非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

室内ロングワイヤーアンテナはSWR1.0の夢を見るか(13)

WWA 2024

概要

正月のQSOパーティに参加している時に、HF High Bandでインドネシアの特別記念局8A0RARIがCQを出していることに気付きました。QRZ.comから辿って調べたところ、WWA(World Wide Award) 2024という名称のDXアワードプログラムがHamAward上で開催されていることを知りました。

ルールを確認したところ、「Marconi生誕150周年」の記念アワードということでした。

1. Purpose
Promote friendship between amateur radio, and celebrating the 150th anniversary of the Marconi birth in 2024, involving as many country as possible in a single event.

8A0RARI - Callsign Lookup by QRZ Ham Radio

CW(10点)、SSB(5点)、DIGI(2点)のモード別配点で特別記念局と交信し、100点を得ればアワードを獲得できます。交信の難易度はSSB>CW>DIGIの順番と思いますが、無線電信機を実用化したMarconiの生誕を記念していることからCWの配点が最も多くなっているようです。CWモードであれば10局バンドと交信できればアワードを獲得できます。

ヨーロッパ中心のアワードプログラムの場合、室内LW×10Wによる10局バンドの達成は困難です。しかし、今回はWorld Wideということで、JA近隣の特別記念局としてインドネシアの8A0RARIに加えて、中国から10局が参加していました。5つのHF High Bandで合計すると、JA近隣の11の特別記念局と55回の交信機会が期待できます。中国(の内陸部)との交信は決して容易ではありませんが、チャンスはあると考え積極的に参加しました。DXのオフシーズンですが、1月の1か月間に渡って楽しむことができました。

結果

合計30局バンドのCW交信により300点を獲得し、WWA 2024アワードをハントすることが出来ました。条件の100点は1月の第一週に達成し、その後1月末までに300点まで伸ばすことが出来ました。長丁場にも係わらず特別記念局がアクティブにQRVしてくれたおかげです。

「ALL Bands CW」の順位は2819 / 32972位(上位8.5%)でした。手前味噌ですが、上位1割に入るとはなかなか良い順位です。単独バンドでのアワード獲得はありませんでした。6つのバンドを行ったり来たりしてDX局と交信することができた室内LWアンテナの成果です。心の中の特記は「室内LW × 10W」です。

CWの交信実績しかありませんが、SSBとDIGIを入れた「ALL Bands Mixed」の順位は5164 / 110385位(上位4.7%)でした。こちらの方が相対順位は高くなりました。SSBおよびDIGIによって間口が広がったのに対して、DIGIの追い上げは少なかったようです。やはり、CW重視の配点が効いているのでしょうか。

交信できた特別記念局バンドの内訳を下記に示します。HF High Bandをフル活用した成果であることが分かります。序盤は15mバンドが中心でしたが、長丁場の中で10mバンドに加えて室内LWが苦手とする20mバンドまで広げることができました。40mバンドの交信も終盤に1つ(BY5EA)だけできました。

予想通りに冬のEUは厳しかったのですが、Marconi生誕国のイタリアII5WWA(Toscana州)と交信できたのは本アワードの趣旨からして白眉でした。

NAは比較的容易では・・・と高を括っていたのですが予想外に難しく、終盤にN1W(NH)と何とか交信して溜飲を下げました。NH(New Hampshire)州は東海岸のボストン近郊です。他のNA局の所在地も、N0W(MN州)、N2W(Virgin 諸島)、N9W(WI州)となり、西海岸が1局も入っていないことが交信を難しくした原因と推測しています。

統計

特別記念局のQRZ.comページから統計情報を参照できます。

Top Countries

1位はMarconi生誕国のイタリアでした。本アワードの趣旨から言って順当な結果です。2位ドイツ、3位北米に続いて4位はポーランドでした。少し意外な気がしました。5位ヨーロッパロシア、6位が日本でした。ハム人口が減少中とは言え、まだまだ存在感があります。7位インドネシア、8位中国です。特別記念局を10局も擁している中国ですから、もっと上位に行くと思っていましたが、ハム人口はまだまだ少ないのでしょうか。9位イングランド、10位スペインとEU勢が続きます。

Bands・Modes

40mおよび20mバンドの参加者がHigh Bandsより多かったようです。やはり、北半球は冬ということでHigh Bandsのコンディションが良くなかったということの反映でしょうか。モードはFT8とFT4(とRTTYとPSK)を合わせるとDigiが一位になります。CWの参加者が最も少なかったため、CWへの高配点が順位を左右したと思われます。

Activators

各特別記念局の交信数です。〇印は交信できた特別記念局です。

室内LWに聞こえていた中国の特別記念局のアクティビティは高いと思ったのですが、EUの特別記念局のアクティビティはそれ以上に高かったようです。室内LWに聞こえなかっただけのようです。EUの比較的狭い範囲にハム人口が多いことの裏返しかと思います。

室内LWに最初に聞こえてきたインドネシアの特別記念局8A0RARIが1位でした。Opは106人が参加したようです。思い起こせば、8A0RARIのCQは毎日聞こえていましたが、打鍵速度は毎日変化していました。

特別記念局のロケーション分析

普段のコンテストでも、中国の局との交信は容易ではありません。特に内陸部の局に対しては最後のホップが地表反射となり、10Wの微弱電波が霧散してしまうのではないかと推測しています。基礎馬力の不足です。それでも、WWA 2024では競合局のいない時に丁寧に拾ってもらった感があります。

