非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

室内ロングワイヤーアンテナはSWR1.0の夢を見るか(15)

日乗

都市ノイズの原因特定

40mバンドに出現する都市ノイズの発生元の1つが特定できました。集合住宅の自宅の換気システムです。

化学物質過敏症の問題から、集合住宅には24時間換気システムが備わっています。基本的には365日24時間ONにしておくものですが、築年数が経過したことにより化学物質の揮発よりも春先の花粉の侵入の方が気になっています。そのため、春先の日中は24時間換気モードを一時停止することが増えました。OFFにしても気圧や温度差の関係で外気が多少なりとも受動的に流入して換気されることは確認しています。

最近、運用中に「40mバンドのノイズが消えた」と喜んでいたのですが、当初は自宅の換気システムの停止と連動していることに気付きませんでした。換気システムはローテク物で、ノイズの発生源になるような物は無いと思い込んでいたからです。それでも時々ノイズが復活するため、生活イベントとの相関を意識していたところ、24時間換気モードを一時停止した状態で浴室やトイレの換気をONにすると40mバンドにノイズが復活することに気付きました。

ノイズの特徴としては、受信信号を掻き消す強力なノイズが周波数軸に対して広く拡散します。ただし、周波数軸上のノイズの強度には濃淡があり、その濃淡がスペクトラムスコープ内を緩慢に移動します。コストダウンが要求される換気システムのモータにインバータによるアクティブな回転数制御は採用していないと思いますが、パッシブな制御の関係でノイズの周波数が変わるのでしょうか。その点はまだ謎です。

原因が分かったため、運用中は換気システムを停止することにし、40mバンドでの国内交信が増えました。ただし、夜間や早朝には別のモードのノイズが時々発生することがあります。こちらのノイズは、周波数軸上の強度は一様で、時間軸上で縞模様が表れます。40mバンドの都市ノイズの原因は複数あるようです。

春分のコンディション

春分秋分の頃のコンディションが1年の中で最も良いと聞くのですが、昨年の秋に比べて今年の春はコンディションの上昇をあまり感じられません。サイクル25のピークを過ぎてしまったのでしょうか。室内LW x 10Wの射程に何とか入る太平洋諸島のDXpedition局との交信の状況は以下の通りです。

  • TX5S (CLIPPERTON ISLAND)
    太平洋上ということで微かな期待がありましたが、交信できませんでした。パイルの大きさに圧倒されて戦意喪失でした。短い運用期間中に、そもそも御本尊が室内LWに聴こえる機会も少なかったと思います。
  • H40WA (Temotu Province)
    2つのバンドで交信できました。しかし、昨秋のH44WAより信号は弱く、交信は容易ではありませんでした。
  • FW8GC(WALLIS & FUTUNA ISLANDS)
    何とか1つのバンドで交信できました。室内LWに入感する信号は極めて弱く、困難な交信でした。
  • T32EU(EASTERN KIRIBATI)
    運用期間の折り返し時点からパイルに参戦し、機会を上手く捕らえて、1交信を確保しました。
    春分を過ぎても信号は弱いままでしたが、日没で一旦パスが消え、夜間にパスが復活した時に信号が強くなり、加えて日没でパイルが解散していたため交信できました。しかし、その日没法則は他のバンドでは再現しませんでした。一度限りの春の僥倖だったようです。
    ホームページを見ると、Pirateが忙しく活動しているとの注意がありました。別のDXpeditionでPirateに騙された経験があるため心配でしたが、翌日にClubLogにてスロットインを確認できました。

WPXアワード獲得の足踏み

WAC(CW)の次に狙うアワードは、DXCC(CW)100 もしくはWPX(CW)300としています。 どちらを速く獲得できるかを当初は予想できませんでしたが、室内LW x 10Wの設備ではWPX(CW)300の方が獲得が容易なようです。

室内LW x 10Wによる遠方のDX局との交信は、コンディションに恵まれないと困難です。一方、近隣のハム人口の多い(≒プリフィックス数の多い)エンティティとの交信は可能です。最も自局に近いエンティティはもちろんJAです。JA局のプリフィックスもカウントできるルールは追い風になります。ただし、JA局のLoTW普及率が足枷になります。

そのWPX(CW)が299で足踏み状態です。LoTWのカウントに紙カードも加えれば既に達成しているのですが、カードチェックはDXCC達成の時に行うとして、WPXはLoTWだけで獲得したいと考えています。春のDXpedition局がLoTWに対応していれば、近々に達成できる見込みですが・・・。

SASE発送

LoTWやOQRSに対応していないDX局が当該エンティティで唯一交信できた局である場合はSASEの出番です。今回、5通のSASEを発送しました。

年度末に郵便局に持ち込むのも面倒なため、コンビニで調達した切手を貼ってコンビニのポストに投函しました。何時の間にか、送付先地域のグルーピングが再編され、必要な切手も値上がりしていました。

