパワーに関係なくペディション局のPC画面に表示されるFT8を優先しました。

その日に3Y0Kのストリームが見えたのは20mでした。2本のストリームが見えていました。2本ともデコードする時もあれば、1本しかデコードできない時もあり、コンディションは不安定でした。しばらく待つと、-20dBでコールバックがありました。ぎりぎりですが、伝搬が安定していれば交信可能です。しかし、リトライがあり、その後はQSBに沈んでしまいました。

その後も粘っていると、今度は-06dBでコールバックがありました。頂いた・・・と思ったのですが、またQSBに沈みRR73は確認できませんでした。もしかしたらRR73を受信できなかっただけかもしれないと期待して、翌日ClubLogを確認しましたがNILでした。

3Y0Kの長い待ち行列に入ってからタイムラグがあってコールバックされるため、QSB下ではコンディションのピークが合わないようです。そこがリアルタイムのCWよりローパワーFT8の難しい点です。

3Y0KはFox/Houndモードで運用することがアナウンスされており、この時はHoundモードで応答しました。お呼びがかかれば、QRM下のHound局帯域から釣り出されて静寂のFox局の縄張りで応答するため、交信成立確率が上がるはずです。しかし、Fox局の縄張りでコールする局が散見されました。F/Hモードが浸透していないと、Fox局の縄張りも平穏とは言えません。また、隣のストリームに同時にビックガンが釣り出されると、リトルピストルはそのスプリアスに圧殺される気がします。以後はHoundモードは止めて、通常モードでコールすることにしました。F/Hモード応答の必要条件はDF=1000Hz以上のHound局の縄張りで呼ぶことだけです。

ビギナーズラックの20mの機会を逃すと、以後は17m等でコールを続けましたがコールバックの無い日が続きました。そして、パイロットの方から撤収準備の日が翌日に迫ったことがアナウンスされた運命の弁当作戦日が巡ってきました。

その日は15mで3Y0Kが見えてから、どんどんコンディションが良くなり、ストリームは4本に分裂しました。5本になると苦しくなりそうですが、4本で止まってくれました。4本の信号強度は各-11dBほどあり、4本とも安定にデコードできます。各局への「RR73」返信率も高い確率に見えました。

コールバックされているのはJAを中心として、近隣国を含めたASの局だけです。各局ともにプラスdBのコールバックレポートを得ており、「終盤なのにJAにはまだこんなにビックガンが残っているのか・・・」と暗澹たる気持ちになりました。

弁当を頬張りながら長時間呼び続けると、突然コールバックがありました。驚いたことに当局にも+04dBのレポートが返ってきました。シーケンスは何事もなくストレートに進み、RR73も無事に返ってきました。待ち行列によるタイムラグが長くても、コンディションが良ければFT8の交信は無事成立することが分かりました。それにしても異常にコンディションが良くないか・・・クラスタにはさりげなく「fb」と投稿されていましたが、室内LW×10Wの当局の感触を文字で表現するなら「very very FBBBBBBBBBB!」という感じです。パイレーツが疑われましたが、翌日朝にClubLogでLoginを確認できました。

異常コンディション

どうして、良い意味で異常な+04dBのコールバックが返って来たのかを調べてみました。

交信日と同じ日に行われたライブインタビューのYouTube動画を見ると、撤収日は天候予測に基づいて決められたとのことでした。

撤収準備開始前日の交信は、天候サイクルと太陽短周期サイクルが上手く重なったことによる僥倖とも思えます。太陽サイクルをdxscapeから引用します。

2月下旬に底を打ったSSNはペディション開始とともに徐々に回復の兆しを見せ、終盤の3/12-14に局所的なピークを見せます。ピークと言っても、サイクル25の年次ピークとは比べようもなく、2022年頃のコンディションと同じ程度です。SFIは下り坂でした。良いコンディションをもたらす状況には思えません。

