非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

室内ロングワイヤーアンテナはSWR1.0の夢を見るか(14)

日乗

昨年秋に交信したPedition局のQSLカードの第二弾が届きました。ビューロー経由ではなくQORSでリクエストしたものですが、数枚毎にまとまって届くのが不思議です。郵送システムのどこかにバッチバッファが存在しているのでしょうか。

E6AM(Niue)

2023-10-23にリクエストしたところ2024-02-06に届きました。表面には、Niueの風景写真にメンバーのスナップ写真とスポンサーのロゴが配置されています。裏面は、Niueの風景を背景にした交信証明ログになっています。周波数が高い側の3つのHF High Band( 10m / 12m / 15m )で交信できました。

驚いたことに、Pedition局なのに手書きのQSLカードでした。謝辞に当局の名前まで個別に入っています。Club Logで確認したとことろ、QSO数は41,939回、Unique数(局数)は15,169局に上っています。何人の方がOQRSリクエストを出したかは分かりませんが、結構な数になったのではないでしょうか。頭が下がります。

H44WA(Solomon Islands)

2023-11-29にリクエストしたところ2024-02-06に届きました。2つ折りタイプのQSLカードでした。表面には、ガダルカナル島の風景、スナップ写真、アンテナの写真等が配置されています。裏面には、アンテナの写真を背景にしたメンバーの集合写真、スポンサーのロゴ、交信ログが貼付されています。5つのHF High Band( 10m / 12m / 15m / 17m / 20m )の全てで交信できました。

H44RH(Solomon Islands)

こちらも同じ時期に上記H44WAと前後して交信することのできたSolomon IslandsのPedition局です。同じガダルカナル島からのQRVでした。2024年早春も既に2局のH4(Solomon Is.)Pedition局の情報があり人気があります。

2023-11-28 にリクエストしたところ2024-02-13に届きました。表面は、水族館を思わせる絵画を背景にした現地のモデルの方の写真でしょうか。裏面には、交信ログが直接印字されています。15mバンドで交信できました。

日本語のメッセージが手書きされていますが、Opは海外在住の日本の方(JH4RHF局)でした。CQ誌2024年3月号の「近着QSL紹介」のページに「日本人ハムによる海外運用のQSLカード」として紹介されています。

この後、H44RHのOpの方はH40RH(Temotu Province)に移動されたらしいのですが、残念ながら交信できませんでした。しかし、年が明けて2月下旬にH40WA(Temotu Province)のPeditionがあり、昨秋のH44WAより信号は弱かったのですが何とか交信できました。

V6EU(Micronesia, Chuuk Island)

2023-12-17にリクエストしたところ2024-02-13に届きました。表面には、チューク諸島の風景を背景にした子供たちの写真とスポンサーのロゴが配置されています。裏面には、ヤシの木?の写真を背景にして、メンバーの集合写真、交信ログが貼付されています。18mバンドで交信できました。

LW3DG(Argentina )

こちらはPedition局ではなく、前々回報告したeQSLに「いいね」コメントをくれたアルゼンチンの局のQSLカードです。この一般交信は、20mバンドのCQにコールしてQSBがあるなか、なんとかレポート交換を行い交信できたものです。

過去にアルゼンチンの局とはコンテストで交信したことがありましたが、コンファームには至っていませんでした。この交信はeQSLにてコンファームできていましたが、eQSLはDXCCに無効ということでしたので、メールで紹介のあったQSLマネージャにOQRSリクエストを出しました。2024-01-09にリクエストしたところ一月後の2024-02-06に早くも届きました。

表面は Buenos Aires の薄暮の夜景写真、裏面にはアルゼンチンの国旗を背景に交信ログが貼付されています。裏面のバグキーの写真には「REAL HAMS USE CW」との熱い思いが銘記されています。

パドル

現在、Begali と Bencher のパドルを保有しています。Begali も Bencher もCWerには有名なパドルメーカです。奇しくも、同じ「B」で始まる社名(ブランド名)です。Begali はイタリアのメーカ、Bencher はUSAのメーカです。

