非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

室内ロングワイヤーアンテナはSWR1.0の夢を見るか(3)

日乗

今年の猿橋賞(第一線で活躍する女性科学者を表彰する賞)の発表があったことを新聞で知りました。アマチュア無線家にも関係のある研究業績が対象になっていました。

受賞者は武蔵野美術大学の「宇宙気候学」を専門とする宮原ひろ子教授で、対象の研究業績は「太陽活動の変動のメカニズムおよびその気候への影響に関する研究」でした。その内容は(門外漢の私にとっては)驚くべきものでした。

太陽の活動サイクルは11年周期であり、今は記録を取り始めてから25回目のサイクル25のピークに向かっている・・・との認識を様々な情報ソースから得ていました。では、記録を取り始める前はどうだったのでしょうか? 宮原教授の研究業績はそれを明らかにしています。

猿橋賞のホームページの研究業績要旨によると、太陽活動は以下の因果関係によって放射性同位元素である炭素14を増減させるとのことです。

太陽活動 ⇒ 太陽磁場 ⇒ 宇宙線流入量 ⇒ 大気中反応 ⇒ 中性子 ⇒ 窒素吸収 ⇒ 炭素14

これを利用した研究業績の要旨を引用します。

このため植物や湖底の堆積物などに含まれる炭素14の量の測定から、過去の太陽活動の強弱を見積もることができる。宮原ひろ子氏は、長寿命の屋久杉などを使って、年輪を1枚ずつ剥がしてそこに含まれるごく微量の炭素14の量を測定することで、太陽活動の基本周期の長さが長期変動に伴ってどのように変化するのかを前例のない高い精度で復元することに成功した。

その結果は以下となっています。

17世紀から18世紀にかけて黒点がほとんど見られなかった時期にも、弱いながらも活動周期が存在し、その長さが14年程度に長くなっていたことを発見した。この太陽活動が不活発な時期は小氷期と呼ばれた寒冷期にあたる。

中世の温暖期の初期にあたる9世紀から10世紀には、太陽活動は非常に活発で、活動周期が9年程度に短くなっていたことも発見した。

太陽の活動サイクルは11年で固定ではなく、過去の実績では9年~14年程度の変動はあったということになります。まだ僅かに25回しか記録していないのですから、将来どうなるかは太陽のみぞ知るです。もし活動周期が変わったら、アマチュア無線家が一喜一憂するだけでは済まなく、気候に大きな影響があるものと思います。

宮原教授の下記寄稿は、17世紀(江戸時代初期?)のマウンダー極小期について解説しており、国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができます。

宮原、「太陽活動に伴う宇宙線変動と気候変動」、プラズマ・核融合学会誌、vol. 90、No. 2 (2014-02-25)

学会誌以外には、例えば以下の書籍(DOJIN文庫) があります。読んでみたくなりました。

宮原著、「地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか:太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来 」、化学同人 (2022/12/2)

IC-705通信遮断の対策

Wi-FiによってPCとIC-705をLAN接続しようと試みていますが、送信するとCAT/Audio通信が遮断される問題に悩まされています。コモンモード電流の対策は行いましたが、劇的な改善には至っていません。

以下、追加の対策を講じた覚え書きです。

アース接地

IC-705の小型筐体(おそらくアルミダイキャスト?)が電波を受信してGNDが変動する可能性を潰すために、保安アースを接地しました。

集合住宅の電気配線図は入手出来ていませんが、壁の3Pコンセントにアース端子もあることから躯体に落としたD種接地になっていると思います。

アース線がアンテナになることを防ぐために、クランプコアによってコモンモード電流対策も施しました。

Rig grounding.

結果は、改善も改悪もなく、無くても良いかな・・・という状況です。雷雨の時の保安上はあった方が良いと思いますが。

USB有線接続

無線と有線を切り分けるために、Wi-Fi LAN接続を一旦あきらめ、USB有線接続に切り換えました。

USBケーブルはHDD用に三重シールドケーブルまで市販されていることを確認しましたが、HDD用はUSB2.0 MicroBではなくUSB3.0 MicroB(USB 3.0に追加したSuperSpeed差動信号用の接点が横方向に拡張されている)コネクタになっているため、IC-705 には差し込めません。USB2.0 MicroBの最短15cmの二重シールドケーブルを購入しました。

下の写真にはコモンモード電流対策用のクランプコアが写っていませんが、この短い距離にもコアを2個嵌めました。

Shortest wired connection with 15cm double-shielded USB cable.

