非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

室内ロングワイヤーアンテナはDXCCの夢を見るか(11)

2025年新春のDXpedition

2月から3月にかけて、室内LW × 10Wでも挑戦可能な下記5件のオセアニアおよびアジアのDXpeditionがありました。

  1.  V73WW(OC、マーシャル諸島
  2.  VK9XU(OC、クリスマス島
  3.  VK9CU(OC、ココス諸島
  4.  4S7SPG(AS、スリランカ
  5.  VU4AX(AS、アンダマン・ニコバル諸島

当初の予想は以下の通りです。1. V73WW(マーシャル諸島)は海面反射のみの近距離パスのため交信可能と予想。 2. VK9XU(クリスマス島)および3. VK9CU(ココス諸島)はコンディションが良ければ交信を期待できると予想。4. 4S7SPG(スリランカ)および5. VU4AX(アンダマン・ニコバル諸島)は伝搬経路に大陸反射を含むため交信には僥倖が必要と予想。

CWの運用もあったため、DXCC CW 100達成に向けて全件CWで交信したかったのですが、室内LW × 10Wでは予想通り難しいエンティティもありました。結果、1. 2. 3. 4. はCWおよびFT8で交信できましたが、5. はFT8による交信に留まりました。詳細は以下の通りです。

 1. V73WW(OC、マーシャル諸島

先に報告したように、V73(マーシャル諸島)のATNOは昨年晩秋のDXpedition V73WEで解消していました。前回のV73WEはワンオペによるFT8サービスだったため、今回のV73WWチームに対してはCWによる交信を目標にしました。

また、FT8も20mと40mバンドのスロットがまだ空いていたため、FT8の空きスロット埋めを2次目標にしました。他のスロットについては、V73WE交信時のコンディションと比較するために、CQを出している時を中心に呼んでみることにしました。

結果、CWに加えてFT8も10mから40mの7バンドで交信することができました。近距離のOCであれば、室内LW × 10Wでも十分に楽しめることを証明できました。コンディションが下がると、ビックガンとの差は大きく開きますが・・・。

FT8の定量的な信号レポートを取得できたため、両DXpedition局の比較を行いました。定量的と言ってもHFではQSB下の瞬時値になるため、その辺は間引いて考える必要があります。CWでは「599/QSB」と区間最大値になるところが、機械的なFT8では「519/QSB」になるかもしれません。

上図左は、縦軸にDXpedition局(His)の信号強度を取り、横軸に返送された自局(My)の信号強度を取った散布図です。赤丸マーカが昨秋のV73WE、青角マーカが今春のV73WWを示します。破線より上はDXpedition局(His)の方が自局よりも信号強度が高い場合を、破線より下はその逆の場合を示します。室内LW × 10Wの自局よりも相手局の方が信号強度が高い場合が一般的ですが、DXpedition局はFT8の複数のストリームにパワーを分散して送信するため、逆転する場合も生じます。

総じて、昨秋のV73WEよりも今春のV73WWの方がDXpedition局(His)の信号強度が高い上側に位置することが分かります。V73WEのアンテナは、3エレビーム(10m/12m)、VDA(15m)、2エレバーチカル(30m/40m, 17mATU)とブログに報告があります。Rigはベアフット(IC-7300)のようです。

対して今春のV73WWのアンテナは、VDA(10m/12m/15m/17m/20m)およびバーチカル(30m/40m)とブログに報告があります。Rigはリニア付きのようです。両局の信号強度の違いは、季節変動によるものかリニア有無の差によるものかは判然としませんが、後者のリニア有無の違いが大きいように思われます。

上図右は、縦軸に今春のV73WWから返送されたMy信号強度を取り、横軸に昨秋のV73WEから返送されたMy信号強度を取った散布図です。リニア有無は影響しません。30mは破線上の同等の信号強度でしたが、10m/12m/15m/17mは今春V73WWから返送されたMy信号強度の方が昨秋V73WEより強くなりました。両局の30mのアンテナは1エレと2エレの違いはありますが、同じバーチカルアンテナです。10m/12mは3エレビームの昨秋V73WEの方がビームの方向がJAに向けられていれば有利なはずです。今春の方が昨秋よりもコンディションが良かったと言えそうです。

