非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

室内ロングワイヤーアンテナはSWR1.0の夢を見るか(7)

IC-705のUSB接続の回り込み防止

USB接続の切断問題

PCとIC-705のUSB接続について、24MHz帯以上の周波数バンド(24MHz帯、28MHz帯、50MHz帯)で送信をするとUSB接続が切断し、回復させるためににはPCの再起動が必要になる問題がありました。USB接続が切断しても、FT8モードと異なりCWモードではIC-705の動作に影響はありませ。しかし、気付かずに放置するとコンテストロガーがIC-705の周波数を拾えなくなるため、バンド別の重複チェックを間違える等の問題が発生していました。今回、一応の解決を見たため、その対策手段を報告します。

なお、IC-705に接続しているノートPCは、処理速度を最も律速すると思われるメモリ帯域へのコスト配分を優先して8MB+8MBのデュアルチャネル構成にし、その代わりにCPUをAMD Ryzenにしてコストを低減しました。そのため、USB通信機能を提供するチップセットIntel PCとは異なります。今回の問題に対する影響は不明ですが、USB接続におけるコモンモードノイズの問題は特定のチップセットに限定されることのない一般的な問題と思います。

USBケーブルのコモンモードノイズ対策

高い周波数バンドでUSB接続がフリーズするのは、高い周波数でのコモンモードノイズの低減性能が不足しているためと思われます。そこで、USBケーブルを巻くフェライト・コアの大型化を試みました。

対策前はUSB接続を最短で行うことを狙いに、0.15mの2重シールドUSBケーブルを採用しました。ケーブルが短いため、コモンモードノイズ対策としてクランプコア(ZCAT1518-0730)を3個だけ嵌めていました。

ZCAT1518-0730のインピーダンスの周波数特性を、メーカのホームページから引用して下記に示します。一番下の赤色の曲線がZCAT1518-0730の特性です。

7~50MHzの周波数帯域でインピーダンスは28~61Ω程度です。コアを3個嵌めているため、合計のインピーダンスは表示値の約3倍になります。インピーダンスには、正弦波電流の微分係数としての周波数が繰り込まれます。そのためか、周波数が高いほどインピーダンスは大きくなっています。高い周波数帯域でコモンモードノイズが問題になるのは、インピーダンスが小さくなるからではなく、USBチップセットの切断感度がその帯域で高いためと推測しています。

コモンモードノイズ対策を強化するために、手持ちのUSBケーブル(1m)を手持ちのフェライトトロイダルコア(FT240-43)に13回巻きました。USBケーブルがもっと長ければ巻き数を増やせます。反対にトロイダルコアはもっと小さくても、コネクタ付きで13回巻けると思います。巻き方は定番?の対角巻き(W1JR巻き)とし、入出力線間の容量結合を防止しました。コアの両側に線が出た方がPCとの接続取り回しも容易になります。

https://toroids.info/FT240-43.phpで計算したFT240-43の13回巻きのインピーダンスを下記に示します。7~50MHzの周波数帯域でインピーダンスは約8K~57KΩとなり、クランプコア(ZCAT1518-0730)3個の場合の95~311倍に増えています。特に問題になっている高い周波数帯域でのインピーダンス増加が著しいと言えます。

対策後のUSB接続の様子を下記に示します。スモールファクタが特徴のIC-705が巨大なイアリングを付ける格好になってしまいました。

対策後にIARU HF ContestおよびRSGB IOTA Contestで、室内LW(8m)アンテナが整合可能なHFバンド(3.5MHz~28MHz)を運用しましたが、28MHzバンドを含めて一度もUSB接続は遮断しませんでした。IARU HF ContestではQRV可能な全てのHFバンドで日本のHQ(Headquarters)局と交信することができました(下記LoTW QSL参照)。

80Mではラジアル性能の不足で信号が特に弱かったと思いますが、一回で取ってもらえました。見通しの良い同じ神奈川県内とは言え、さすがHQ局と思った次第です。

また、フィールドデーコンテストで50MHzバンドを運用し29局と交信しましたが、こちらも一度もUSB接続は遮断しませんでした。オールバンドで参加したため、重複チェックが必須でしたが問題は生じませんでした。開局当時に使用していた5エレ八木に比べると、室内LWアンテナはかなり性能が劣る印象でしたが、関東全県を含む14マルチを50MHzバンドで達成することができました。Eスポの恩恵にはあずかれなかったと思いますが、(おそらく)スキャッターによって中間スキップエリアの三重県および奈良県と室内LWアンテナでも交信することができました。

以上のコンテスト参加による検証により、フェライトトロイダルコアの最適化(寸法縮小)に課題が残るものの、USB接続遮断の問題に対しては一応の解決を見たものと考えています。コモンモード電流を実測して定量的に議論したいところですが、USB延長ケーブルの手持ちがないため、またの機会にしたいと思います。

