非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

AFP-FSK Transceiver(15)30mバンドモジュールの測定

QRPGuys AFP-FSK (Audio Frequency Processed - Frequency Shift Keying) Digital Transceiver III に標準で付いてくる30mバンド(10MHz帯)モジュールの測定を行いました。

送信電力の測定

バンドモジュールを30m用に換装すると、バンドID抵抗の分圧値をADCで読み取り、周波数を自動的に10.136MHzに設定しました。

送信電力はUSBオシロスコープ(AnalogDiscovery2)で測定しました。DC電源は13.8Vです。

Measurement system of transmit power by USB oscilloscope (AnalogDiscovery2).

Measurement result of dummy load voltage by USB oscilloscope (AnalogDiscovery2).

ダミーロード電圧のAC RMS(実効値)から送信電力を計算すると6.0W、ピーク電圧から計算すると6.2Wになりました。40mとほぼ同じ値です。E級増幅QRPトランシーバに採用例の多い3並列FET(BS170)の終段回路として優秀な部類に入ると思います。

実効値は多点の数値積分に基づいて計測していると思いますが、ピーク電圧は最大値と最小値の2点から計測していると思います。大きな差はありませんが、実効値の方が信頼性が高いと思われます。

E級増幅スイッチングタイミングの測定

高出力の秘密はE級増幅のスイッチングタイミングにあると思われるため、その測定を試みました。下図の左にゲートソース間電圧Vgsと出力電圧V(ant)を示し、右にVgsとドレインソース間電圧Vdsを示します。

Measurement results of switching timing of FETs for class-E amplification.

Vgsは同じテストピンから同じ配線で測定しているにもかかわらず、リップルが大きく異なります。狭隘部から測定のための配線を引き回しているため、正確な測定ができていません。

ゲートのON/OFFのタイミングは想像で記入しました。測定配線に誘導されているリップルが大きいため心眼で判定するしかありませんが、Vdsがゼロのタイミングでスイッチングできているように思います。

スプリアス領域における不要発射の強度の測定

測定方法

tinySAを用いた「スプリアス領域における不要発射の強度」の測定系を下記に示します。

Measurement system for the strength of unwanted emissions in the spurious region.

送信出力6(W)は37.8(dBm)となるため、手持ちのMax. 41dBのステップアッチネータで減衰すると-3.2(dBm)となり、tinySAの安全入力範囲に収まります。

tinySAはPC上のtinySA-Appから制御しました。周波数掃引範囲は5~55MHzとしました。分解能帯域幅RBWは自動設定とし、周波数掃引点数を変えて測定を繰り返しました。

周波数掃引500点

Measurement result of unwanted emission intensity in the spurious region by 500 frequency sweeps.

周波数掃引1,000点

Measurement result of unwanted emission intensity in the spurious region by 1,000 frequency sweeps.

周波数掃引3,000点

Measurement result of unwanted emission intensity in the spurious region by 3,000 frequency sweeps.

周波数掃引10,000点

Measurement result of unwanted emission intensity in the spurious region by 10,000 frequency sweeps.

まとめ

基本波の強度は平均2.05(dBm)となり、事前想定からの差異は1.15(dBm)に収まりました。ステップアッチネータキットの抵抗値の公差から考えて、誤差の範囲と思います。

tinySAの周波数掃引点数を増やすと、自動設定のRBW(kHz)が小さくなることによって周波数解像度が上がり、ノイズフロアが下がります。強度の測定結果に系統的な変動(掃引点数に比例して強度が下がるなど)は見られないため、平均を取ってまとめても良いかと思われます。

「スプリアス領域における不要発射の強度」の測定結果を下表にまとめます。

Summary of unwanted emission intensity measurements in the spurious region.

最も強度が高い不要発射は掃引10,000点時の第三高調波-54.3(dBc)でしたが、スプリアス規格を満たします。経験上、第三高調波が規格を満たさない場合は、簡易なウェーブトラップの調整ではなく、LPFの段数を増やす改造が必要になります。

第二高調波は平均-56.2(dBc)となり、無調整のウェーブトラップによって良く抑えられています。

帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の測定

測定方法

USBドングルSDRのSDRplay(RSP1A)を用いて「帯域外領域におけるスプリアス発射の強度」を測定しました。測定系統図と測定の様子を下記に示します。

Measurement system diagram of spurious emission intensity in the out-of-band region.

送信出力6(W)の37.8(dBm)に対して、20dBカプラで分岐し、手持ちのMax. 41dBのステップアッチネータと20dB固定アッチネータを通して減衰し、-43.2(dBm)の信号をSDRplayに入力しました。

測定結果

Measurement of spurious emission intensity in the out-of-band region.

SDRplayへの入力信号の測定強度は-44(dBm)でした。公称値による机上の概算予想-43.2(dBm)との乖離は僅かに0.8(dBm)でした。受信強度としては、S9+30dB弱の表示です。もっと減衰させた方が良いかもしれませんが、手持ちのアッチネータは全て投入してしまいました。

帯域外±10kHzの領域のスプリアス発射の強度は-92(dBm)以下でした。帯域外領域におけるスプリアス発射の強度は基本波より48(dB)低い値となり、許容値に収まります。絶対値は1.2(mW)となり、こちらも許容値に収まります。

SDRplayとPCソフトウェアSDRunoの組み合わせによる30mバンドのRBWは最小0.95Hzになります。周波数軸を最大限拡大した結果を下記に示します。

Expansion of the frequency axis around the fundamental frequency in the spectrum measurement result.

綺麗なスペクトルになっていると思います。スペクトルの中心は約6Hzオフセットしていました。0.59ppm程度の誤差です。TCXOでも±2ppm程度の変動はあるため、許容範囲です。

以上により、QRPGuys AFP-FSK Digital Transceiver III の2バンド(40m/30m)化の準備が整いました。30mバンドモジュールも、LPFのトロイダルコイルについて巻き方等の調整は必要ありませんでした。ただし、40mバンドよりも余裕が少なくなっているため、ハイバンドでどうなるか予断を許しません。