結果は、万全ではありませんが改善効果がありました。15m以下のバンドでは通信遮断が起こらなくなりました。しかし、依然として10mでは送信により百発百中で遮断します。他の12mおよび6mの各バンドは今後検証します。

シールド板の設営

上の写真から分かる通り、リグ(IC-705)とATU(AH-705)が同じダイニングテーブルに乗っており、距離が近過ぎるのではなかとの仮説を立てています。電波の強さは距離の二乗に反比例します。

AH-705はプラスチック筐体です。SNSの分解写真を参照しても、内部にシールド塗装は施されていないようです。附属ケーブルは5m2m長であることから、本来は5m程度離して使用することが想定されている(その状況で性能確認がされている)と思われます。

しかし、室内設置では取り回しの自由度は限られます。そこで、リグとATUの間にアルミ板(正確にはアルミニウムはくのレンジパネル)を設営しました。効果は今後評価します。

キーパッドの製作

コンテストでデータを集めて室内LWアンテナを評価していますが、ロガーソフトとリグを接続できないのは不便です。コンテストではQSBの間隙を突いた高速打鍵が必要になることもあるため、メモリーキーヤーの併用が必要になります。IC-705のタッチパネルのメモリーキーヤーは操作性が良いとは言えません。

そこで、物理的なキーパッドを製作しました。抵抗分圧回路の回路図はマニュアルに掲載されています。2チャンネルの電圧を各4種類に分圧して計8種類の状態を作り出す回路です。

部品は全て秋月で揃えました。72×47mmのユニバーサル基板に部品は全て乗りますが、部品配置には余裕がありません。VUJ Lab.さんのVLOGアマチュア無線 IC-705用外部キーパッドの製作」を参考にさせて頂き、部品購入前に慎重に検討しました。

72×47mmのユニバーサル基板の孔数は基板によって異なるようです。最多27×17孔(4隅はネジ穴で欠落)の基板を使用しました。タクトスイッチは出来るだけ多くの色と形状を集め、人間工学的に?押し間違いを防止するようにしました。パドルとキーパッドを並列接続するためには、3.5mmステレオジャックを2個搭載する必要があります。予め2個搭載の配置配線を計画しておく必要があります。下写真から黄色ボタンの上の2個の抵抗配置が少し窮屈になっていることが分かります。

Keypad for operating the memory keyer by means of physical buttons.

IC-705に接続しただけでは反応せず焦りました。メニューで外部キーパッドをON(有効化)にする必要がありました。エッジトリガーを検出してADCによる電圧分圧値読み取り関数に分岐させるかどうかをメニューフラグで決めているものと思います。パドルもキーパッドも正常動作しました。なお、パドルと同じくキーパッドも常に有効なため、画面にメモリーキーヤーを表示する必要はなくなり、スペクトルスコープ等で広く使えます。

DXコンテスト参加によるアンテナ性能の評価

前回のARRL DX CWコンテストでは、北米方面へのパスについて室内LWアンテナを評価しました。今回、JIDX-CWとCQMM DXの2つのコンテストに参加し、他のDX方面へのパスについて室内LWアンテナを評価しました。

View while participating in the DX contest; temporary radio shack on a dining room table.

当日の太陽黒点相対数の推定値を下記に引用します。JIDX-CWよりもCQMM DXの開催日の方が太陽黒点数は3倍程度多かったようです。

Estimated international sunspot number.