元々、Begali の Magnetic Traveler Light を保有しており、これ1台を使い倒そうと思っていました。しかし、慣れた頃に「手崩れ」が発生してきたため、リハビリ?も兼ねて特性の異なる(と噂される)Bencher のパドルを使ってみたくなり、断捨離に逆行しますが入手しました。趣味の世界で道具に凝るのは共通事と思いますが、保管場所が無いため、パドルコレクターの沼にはまらないように注意したいと思います。

Begali Magnetic Traveler Light

モデル名称に入っている Magnetic は、パドルアームのストッパ待機位置への復元力を、一般に用いられるスプリングではなく、磁石の反発力から得ていることを表しています。Traveler Light は移動局用の軽量パドルであることを表しています。確かに Begali の他の重量級のパドルよりは軽量なのですが、日本人の体格では想定使用方法の通りに足にベルトで固定して運用するには重すぎます。移動局用モデルのため、機構部は全て外郭の中に納まっています。取り扱いに気を使う必要が無く、室内移動運用では重宝しています。

Begali Magnetic Traveler Light はシンプルな機構で設計されています。フィンガーピースを内側に押すと、回転軸の反対側のコンタクトが外側に移動して接点が閉じます。フィンガーピースを開放すれば、回転軸を挟んでコンタクトと同じ側のアームに作用する磁石の反発力で、ストッパまでアームが内側に移動します。後述のBencher と比較して、単純明快な機構です。

外殻もアームも、角にはRではなく面取りが見えるため、鋳造部品ではなく、精度の高い削り出し部品と思われます。まだ分解していないため予想ですが、回転軸はボールベアリングで受けているのではないかと思われます。剛性は非常に高く、弾性変形する部分はプラスチックで出来たフィンガーピースのみとなります。フィンガーピースをオプションのアルミ製に換装すれば、弾性変形する部分が一切ない超高剛性パドルになります。打鍵感触は「カチカチ」という感じでしょうか。

Bencher JA-1

Bencherパドルの第一印象は不思議な造形をしているということです。その外観は、羽を広げた鳥あるいは両前足を踏ん張った爬虫類のオブジェのようでもあり、使途不明の手術器具のようでもあります。電鍵である限り、回転軸があって、ストッパとコンタクトの間をアームが往復運動する機構になっているはずですが、その回転軸を特定することが写真からは困難なのです。

Bencherパドルの代理店販売情報には容易にアクセスできますが、メーカのHomePage(Bencher.com)へのリンクはVIBROPLEXの販売ページにリダイレクトされてしまうようです。M&AによりVIBROPLEXの傘下に入ったのでしょうか。Bencherパドルの技術情報等はWeb上になかなか見つかりません。しかし、Webページの「世界の電鍵デザイナーたち」に微かなヒントがありましたので、引用させて頂きます。

W8FYO
Joseph A. Hills / Joe Hills
米国アリゾナ州フェニックス
 1962年に揺り軸と針状の接点を組み合わせたパドルを初めてデザインしたことで知られる米国オハイオ州デイトンの電鍵デザイナー。ジョセフが発明したこの種の電鍵はFYO型と呼ばれ、ベンチャー(Bencher)社やMFJ社などの製品に採用されて一世を風靡した。現在もベンチャーのBY-1/2/3やMFJ社などの製品に採用されている。

ちなみに、Bencherパドルの米国オリジナルの型番はBY-1/2/3です。JA-1/2は、日本の代理店がリクエストを出して、アーム引き戻しスプリングのテンション調整機構を設けたJA専用モデルを表すようです。数字は台座の仕上げの違いを表します。手入れ不精の当局は、指紋を気にする必要のないアルマイト仕上げ?のJA-1を選択しました。

「揺り軸」と「針状の接点」がヒントです。これを手掛かりに、パドル機構の仕組みを調べてみました。

FYO型パドル機構の謎解き

Bencherパドル機構の各部の役割は上写真の通りです。なお、各部の名称は説明のために当局が便宜的に呼称したものであり、正式名称ではありません。

アームは45度曲げが3回続く複雑な形状をしており、削り出し部品ではなく板金加工部品です。薄板の板金加工部品とすることで、コスト低減の効果の他、弾性変形特性を与える効果があり、Bencherパドル固有の打鍵感触を創り出す要素の1つになっているものと思われます。