WiFi接続の課題

元々は宅内遠隔運用のために、PCとIC-705はWiFiで接続する計画でした。WiFi接続が遮断するため、USB有線接続に一時的に避難していただけです。そのUSB有線接続の問題がようやく解決し、室内LWアンテナを活かしたオールバンド(3.5MHz~50MHz)の宅内移動運用が恙なくできるようになりました。

次は初心に戻って宅内遠隔運用環境を整えるために、WiFi接続の問題を解決する必要があります。USB有線接続遮断とWiFi接続遮断の原因は異なると推測しています。USB有線接続遮断はPC側(のチップセットのノイズ耐性)の問題と思われるのに対して、WiFi接続遮断はIC-705側(のWiFiマイコン?のノイズ耐性)の問題と推測しています。理由は、FT8運用テスト時にWiFi接続遮断によってIC-705が送信状態でフリーズし、物理ボタンを含めた一切の操作を受け付けなくなったからです。この時は、電源ケーブルを抜き、さらに電池パックを外して送信を止める必要がありました。なお、タイムアウトタイマー(初期設定5分、最短3分)によって送信は自動的に止まるはずですが、3~5分も送信状態放置では他局に迷惑が掛かります。

マイコンのノイズ耐性が原因と推測するに至った珍しい?室内電波障害が一度発生したため、次に紹介します。

室内電波障害

思いも寄らず、パンを焼くトースターに電波障害が発生しました。室内LWアンテナを設営できる部屋は窓が大きな居間になるため、下写真に示すようにダイニングテーブルに移動して運用しています。

写真左側にフレームインしている黒い物体がトースターです。その近くをLWアンテナの引き込み部分が通過しています。トースターの上部隅にLWが載っている日もあります。トースターの筐体は板金でできているため、室内LWアンテナではなく室内LW+Toasterアンテナになっているかもしれません。AH-705は性能が良いためか、LW+Toaster込々で整合してしまいます。LWがToasterと接している日の方が、苦手な24MHz帯の整合が速いような気がします。

ある日、CW Keyingをすると、トースターのタイマーダイヤルの周囲に円周状に配置されているLED群が突然全灯点滅を開始しました。明らかに、内臓マイコンがエラーを訴えているように見えました。トースターには主電源スイッチがないため、コンセントを抜き差しすると、マイコンがリセットされたためか、LED点滅は止まりました。トーストも焼けます。

トースターのACケーブルは2芯のためアースには落ちていません。モータを使う機器ではないためフレームグランドも取っていません。板金筐体に飛び込んだ電波がマイコンのグランドにノイズとして入り込み、暴走したのではないかと推測しています。発生したのは一度限りで再現性はありません。

ただ、IC-705のWiFiマイコン?にもノイズが飛び込むかもしれないと想起させる経験でした。ちなみに、IC-705のアースを建屋躯体に落としてもWiFi切断防止の効果はありませんでした。IC-705のWiFi機能を直接使用するのではなく、下図のようにUSB有線接続のローカルPCからWiFi接続してみると問題の切り分けが進むかもしれません。今後の宿題です。

ローカルPCからWiFi接続しても切断するようなら、WiFiルータ等に電波障害が発生している可能性があります。ただし、今のところ他の機器のWiFi接続に障害は発生していないため、その可能性は低いと考えています。

WAJAの進捗

前回報告時(2023-06-25)には、workedできていない都道府県が1つ(香川県)、加えてconfirmedできていない都道府県が3つ(秋田県三重県京都府)ありました。

その後、オールJA5コンテストに参加したところ、電子QSLにより香川県の3市1郡のworked & confirmedが一気に達成できました。さらに、フィールドデイコンテストでも新たに香川県の1市をworked & confirmedできました。また、秋田県三重県の電子QSLによるconfirmedも進みました。

残っているのは京都府のconfirmだけとなりました。京都府に対しては3局との交信実績があり、その中の1局は記念局です。記念局の紙QSLカードJARL転送は優先的に処理されるとの希望的観測がありますが、それでも1年以内に届けば幸運というところのようです。CQ誌9月号の特集は「電子QSL最新事情」とのことですので、電子QSLの普及が進むことを期待します。

追伸:

来年の京都コンテストとJARL転送のどちらが速いかと思っていたところ、お盆帰省中と思われる京都の局と8月に新たに交信でき、電子QSLによってconfirmedできました(ありがとうございます)。中間スキップのエリアの中で、福井県京都府のスキップが最も厳しく、都市ノイズが多い7MHz帯ではぎりぎりの信号レベルでしたが、RFゲインを絞りノイズから信号を浮かび上がらせることによって何とか交信できました。

これで室内LWアンテナ架設から約半年強で、海外WAC (Worked All Continents)アワードに続いて、国内WAJA(Worked All Japan prefectures Award)が完成しました。

DXの進捗

前回報告時(2023-07-17)のDX Entity数は、LoTW Syncを取ったClub Logから見てworked 32、confirmed 26でした。その後、worked 46、confirmed 34まで増えました。しかし、workedの増加率144%に対して、confirmedの増加率は131%に留まり、両者の差が拡大する傾向があります。