宅建物の影響を考えると、NA(北米)およびEU(欧州)方面のパスは開けていて、OC(大洋州)方面は死角になっている可能性が高いとの予測のもと参加しました。結果を以下にまとめます。

JIDX-CW

JIDX-CW(Japan Internatinoal DX Contest - CW)では、DX各局が日本にビームを向けてくれる特典があります。

時刻別のQSO数を下記に示します。合計66局、初日20局、二日目46局のDX局と交信できました。

Rate graph of QSOs by time for the JIDX-CW contest.

コンテストはUTC時刻の朝開始に合わせているため、JSTでは4月8日土曜16:00開始でした。当日は風雨が強く、外は嵐のような様相でしたが、室内LWアンテナは気象の影響を受けずに運用できることが利点の一つです。

一方、室内LWアンテナは架設する部屋を選び、ダイニングテーブルが宅内運用場所であるため、食事時に撤収する必要があることが欠点です。初日は21時過ぎまで粘り、夕食のために撤収しました。

陸別QSO数の内訳を下記にまとめます。室内LWアンテナで交信できた大陸は、NA(北米)19局、EU(欧州)11局、AS(亜州)26局、OC(大洋州)10局でした。交信実績が積み上がらなかった大陸は、SA(南米)、AF(阿州)、AN(南極)の3大陸です。SAは短時間ですが聞こえていたと思いますので、今後チャンスがあるかもしれません。AFとANは見通し無しです。

Breakdown of QSOs by time and continent for the JIDX-CW contest.

NAとASは既に実績がありましたが、EUおよびOCと室内LWアンテナで交信可能なことが今回確認できました。正確に言うと、OCに属するハワイとフィリピンとは交信実績がありました。今回、オーストラリアおよび太平洋諸島との交信実績が新たに積み上がりました。OC方面は建物の死角になると予想していただけに、予想を裏切る嬉しい結果です。

バンド別では、20mバンドが6局、15mバンドが24局、10mバンドが36局となり、HFハイバンドが好調でした。80mと40mも覗きましたが、室内LWアンテナではJA局のCQしか聞こえませんでした。ただし、初めて80mでCW信号が確認できたのは収穫です。

頻繁にバンド間をQSYできる点もLWアンテナ+ATUの利点です。昔(第一次再開局失敗時)は、屋外設置ATUのリレー音のあまりの大きさに驚き使用を躊躇しましたが、室内に置いたAH-705なら騒音の心配もありません。

バンド別のDXエンティティーを下記にまとめます。

DX Entities by band for the JIDX-CW contest.

20mは、ASとNAのみでした。

15mは、ASおよびNAに加えて、OC(フィリピン)およびEUと交信できました。NAには北米東海岸ニューハンプシャー州の局が含まれます。先のARRL DX CWコンテストで逃した東海岸とも今回交信できました。二日目早朝6時に早起きをした成果です。EUは北欧(フィンランドスウェーデン)が良く聞こえていました。ノルウェーが聞こえなかったのはなぜでしょう・・・。

10mは、AS、NA、EUに加えて、OC(オーストラリアおよび太平洋諸島)と交信できました。ただし、オーストラリアはVK6(西オーストラリア州)1局だけで、太平洋諸島も5W(サモア)1局だけでした。やはり、拙宅の室内LWアンテナはOC方面を苦手としているのかもしれません。一方、自宅建物の死角に入らないEUの最遠エンティティーはEA(スペインマドリード)でした。

コンテストではコールサインとコンテストナンバーを交換するだけですが、後で各局のWebページを捲るのが楽しみです。室内LWアンテナに強く入感するようなDX各局のアンテナは、HFハイバンドでは多素子の八木アンテナがベースラインで、クラブ局になるとそれをスタックしたアンテナファームを備えていることが分かりました。最大なものは、10mの6エレ3段スタックの八木アンテナでした。そのような指向性の強いアンテナを日本に向けてもらえたからこそ、室内LWアンテナ×10Wでも交信が成り立ったものと思います。

CQMM DX

CQMM(Manchester  Mineira)DXコンテストは、ブラジル発祥のコンテストで、当初のブラジル国内対象から、南米、アメリカ、ワールドワイドへと対象範囲を拡大してきたコンテストのようです。日本ではパブリシティが少ないため、その存在を知りませんでしたが、HFハイバンドで「TEST MM」が聞こえてきたため、Webで調べて急遽参加することにしました。日本も他のDX局と同じ立場で参加するため、DX局が必ずしも日本にアンテナを向けてくれない場合のベンチマークになると考えたためです。

時刻別のQSO数を下記に示します。合計11局、初日1局、二日目10局でした。計画的に参加の体制を整えていなかったことや、JIDX-CWで交信できなかったDX局を探したという側面もありますが、DX局がアンテナを向けてくれない場合の本来の室内LWアンテナの実力かもしれません。

Rate graph of QSOs by time for the CQMM DX contest.