良い機会ですので、特別局のロケーションを分析してみました。

BY1RX

QRZ.com掲載の住所Chaoyang Districtを検索すると、北京市朝陽区と出てきます。

15mバンドを皮切りに3つのバンドで交信できました。やや難しかったように思います。電波が海上で反射するか、あるいは日本国内、朝鮮半島、中国国内の地上で反射するかは、シミュレーションをしてみないと詳細不明です。

BY2AA

QRZ.com掲載の住所Harbin, Heilongjiangを検索すると、中国の最北端にある黒龍江省省都ハルビン市と出てきます。

15mと17mの2つのバンドで交信できました。距離的には近いのですが、内陸部のため地上反射で電波は減衰していると思われます。

BA3RA

QRZ.com掲載の住所Shijiazhuang City, HEを検索すると、河北省の省都石家荘市と出てきます。

15mバンドでのみ交信できました。BY1RX(北京)と近いように見えます。同じように、電波が海上で反射するか、あるいは日本国内、朝鮮半島、中国国内の地上で反射するかは、シミュレーションをしてみないと詳細不明です。

BY4DX

QRZ.com掲載の住所はBureauの住所になっています。SHANGHAI DX CLUBのコンテスト局ですので、グリッド地図に示される上海がQTHと思います。

最初に交信できた中国のWWA特別局です。5つのHF High Band(10/12/15/17/20m)の全てで交信できました。

瀬戸内海を上手く抜けて、九州を飛び越えれば、海面反射のみで交信できそうな位置関係です。加えて、コンテスト局ですので素晴らしいアンテナを使っているようです。

BY5EA

QRZ.com掲載の住所は浙江省嘉興市海塩県になるようです。日本とは異なり、市の中に県が位置するようです。海塩県は紀元前222年に秦が設置したとのことですので、古の行政区ですね。

WARCバンドを除いた40m以下の4バンド(10m/15m/20m/40m)で交信できました。海塩県は上海近郊の河口の行政区になります。BY4DXと同様に海面反射だけで交信できそうです。

WARCバンドで交信できなかった理由は、コンテスト局ということで、WARCバンドのアンテナがそもそも上がっていないためのようです。

WWA特別局の中で唯一40mバンドで交信できました。WWAプログラムが終了に近づいた1月下旬の午前に20mバンドで交信し、その日の深夜に40mバンドで交信できました。1回のコールで正確にコールバックがあったため少々驚きましたが、その後の「599 TU」は4回送る必要がありました。やはり、室内LW×10Wでは弱い電波しか届いていなかったようです。OPの方が同じで午前のコールを覚えていてくれたのか、あるいはロガーが履歴DBを参照して候補リストの上位に提示してくれたのか・・・コンテスト局ということで後者の方があり得そうです。

BY6QS

QRZ.com掲載の住所WUHAN HUBEIは、湖北省武漢市になるようです。

周波数が高い側の3つのHF High Band(10m/12m/15m)で交信できました。内陸部のため地表反射の影響がありそうですが、交信できていました。

BA7LOK

QRZ.com掲載の住所FOSHAN, GUANGDONGは広東省仏山市になるようです。

香港に近く、過去にはコンテストで4回交信した実績がありますが、今回は聞こえてきませんでした。前記の特別記念局別の交信数から見ても、アクティビティが低かったようです。

BY8DX

QRZ.com掲載の住所Chengdu Sichuanは、四川省成都市になるようです。グリッドマップでは北京にマークが打たれますが、成都市は重慶市の左上付近のはずです。

12mバンドを除いた4つのHF High Band(10m/15m/17m/20m)で交信できました。内陸部のため地表反射の影響がありそうですが交信できていました。地表反射で減衰するために内陸部の局との交信は困難・・・との仮説は怪しくなりました。

BY9NX

QRZ.com掲載の住所Yin Chuanは、寧夏回族自治区銀川市になるようです。

入感せず、交信できませんでした。内陸部に位置し、距離的には上記BY8DXに近いようですが、降水量が非常に少ない高原の乾燥地帯に位置するようです。電波の反射に地表の水分量が影響する・・・とは考え過ぎでしょうか。銀川市から北に上がったモンゴルも室内LW×10Wでは交信の難しいエンティティです。前記の特別記念局別の交信数から見てアクティビティも低かったようです。

BG0DXC

QRZ.com掲載の住所Urumqiは、新疆ウイグル自治区ウルムチ市です。

入感せず、交信できませんでした。前記の特別記念局別の交信数から見てアクティビティも低かったようです。もしかしたら、短期間の遠征局だったのかもしれません。

中国のWWA特別記念局の中で最も遠方に位置する局になります。モンゴルより遠方の乾燥地帯です。「世界で最も海から遠い都市」(ギネス記録)とのこと。ただし、さらに日本から遠方の中央アジアWWA特別記念局EX0DX(キルギス)は一瞬ですが室内LWに入感しました。ウルムチとは乾燥地帯ではない点が相違点です。

 

特別記念局のロケーションを分析してみると、意外に内陸部の特別記念局とも交信できていました。「内陸部の乾燥地帯の局との交信は難しい」に仮説を変更します。真偽は不明です。単純にアクティビティに依存しているだけかもしれません。