交信日時のグレイラインを大圏地図上で調べましたが、グレイラインも特に寄与してはいないようです。

乏しい知識に残るイベントは「赤道異常」しか思い当たりません。「異常」という言葉は今回の体験と符合します。

「赤道異常」に関して上記資料が分かり易いですが、AIによる「赤道異常」の概要は以下の通りです。

赤道異常(EIA: Equatorial Ionization Anomaly、別名:赤道電離層異常)は、地球の磁気赤道付近の電離層において、電子密度が赤道直上ではなく、南北に約15度離れた緯度帯で高くなる現象です。昼間に発生する「フォンテーン効果」と呼ばれるプラズマの拡散が主因で、GPS測位や衛星通信の誤差を引き起こす原因となります。 
www.comnavtech-ag.com +2
主な特徴と影響
発生メカニズム: 日中、太陽光により赤道上で生成されたプラズマが、東向きの電場と磁場により上空に押し上げられ(ドリフト)、その後、磁力線に沿って南北に拡散(下降)することで発生します。
電子密度の分布: 磁気赤道上の電子密度が相対的に低くなり、南北の緯度15〜20度付近に電子密度の高い「頂点」が形成されます。
電波障害: 赤道異常帯(EIA帯)の電子密度分布が不規則になると、GPS衛星などの電波に時間遅延や強度の変動(シンチレーション)をもたらし、高精度測位を困難にします。
観測手法: 地上からのGPS受信機(TEC観測)や、衛星による大気光(630nm)観測などで分布が調査されています。 
NICT-情報通信研究機構 +5
この現象は主に昼間に発達し、日没後に特に激しくなることがあります。 
東北大学 惑星プラズマ・大気研究センター +1

AIのハルシネーションはチェックしていませんが、最後の文章が今回の体験と符合します。電離層は紫外線によって形成されることから、日照のある昼間に密度が高くなるはずです。しかし、今回の異常体験は夜半の出来事であり、「赤道異常」が原因なら日没後に発生しないと辻褄があいません。

CQ誌2025年9月号の記事「HF帯長距離電波伝搬のメカニズムを探る」に前回3Y0J(ブーベ島)DXpeditionにおける伝搬実例のシミュレーション解析結果が掲載されていました。それによると、「赤道異常」による電子密度分布の傾きによって弦状ホップ伝搬モードが形成され、地表反射回数を減らして伝搬したとのこと。減衰の大きな地表反射の可能性があるのは赤道付近のマレーシアやインドネシアあたりですが、「赤道異常」が発生すれば弦状ホップで上手く飛び越えて行けそうです。また、赤道異常は太陽に追尾しますがオフセットがあり、夕方から深夜にかけて日本の南方に存在していることも示されています。前回に引き続いて、今回の3Y0Kの伝搬実例も解析されることを期待します。

統計

3Y0KのQSOについて統計が公表されています。

バンド別QSO数は、CWとFT8の合算では17mが最多だったようです。当局が参戦したペディション後半に限っては17mのストリーム数は少なかったように記憶していますが、ペディション前半でオープンしたのでしょうか。FT8のQSO数は全バンドでCWの約2.5~3.6倍になっています。

モード毎のユニーク局数は、CWが約40%、FT8が約30%でした。FT8の方が複数バンドの交信が容易であることは予想の通りです。FT8では平均して3バンド以上で交信していることになります。ユニーク局数でみると、FT8はCWの2倍でした。

大陸毎のバンド別QSO数を見ると、ハイバンドでは圧倒的にEUが飛びぬけていました。ハイバンドではAS、NAと続きます。ローバンドではEUとNAが肩を並べます。

3Y0Kから見るとEUとの距離が一番近いようです。ただし、SPではAFを超えていく必要があります。グレイラインを上手く使えるのでしょうか。

NAは広いのですが、東海岸はJAより近くなります。ただし、SPではSAを超えていく必要があるようです。海面反射がメインのJAより条件が難しいのかもしれません。