非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

AFP-FSK Transceiver(4)LPFのAC解析

日乗

ワクチン3回目接種に行きました。当局居住地の自治体では「18歳以上×6か月経過者」のフェーズになっています。前回は最速で受けられる大手町の大規模接種センタにしましたが、今回は自治体の大規模接種センタにしました。大規模接種センタのワクチンは何れもモデルナでした。

会場までの市中は混雑していましたが、会場内は空いていました。待ち行列に並ぶことなく、各ブースに直行です。この時点での6か月経過者には年配者が多いため、やはりファイザーに需要が偏っているのでしょうか。

システムは大手町と同様です。多くの人員が配置され、接種ブースまで何回も丁寧に案内されました。唯一の違いは、接種ブースがカーテンで完全に目隠しされていることです。冬の着込んだ服装で肩を露出するための配慮でしょうか。

 

さて本題ですが、QRPGuys AFP-FSK (Audio Frequency Processed - Frequency Shift Keying) Digital Transceiver III のLPFの性能を事前に探るために、LTspiceシミュレーションを試みました。今回はAC解析の結果をご紹介します。次回にトランジェント解析の結果をご紹介したいと思います。

AFP-FSK Transceiver のバンド・モジュール

AFP-FSK Transceiver はバンド依存のフィルタ部をモジュール化し、バンドによってモジュールを差し換える仕様になっています。モジュールはバンド毎に値の異なる抵抗をIDとして搭載し、差し換えによって自動的に切り替えたバンドを認識する仕組みになっているようです。

バンド・モジュールを下記に示します。

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バンド・モジュール:左側にLPF、右側にHPF、右端にバンドIDの抵抗を搭載
(組立マニュアルの図に追記)

バンド・モジュールは左側のLPFの他に、右側にRx信号線につながるコンデンサC25とインダクタL4を搭載します。当初、これらの役割が判然としませんでした。最初は、インピーダンス整合を図るハイパス型Lマッチ回路と推定しました。受信回路のインピーダンスは出力インピーダンス∞のFETスイッチの後段に付くR1によって51Ωになると思われます。これに対して、混合器SA612Aの入力インピーダンスは1.5kΩ以上です。しかし、51Ω - 1.5kΩのLマッチ設計法の検算をしても素子値が合いません。

廃版となった前バージョンのDSB Digital Transceiver II のホームページを調べたところ、バージョンⅠからⅡへの変更点として以下が挙げられていました。

  • a high pass filter to help with BCB interference in troubled environments
  • replaced the relay with solid state switching
  • added a zener diode for atmospheric surge suppression
  • designed a multi-band 160m-17m VFO as an easy plug-in option

使途不明の回路は、放送局からの混信を受ける局向けのHPFだったということが分かりました。Rx信号は前述のLPFを通過するため、合わせてBPFを構成することになります。送信パスのLPFのAC解析に加えて、受信パスのBPF(LPF+HPF)のAC解析も併せて検討しました。

LPFのLTspice AC解析

LPFのAC解析モデル

AFP-FSK Transceiver のLPFは、コイル2個5素子のLPFにウェーブトラップのコンデンサ1個を加えた構成です。コイルのフットプリントは大きくなるため、小型化を志向するQRP機ではこの構成が多く見られるようです。

LPFのLTspiceモデルを40mを例に下記に示します。入力側に出力抵抗50Ωの交流信号電圧源を配置し、アンテナ電圧を評価しました。

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LPFのLTspice AC解析モデル(40mの例)

コイルL2およびL3のインダクタンスの設計値は回路図に記載が無いため、toroids.info(https://toroids.info/T37-6.php)から計算しました。上図左上に40mバンドの結果を表示しています。

ウェーブトラップのコンデンサC21の40mバンドの設計値は68pFですが、感度および改良の指針を得るために、2つの値を追加して比較しました。

LPFのAC解析結果(40m)

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40m LPF の LTspice AC解析結果

オリジナル設計値のC21=68pFでは、第二高調波14MHzの抑圧能力は-40.6dBcと推定されました。LPF入力段において基本波に対する第二高調波の強度が-10dB以下であれば、LPFの出力段では「50dB低い値」(5Wに対しては50μW以下)となり、スプリアス規格(スプリアス領域における不要発射の強度の許容値)を満たします。

この抑圧能力はQCX+とほぼ同じです。発振からLPFまでの送信機系統図もほぼ同じであることを考えると、AFP-FSK Transceiver もスプリアス規格に対してボーダーライン上のキットになる可能性が高くなりました。