今回、SASEが必要となったエンティティは、JT(Mongolia)x 2、UN(Kazakhstan)、KH0(Northern Mariana Is.)、LZ(Bulgaria)です。LZ(Bulgaria)とは3局と交信していますが、何れもコンファームが出来ていません。なお、エンティティと送付先国名が一致していない理由はQSL Manegerに送付しているためです。

DXpedition局のQSLカード着荷

XW4DX(LAOS)

2023/11/28 にOQRSにてリクエストし、2024/03/11に着荷しました。表面はQRVした湖水の島の風景写真でした。裏面には、首都ヴィエンチャンを流れるメコン川と思われる風景写真を背景に、メンバの集合写真と寺院のスナップ写真が配置され、QSLログシールが貼付されています。12mと15mバンドで交信できました。

大河メコン川は首都ヴィエンチャンまで渓谷を下ってくるため、QSLカード裏面の写真では濁っているようです。一方、QSLカード表面の湖水は濁っていません。表面と裏面は場所が異なると推測できます。

このDXpeditionを記録したYouTubeが公開されているため、QRVした場所を推定できました。首都ヴィエンチャンから観光都市のヴァンヴィエンに移動し、川をボートで移動しています。上流に向かったのか、下流に向かったのかは説明されていません。

XW4DX - Laos 2023 DXpedition - YouTube

地図で調べると、ヴァンヴィエンを流れる川は、メコン川ではなくナムグム川です。上流は山間部になるため湖水を地図上で発見することはできませんでした。下流には巨大なナムグム湖があります。ナムグム湖はダム湖です。日本のように山間部の渓谷に作ったダムではなく、河岸平野に作ったダムになるようです。これにより、水深の浅い巨大なダム湖が出現し、多島海のような様相を構成する多くの島々ができたようです。

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XW4DXはそんな島の1つからQRVしたようです。ラオスインドシナ半島内陸部に位置し、海岸線がないため海面反射の恩恵を受けることはできません。しかし、ダム湖の島からQRVすることにより、ダム湖水反射を利用したようです。YouTubeを見ると、スパイダービームアンテナは島の中央部に設営していますが、VDAアンテナは水辺に設営している様子が紹介されています。

ナムグムダムは日本とも浅からぬ関係があることが分かりました。そもそも、ナムグムダム建設を提案したのは日本人だったようです。ダム建設に際しては日本も資金援助に参加しています。

その後の発電所拡張事業にもODAによって有償資金協力を行っているようです。

XW4DXとの交信は「599 TU」の一瞬でしたが、これを機会として訪れたことのないラオスに関する知識が少しだけ増えました。

V62S(Micronesia, Satawal Island)

22023/12/18 にOQRSにてリクエストし、2024/03/07に着荷しました。2つ折りのQSLカードでした。表面には、Satawal Islandの風景写真を背景にスナップ写真が配置されています。裏面左側には、協力者との集合写真とスポンサーロゴが配置され、QSLログシールが貼付されています。10mと12mバンドで交信できました。緯度はフィリピンと同程度ですので、室内LW x 10Wでも射程範囲内です。

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早朝に10mバンドで交信した日の午後に12mバンドでもCQが聴こえてきました。他に呼ぶ局がいないことを確認してコールしました。室内LWには他局が聞こえていないだけということもあり得ますが、1回のコールで交信できました。

QSLカードの裏面右側には、Satawal Islandの紹介、使用したRig、QSO数の内訳、関係者への謝辞等が記されています。MicronesiaのIOTA16島の中で初めてアクティベートされる最後の島とのこと。また、10mバンドでのQSO数は僅か2.8%だったことが記されています。12mバンドは19.6%です。

遠征記がブログ形式で公開されています。また、CQ誌2024年3月号にもカラー4ページの手記が掲載されています。

ブログや手記を読むと、苦労の多いIOTA peditionであったことが良く分かり、頭が下がります。DXpeditionではチームを組んで臨むことが一般的ですが、ホテル等の宿泊施設の無い島へのIOTA peditionでは大挙して人が押しかけるわけにはいかないこともあると思いますが、一人で臨まれています。

手記の中に「JA局の傾向とIOTA」という耳の痛い章があります。IOTAではバンドカウントされないのに複数QSOするJA局が多いという苦言と共に3QSO以上の比率が掲載されています。2QSOならOKという訳ではなく言い訳になりますが、2つのバンドで交信した理由はPirate対策です。このPeditionの少し前に別のPedition局を追いかけていた時に、見事にPirateに騙されてしまいました。

