非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

室内ロングワイヤーアンテナはSWR1.0の夢を見るか(11)

日乗

瑞祥新春

2024年元旦、北風が吹き快晴でした。今年も丹沢山塊の向こうに冠雪の富士山が良く見えていました。

今年の四文字熟語は瑞祥新春(ずいしょしんしゅん)にしました。「新春を迎え、良い兆しがありますように」という意味があるそうです。

ALL JA8コンテス参加記念品

昨年は内外のコンテストに精力的に参加して、室内LWアンテナ×10Wの性能評価を行いました。何れのコンテストにも呼び回り専門で参加し、入賞には遠く届きませんでした。

しかし、その中で21MHzシングルバンドで参加したALL JA8コンテストでは参加15局中3位につけることが出来ました。1位の局とは得点もマルチも倍異なりますが、2位の入賞局には肉薄していました。

惜しくも入賞は出来ませんでしたが、北海道8支部発足50周年の参加記念品としてトートバッグが抽選で当たりました。関係者のみなさまありがとうございました。

CQWW-DX CWコンテストでの3B8(Mauritius)との交信

遅筆に陥っていますが、昨年11月下旬のCQWW-DX CWコンテストの覚え書きを今年の再戦に向けて残します。

前回記したアフリカのS7(Seychelles)とコンテストで再び交信することはできませんでしたが、同じCQゾーン39の3B8(Mauritius)と交信することができました。その時の状況と後日の調査結果を書き残します。

20mバンドでの交信

コンテスト初日の夜、室内LWアンテナに入感する局はHigh Bandから順番に消えて行きました。そこで、室内LWアンテナの効率が良くない20mバンドに降りたところ、入感する局自体は少ないのですが、聞き慣れないコールサイン3B8MがQSBを伴いRST=319程度で入感してきました。調べると、アフリカ大陸東側のインド洋上のMauritiusであることが分かりました。

その時間帯は主にEUと交信している様子でしたが、時々JAも交信に成功しているようでした。そこで奇跡を願って果敢に呼んでみましたが、もちろん空振り。コンディションの上昇を期待して深夜までワッチを続けたところRST=419程度まで上昇してきましたが、このコンディションでは10Wで呼んでも空振りです。翌朝のコンデション上昇を願って就寝しました。

コンテスト二日目の翌朝、早起きをしてIC-705のスイッチを入れたところ、20mの同じ周波数で3B8MがRST=589で入感していました。JA各局が次々と交信していますが、パイルはそれほど大きくない様子(聞こえなかっただけかもしれません)。IC-705渾身の10Wでは、kWのビックガンのみならず100Wのベアフット局の信号にも埋もれてしまいます。しかし、周波数オフセットを上に下にずらして試行錯誤することと数回、遂にリターンがありました。昨夜から粘った末の交信であるため達成感もひとしおです。

南米とは既に初日に交信できていたため、このコンテストでのWAC達成を確信しました。問題はOne-Day WACが達成できているかどうか・・・。

15mバンドでの交信

同じコンテスト二日目の夜、15mバンドで室内LWアンテナに聞こえてくる局はJAもしくは近傍アジアのランニング局だけになりつつありましたが、チューニングノブを回してバンド内をスキャンしていると3B8Mが15mバンドでも聴こえてきました。早朝の20mバンドよりも信号が弱い感じでしたが、すかさずコールしたところ驚いたことに今度は1回でリターンがありました。

これが20mと15mの違いなのでしょうか・・・。20mよりも反射する電離層の高度が高い15mの方がホップ数は少ないため、10W出力信号の減衰が緩和されたためか。あるいは2日目ということもあり各局は既に交信してしまい、競合局がいなかったためか。

3B8M遠征局についての後日調査

後日、3B8Mのコンファームを成就するためにQRZ.comのページを調べていると、Facebookの遠征記録やYoutubeの講演録へのリンクが掲載されていることに気付きました。ちなみに、2バンド共にLoTWでコンファームできました。

ロケーション

Mauritiusに標高の高い山は無いとのことでしたが、Facebookの表紙には形状に特徴のある岩山の写真が掲載されています。しかし、この岩山の頂上から電波を出した訳ではないようです。