17mは特に強力に今春V73WWに届いていました。FT8交信時のWSJT-Xのスクリーンショットを示します。

1ストリームのCQ受信は+24dBでしたが、2ストリームのコールバックは+04dBに低下しました。+14dBのレポートをもらいましたが、EUには+24dBのレポートを返しています。コンディションが良かったことが分かります。なお、一見5ストリームで運用しているようにも見えますが、強度に差があり過ぎるため2~3ストリームの運用と判断しました。

比較のため、昨秋V73WEとの17m FT8交信時のWSJT-Xのスクリーンショットを示します。

-06dBの1ストリームで運用しており、コールバックは-2dBでした。QSBでV73WE局の信号が消えている区間もあります。リニアの有無以外にコンディションの違いを感じます。昨秋は現地の天気も晴天に恵まれることが少なかったようです。

2. VK9XU(OC、クリスマス島

2年前に逃したクリスマス島に再チャレンジする機会が巡ってきました。太平洋上ではなくインド洋の島ですが、コンディションが良ければ室内LW × 10Wでも交信可能と期待して臨みました。

結果、CWおよびFT8の両モードで、30mから10mまで20mを除いた5バンドで交信できました。

20mができなかった理由は分かりません。ATNOが解消したために油断したのかもしれません?

同じチームによる次のVK9CUではOQRS後に間を置かずにLoTWでコンファームできましたが、なぜかVK9XUは未だにLoTWにアップされません。調べると他のJAの方はLoTWでコンファームができている模様。Opによって対応が違うのでしょうか? 3か月後には無条件にLoTWにアップされる予定なので、その状況を見てQSLマネージャに打診することにします。

 3. VK9CU(OC、ココス諸島

VK9XUと同じチームによるDXpeditionです。クリスマス島ココス諸島はセットでDXpeditionの対象になることが多いようです。距離的にはココス諸島の方が少しだけ遠いようです。それが原因とは思えないのですが、VK9XUより信号は弱いように感じました。

ココス諸島のATNOは昨秋のVK9CV(下図右)によって解消し、CWの交信もできているため、VK9CU(下図左)ではスロット埋めが目標になりました。結果、12m CWと10m CWが増えました。FT8は伝搬を確認するための交信に留まり、バンドスロットは増えませんでした。

4. 4S7SPG(AS、スリランカ

アジアで室内LW × 10Wによる交信が期待できるエリアは東アジアに限定されます。例えば、インドはATNOではありませんが滅多に交信できません。スリランカもFT8でATNOを解消することを目標として臨みました。

ふたを開けてみると、20m CWを皮切りにCWは2バンド、FT8/FT4は3バンドで交信できました。予想外の成果です。

OQRSでリクエストしたQSLカードも直ぐに届きました。像をモチーフにしたQSLカードカンボジアに続いて2枚目です。QRZ.comに、まさしくこの像の写真を撮影しているスナップが載っています。借り物ではなく、DXpeditionが行われた時に草を食んでいた像のようです。

なお、4S7SPGの後に4S7KKG(半常駐局?)がQRVしており、10m FT4を積み増すことができました。

5. VU4AX(AS、アンダマン・ニコバル諸島

DXpeditionが行われたアンダマン島はインドの島ですが、インドシナ半島ミャンマーに近い位置にあります。JAからは前記スリランカとほぼ同じ方向で距離は近くなります。4S7SPGと同等かそれ以上の戦績を期待したいところでした。

しかし、結果は17m FT4、15mおよび12m FT8に留まりました。CWは17mで一度コールバックがありましたが、一文字違っているように聞こえたため再送するとQSBの底に沈んでNILになってしまいました。DXCC CW 100に向けた貴重な積み上げの機会を逃してしまいました。

VU4AXのロゴは像です。3枚目の像のQSLカードが揃うでしょうか?