その時の状況を参考までに記します。日没前にそのPedition局のパイルに参加していました。そろそろフェードアウトするかな?と思い始めた時に、QSBが小さくなってピックアップの効率が高くなりました。その波に乗ってQSOし、コールバックも確実に取れました。後にして思えば、QSBが小さくなる前に御本尊がフェードアウトし、Pirate局が上手くすり替わったのだと思います。Sは大きくは変わらなかったことと、室内LWでは方角を調べようもないことから気付きませんでした。FT8のログは直ぐにUPされても、CWのログのUPが遅れることは良くあります。しかし、待てど待てどコンファームできませんでした。加えてホームページに、ログの問い合わせには一切応じない旨の告知が出ました。おそらく、Pirateに騙された多くの局が問い合わせを行い、収拾がつかなくなったのだと思います。ここにきて騙されたことに気付き、他のバンドでも追い駆けるべきだったと思った次第です。

CQWW-DX CW 2023コンテストの最終結

最終スコアと順位

前々回2月3日にCQWW-DX CW 2023コンテストの分析を報告しました。

その最終結果が届きました。Single-Op Low All Bands部門で参加した最終スコアは37,014点で、順位はJA1エリアで40位でした。ハム人口の多いエンティティではエリア別に順位を出しているようです。ちなみに、同じ室内LW x 10Wの設備で臨んだ昨春のWPXは66位でしたので、少し順位を上げることができました。

ログ提出前にDupeを差し引いた自己採点は36,340点でした。一方、提出時に検算されたRawスコア(ログ相互照合前のDupe込みのスコア)は37,293点でした。最終結果はRawスコアからDupeを差し引き、さらにコピーミス等があれば減点されるはずですが、自己採点よりも増えていました(36,340⇒37,014点)。

詳細なレポートが送られてきますので見落としを精査したところ、自己採点では15mバンドのマルチ(KH8/s)が1つ計算に入っていませんでした。コンテストロガーのバージョンアップを怠ったためかと思われます。

参加局数の母数と相対順位の確認

順位が分かっても参加局数の母数が分からないと、スキルが向上しているかどうかの判断はできません。単に参加局数が減って順位が上がっただけかもしれません。

CQWW-DX CW コンテストのホームページに全てのスコアが公表されています。検索画面で参加局のQTH属性を絞れば母数を知ることができます。

JA1エリア、All JA、All Asia、All Worldの各範囲で検索した順位、母数(ログ提出局数)、相対順位を下記にまとめます。

All JAの相対順位45%は、JA1エリアの相対順位42%より少し下がりました。誤差の範囲かもしれませんが、敢えて理由を探せば、タワーも上げられず出力も上げられない当局と同じような境遇のアパマンハムの参加局がJA1エリアには多かったのかもしれません。Low Power部門で10Wの局は少ないと思いますが・・・。

All Asiaの相対順位43%は、JA1エリアの相対順位42%とほぼ同じです。Asiaにはビックガンが多いイメージでしたが、裾野はそうでもないのかもしれません。

All Worldの相対順位51%は、JA1エリアの相対順位42%より有意差有で9ポイント下がりました。例えば、EUはJAよりCountryマルチを稼ぎ易いのではないかと思われますが、推測に留まります。

弱点の分析

弱点は室内LWアンテナの効率が悪く、出力も10Wと小さいことですが、それは与えられた環境ですので、スキルや戦術・戦略でカバーできる点を探ります。

JA1エリア各局のバンド(40m、20m、15m、10m)別のQSO数を順位の順番で下記に示します。80m以下のLowバンドは省略します。

32位から37位の局は、40位の当局よりも15mもしくは10mバンドのQSO数が多いことが分かります。一方、さらに上位の27位から31位の局は、15mもしくは10mバンドのQSO数は当局と同レベルです。違いは、40mおよび20mバンドのQSO数です。特に当局の場合は、夜間の40mバンドのQSO数がゼロであることが響いています。

ここで、冒頭の伏線を回収します。CQWW-DX CW 2023コンテストが開催された11月下旬はまだ花粉が飛んでいなかったため、40mバンドの都市ノイズの原因が換気システムであることに気付いていませんでした。40mバンドはノイズによって国内交信も覚束ないため、DX交信は初めから諦めていました。

しかし、40mバンドの都市ノイズの原因に気付き、換気システムを一時停止して臨んだ2月のARRL DX CWコンテストでは、40mバンドでも21局とQSOできました。これは15mバンドと同数であり、マルチ(州の数)は15mバンドより多く獲得できました。

これにより、次回の戦略は明白です。換気システムを一時停止して、夜間は40mバンドで参加することです。

スコアを左右するマルチについても確認しておきたいと思います。まず、Zone数です。

QSO数と同じ傾向が観察されます。27位から31位の局は、15mもしくは10mバンドのZone数は当局と同レベルです。違いは、40mおよび20mバンドのZone数です。

次は、Country数です。

10mバンドのCountry数については、27位から31位の局より当局の方が多い場合があります。一方、15mバンドについては、当局の方が少なくなっています。遠方に届く要因として、10mより15mバンドの方がパワーの差が効いていそうです。

室内LW x 10Wの設備でCQWW-DX CW コンテストを楽しむことができそうなのは、10mバンドのパスが開けるサイクル25のピーク期間内であることが暗示されているようです。後、1~2回は楽しめるでしょうか・・・!?