上記QRZ.comのHamGrid Mapsを拡大すると下記左の地図のように海上にピンが打たれています。これでは3B8M/MMになってしまいます。Gridデータの誤差かな?・・・と思って航空写真に切り換えると、砂州で陸地とつながった岩礁に設けられたコッテージを拠点にQRVしていることが分かりました。

砂州も海水を含むと思われるため、360度海面反射の恩恵に与かれそうな絶好のロケーションです。しかも、ポイント大票田のEU/NAとJAに向けては砂州もありません。

アンテナ

Team 3B8MのワッペンはVDA(Vertical Dipole Array)アンテナを持つドードーモーリシャス島にかつて生息していたが絶滅してしまった鳥)です。

前回記したS79/G4IRNと同じく、3B8MのアンテナもVDAが主力であることがワッペンから分かります。ゴルフバックやスキーケースに入れて手荷物とするためには、軽量なVDAアンテナが好適なためと思われます。
Facebookの写真集(https://www.facebook.com/3B8Mauritius/photos)、および2022年の遠征についてのYoutube講演録(RSGB 2022 Convention presentation - 3B8 and 3B9 Contest DXpeditions - YouTube)から使用したアンテナ等に関する多くの情報が得られました。

まず、写真集からアンテナ群の配置を示す写真を見つけました。2020年の写真?かと思いますが、2023年もこの配置を踏襲していると推定します。文字が小さくて読み難いため、大文字フォントで復唱しました。

VDAは指向性アンテナであるため、20mバンドと15mバンドについてはEU/NA方面向けとJA方面向けに個別のVDAアンテナが設営されています。

NAの日の出とEUの日没はMauritiusの日没と同じグレーライン上に並ぶようです。2021年のビーム方向別のQSO数データがYoutubeで紹介されています。

圧倒的にEU/NA方面が多く、90度方向違いのJA方面のQSOが少し混じっていたという感じです。JAとのQSOポイントのためにJA専用のVDAを上げている訳ではなく、アジアのマルチを得るために上げたVDAの恩恵をJAは得ることが出来るというのが真相のようです。

Team 3B8Mは事前にアンテナのシミュレーションを十全に行い、アンテナの選択と配置を導き出しているようです。Youtube講演の中で2セットのVDAのスタック方法の違いによる指向性の説明がありました。

単体のVDAは垂直ダイポールに対して+3dB強の利得があるとのこと(緑線)。

これに対して、2セットのVDAをBIP(Both in Phase)でスタックすると、波面が合成されるためか、さらに+3dBの利得が得られるとのこと(青線)。EU/NA方面は、単体のVDAもしくはBIPスタックで運用していたのではないでしょうか・・・。EU/NAと交信中の3B8MのVDAアンテナのサイドに信号を送り込むことは、10Wでは不可能と思われます。

一方、2セットのVDAをBOP(Both out of Phase)でスタックすると、少し利得を増した2方向への指向性が得られるようです(紫線)。カリブ海と東アジアのマルチを得るための両睨みの運用時にBOPスタックを使うとのこと。JAから10Wで交信する機会があるのは、3B8Mが単体のJA方面向けVDAもしくはBOPスタックを運用している時と思われます。

10mバンドについては、EU/NA方面向けと思われるVDAアンテナ1本と、無指向性の垂直ダイポールしかありません。JAからは無指向性の垂直ダイポールが頼りですが、20mバンドおよび15mバンドよりも交信が難しいことが予想されます。利得ダウンの他に全方面からのパイルを切り抜ける必要が生じます。実際、今回のコンテストでは10mバンドのワッチも十分に行いましたが、結果として3B8Mとは20mバンドおよび15mバンドでのみ交信できた実績が物語っています。

3B8Mは以上の技術と戦術を組み合わせてくることが分かりました。昨年のCQWW-DX CWコンテストでの3B8Mとの交信は偶然でしたが、今年はこちらも戦術を練って再会を期したいと思います。

長くなりましたので、昨年のCQWW-DX CWコンテストの分析は次回記したいと思います。