陸別QSO数の内訳を下記にまとめます。交信できた大陸は、EU(欧州)3局、AS(亜州)2局、OC(大洋州)6局でした。

Breakdown of QSOs by time and continent for the CQMM DX contest.

NA(北米)とは交信できませんでした。アンテナをSA(南米)あるいはEUの方に向けていたのかもしれません。建物の死角になるはずのOC(大洋州)は6局と交信でき、比率が大きくなりました。

バンド別のDXエンティティーを下記にまとめます。この日も10mが好調でした。

DX Entities by band for the CQMM DX contest.

EUは、OH(フィンランド)2局とLZ(ブルガリア)です。やはり、北欧は強く入感します。

OCは、DU(フィリピン)、FK(ニューカレドニア)、KH6(ハワイ)、T8(パラオ)、VK(オーストラリア)と交信できました。太平洋諸島が室内LWアンテナの死角に入らないことが検証できました。

ただし、VKはJIDX-CWと同じくVK6(西オーストラリア州)の局でした。コールサインは異なります。室内LWアンテナからはVKの東側が見えないのか、引き続き検証が必要です。

JARL中央局

室内LWアンテナ+ATUはバンド間を容易にQSYできることが利点の一つです。10mのCQ局探しが一段落して40mにQSYしたところパイルが見えました。DX珍局が40mに出現か?と思って聞いていたところ、JARL中央局JA1RLでした。

「世界アマチュア無線の日」の特別運用を実施していたようです。NYPでは時間切れでJA1RLと交信できなかったため、Up指定のパイルにスプリット運用で果敢に挑戦しました。しかし、3回ほど呼んで諦め、10mのCQMM DXコンテストに戻りました。

パワーは無くとも高速頻繁QSYが身上です。10mと15mの探索を終えて再び40mに戻ってくると、Up指定のパイルは捌け、オンフレでCQを出していました。すかさずコールして交信できました。

ただし、信号は強くなく、DX局と同じくコールサインの再送も必要でした。拙宅から豊島区の方角には建物があります。空は開いているためNA方面のDXには支障がないと思われますが、地表伝搬で交信する場合は障害となる可能性があります。逆に、周囲の建物で散乱されることによって死角になるはずのOC(大洋州)と交信できている可能性も考えられ、前向きに考えれば一概に障害物とは言えません。

JD1(南鳥島

後日、JD1(南鳥島)が17mでUp指定のパイルになっていました。云十年前の開局時に6mで最初に交信したDXがJD1だったため懐かしく、こちらのパイルにも参加しました。5回以上はコールしたと思いますが、10回に到達する前に交信できました。

南鳥島小笠原諸島とは異なりOC(大洋州)に属します。やはり、OC方面は死角にはなっていないようです。

繰り返しになりますが、HFマルチバンドを全天候対応で隈なく迅速に探索できる点が室内LWアンテナ+ATUの利点です。出来るだけ早く珍局を見つけるか、頻繁に戻ってパイルの谷間やQSBの頂上を見つけることが楽しむコツと思います。

 

アパマンハムは、持って生まれた環境という訳ではないのですが、簡単には変えられない住居環境を最大限に享受して楽しみを見つけて行く必要があります。「集合住宅でアマチュア無線局が成立するか」を課題に第二次再開局を模索してきました。HFマルチバンドのCWで少なくとも4大陸のDXは可能であることが分かり、一定の成果は出てきました。ただ、FT8は電波障害が怖く、まだ手が出ません・・・。