オリジナル設計では第二高調波より右側の離れた位置にトラップ周波数が設定されています。普及価格のコンデンサは5%程度の公差を持っているため、ドンピシャのトラップ周波数を再現することは困難になります。キット販売元としては、北米の規制を満たす抑圧能力に対して無調整の再現性を重視しているのかもしれません。

規制の厳しい日本のユーザ個人としては、裏面にコンデンサを並列に追加調整することによってC21を80pF程度に追い込めば、スプリアス規格を満たせそうです。外付けのLPFまでは必要にならないということで一安心です。

LPFのAC解析結果(30m)

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30m LPF の LTspice AC解析結果

オリジナル設計値のC21=47pFでは、第二高調波20MHzの抑圧能力は-34.1dBcと推定されました。LPF入力段において基本波に対する第二高調波の強度が-16dB以下でなければ、スプリアス規格を満たせません。

30mバンドも、オリジナル設計では第二高調波より右側の離れた位置にトラップ周波数が設定されています。30mは40mより調整が厳しいですが、C21を62pF程度に追い込めばスプリアス規格を満たせそうです。

LPFのAC解析結果(20m)

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20m LPF の LTspice AC解析結果

オリジナル設計値のC21=33pFのままで、第二高調波28MHzの抑圧能力は-63.0dBcに到達すると推定されました。LPF入力段において基本波に対する第二高調波の強度が同じでも、スプリアス規格を満たせます。

20mバンドは、オリジナル設計で第二高調波とトラップ周波数がほぼ一致しています。コイルのインダクタンスのばらつき等の影響がなければ、無調整でスプリアス規格を満たせそうです。40mおよび30mと比較して設計思想に一貫性がないようですが、20mバンドに何か問題があったのでしょうか。

LPFのAC解析結果のまとめ

40mおよび30mのLPFは設計値のままでは、日本のスプリアス規格(スプリアス領域における不要発射の強度の許容値)に対してボーダーライン上の性能になる可能性が推測されました。20mのLPFはスプリアス規格を満たせそうです。

スプリアス規格を満たすためには、ウェーブトラップの周波数を決めるC21の調整が有効であるとの指針を得ました。

トロイダル・コイルを巻いた後にLPFを構成する素子のパラメータを実測して、LTspice AC解析を再試行する必要があると考えます。

バンドが高い周波数帯になるにつれて、LPFの挿入損失が増えることも分かりました。

BPFのLTspice AC解析

BPFのLTspice AC解析モデル

BPF(LPH+HPF)のLTspice AC解析モデルを、40mを例に下記に示します。アンテナ側に出力抵抗50Ωの交流電圧源を配置して周波数を掃引し、受信側SA612Aの入力インピーダンス1.5kΩのIN電圧を評価しました。

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BPF(HPF +LPF)のLTspiceモデル(40mの例)
BPFのAC解析結果(40m)

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40m BPF の LTspice AC解析結果

HPFのコンデンサC25が設計値100pF(緑色)のままでは通過帯域の中心が8MHzとなり、7MHzで通過損失が発生することが分かったため、C25の最適化のために150pF(青色)と220pF(赤色)の評価を追加しました。

C25=150pFの時に通過帯域の中心が7MHzとなり、最適値であることが分かりました。なぜ100pFで設計したのでしょうか。実測すると浮遊容量などの影響で特性が異なるのでしょうか。北米の放送局の周波数がよほど近接しているのでしょうか。

BPFのAC解析結果(30m)

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30m BPF の LTspice AC解析結果

HPFのコンデンサC25が設計値68pF(緑色)のままでは通過帯域の中心が12MHzとなり、10MHzで通過損失が発生することが分かったため、C25の最適化のために120pF(青色)と180pF(赤色)の評価を追加しました。

C25=120pFの時に通過帯域の中心が10MHzとなり、最適値であることが分かりました。

BPFのAC解析結果(20m)

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20m BPF の LTspice AC解析結果

HPFのコンデンサC25が設計値47pF(緑色)のままでは通過帯域の中心が17MHzとなり、14MHzで通過損失が発生することが分かったため、C25の最適化のために100pF(青色)と150pF(赤色)の評価を追加しました。

C25=100pFの時に通過帯域の中心が14.3MHz付近となり、適正値であることが分かりました。

BPFのAC解析結果のまとめ

HPFのコンデンサC25の設計値が、どのバンドでも過小であり、通過帯域の中心が高域側にずれ、受信周波数で通過損失が発生することが分かりました。

HPFを構成する素子のパラメータを実測して、LTspice AC解析を再試行する必要があると考えます。