奥の固定円環部品の前方に、左右2つの可動半割れ円盤が配置されています。アームはこの半割れ円盤にねじ締結されています。また、この半割れ円盤に挿入されている白い(テフロン?)部品が、件の「揺り軸」の軸受と思われます。角度を変えて見ると、下にも「揺り軸」軸受が見えます。

スプリングは固定円環部品の内側を通り、その端は円周方向から可動半割れ円盤を貫通するネジに引っ掛けられています。このネジの飛び出し長さを調整することで、固定円環部品の内周を支点にスプリングが少し屈曲します。このネジの飛び出し長さが、後述の上下2つの「揺り軸」を結ぶ仮想回転軸と、スプリング引っ張り力の作用点の間の距離を決めており、ネジ飛び出し長さの調整により可動半割れ円盤の引っ張り力モーメント(トルク)を調整できるようです。本家BY-1/2/3では、このネジのみが引っ張り力の調整機構になるようです。調整範囲が狭いためか、JA-1/2では別途に引っ張り力調整機構を後方に設けたものと思われます。

固定円環部品からは、スラスト方向にストッパの役割を果たす先端の鋭いネジが飛び出しています。フィンガーピースを開放した時に、可動半割れ円盤を貫通しているアーム締結ネジの端部がストッパに当たることで、可動半割れ円盤はコンタクト解放位置に静止します。

フィンガーピースを解放静止位置から(自己責任で・・・)さらに逆方向に無理に捩じることで、「揺り軸」軸受(白い部品)に嵌まる金属軸の先端を外して、その円錐形状を観察することができます(下写真左)。また、観察角度を変えると、「揺り軸」軸受側のすり鉢形状を確認することができます(下写真右)。

金属軸の先端は円錐形状をしています。写真の解像度が悪いのですが、シャープペンシルのように円錐の先から針が飛び出しているように見えます。これが「針状の接点」でしょうか・・・。

金属軸の円錐テーパー角度と「揺り軸」軸受側のテーパー角度が同じか異なるかは不明です。テーパー角度が同じであっても、「針状の接点」でオフセットが得られれば、金属軸に対して軸受は360度どの方向にも”揺れる”ことが可能です。右写真の左側の軸受を見ると、軸受すり鉢と金属軸円錐の間に”遊び”(隙間)があることが確認できます。

前述の通り軸受を2つ用いることで、回転自由度の1次元を拘束して揺れる方向は1次元に縮退します。これにより、固定円環から突き出た金属軸に対して、2つの軸受が埋め込まれた半割れ円盤はアームの方向のみに”揺れる”仮想回転軸を持つことになります。

最後に、役割が良く分からないネジが1つありました。「ガイドネジ」と仮称しています。マイナスネジなので締結用のネジでないことは分かります。このネジを締めたら、半割れ円盤が固定円環に固定されてしまいそうです・・・。

固定円環に対して、半割れ円盤を円周方向とスラスト方向の両方向に緩く拘束しているだけです。前述の通り、半割れ円盤はスプリングの引っ張り力モーメント(トルク)によって固定円環に押し付けられているだけです。興味本位にフィンガーピースを逆方向に捩じると、半割れ円盤は金属軸から外れてしまいます。珍局を見つけて勢い余った際に、部品が飛散しないように緩く拘束しているのではないかと推察しています。固定円環に対して半割れ円盤をガイドして、組立を容易にするといった役割も考えられます。

実物を入手して漸くFYO型パドルの機構が理解できました。パドルの機能から機構を構想すれば、自然に Begali Magnetic Traveler Light と類型の機構に落ち着くと思います。W8FYO局は一体どのようにFYO型パドルを着想したのか、その謎は残ります。このようなパドルを発明してくれたことに敬意を表し、W8FYO局のコールサインを記憶に留めたいと思います。