パワー不足以外の主な原因は、室内LWアンテナの耳の悪さによるミスコピースルー(空耳)と、電子QSL未対応の2つです。前者に対しては(1)AFフィルタによるノイズ低減を、後者に対しては(2)紙QSLカードのリクエストを推進することにしました。

AFフィルタによるノイズ低減

室内LWアンテナ☓10Wでは、こちらからDX局への信号強度が弱いため、ミスコピー管理が重要になります。室内LWアンテナの耳の悪さによるミスコピースルー(空耳)を改善するためには、入力段の低雑音プリアンプの導入、および出力段のAFフィルタの導入が、外付けで取り得る手段になるかと思います。まずは安価な方のAFフィルタを試してみることにしました。

IC-705(のHF帯は)はダイレクト・サンプリング SDRのため、IFフィルタはFPGAによるディジタル信号処理で実現されているようです。IFフィルタの帯域は3段階から選択でき、CWモード用の狭帯域はディフォルトで250Hzに設定されています。さらに、TWIN PBT(Pass Band Tunning)機能によって50Hzまで狭めることができます。

目的信号の周波数が既知で固定なら、IFフィルタの帯域を狭くした方がS/Nが向上するはずです。実際、250HzまではS/Nの向上を実感できます。しかし、TWIN PBTによってさらに狭くすると、私の耳には却って聴き難い音になってしまいます(個人の感想です)。

TWIN PBTは名前の如く、Low Pass FilterとHigh Pass Filterを2段階に組み合わせて狭帯域のBand Pass Filterを実現しているものと思います。FPGAに実装されていれば、フィルタを増やしたことによる信号遅延は最小のはずです。何かディジタル信号処理による副作用が出ているのでしょうか・・・。搬送波自体はモノトーンですが、CW信号の立ち上がりと立下りの信号形状を綺麗に構成するためには、250Hz以上の周波数成分が必要ということでしょうか・・・。

以上をAF段の外付けフィルタで確認したいと思い、ボードを手配中です。デモを聞く限り、S/Nの向上は素晴らしいものがありました。

OQRSによる紙QSLカードのリクエス

ARRLお膝元の北米ではLoTWの普及率が高いようですが、全世界で見ると国内と状況は似ており、電子QSL未対応のDX局も多数あります。そこで、紙QSLカードのリクエストも推進することにしました。

Direct(SASE)を出す前に、OQRS(Online QSL Requests System)に対応しているDX局にはOQRSリクエストを出します。Club LogのOQRS以外に、QSLマネージャーが独自のOQRSを主宰している場合もあります。まず、下記3枚がOQRSで届きました。

OL750HOL

前回紹介したチェコ共和国の「ホリショフ市創立750周年記念局」のQSLカードです。LoTWでconfirmedできていましたが、カードの所有欲が湧いてきたため、Club LogのOQRSをクリックしてしまいました。右のQSL(交信証明)面にはシールが貼られ、割り印とサインがありました。

GR2HQ

IARU HF Contestで交信したEnglandのHQ局のQSLカードです。HQ局のQSLカードは1 Wayのビューロー経由で送られる例が多いようですが、こちらのHQ局のQRZ.comにはQSLマネージャにリクエストするように指示がありました。室内LWアンテナでは、いつでもEnglandと交信できる訳ではないため、QSLマネージャ独自のOQRSにリクエストしました。右のQSL(交信証明)面にはシールが貼られています。証明印は割り印になっていませんが、シール自体が証明書(カードは台紙)なので問題ないと思います。

CT9ABV

こちらもLoTWでconfirmedできていましたが、1st AfricaにしてWACアワード獲得における唯一のAfricaとの交信であるため、記念に紙QSLカードをClub LogのOQRSでリクエストしました。リードタイムは約2か月でした。OPはドイツの方々なので、マデリア諸島から本国に帰国されてからのQSL発送処理になっていると思います。切手にはDEUTSHLANDの文字が見え、消印はBriefzentrum(ドイツポストの地区センター)でした。

右のQSL(交信証明)面の下部に写真の説明書きがありました。ボトルは当初予想したマデイラ・ワインではなくPonchaとのことでした。

ポンチャはマデイラ島の伝統的なアルコール飲料で、アグアルデンテ・デ・カナ(サトウキビの絞り汁から作られた蒸留酒)、ハチミツ、砂糖、オレンジジュースまたはレモンジュースで作られています。一部の品種には他のフルーツジュースが含まれています。
https://en.wikipedia.org/wiki/Poncha、自動翻訳)
マデイラではポンチャが風邪を治すと言われており、風邪のような症状がある場合はポンチャを飲むことが推奨されています。
(同上)

・・・ということで、紙QSLカードを手にすることで、行きつけのPoncha barでマスクを付けた両人がPonchaの前で記念撮影をして、その写真をMadeira Is.のQSLカードのデザインとする深意を理解することができました。

ダイレクト(SASE)による紙QSLカードのリクエス

OQRSは便利ですが、全ての局が対応している訳ではありません。昔ながらのSASEによるダイレクト・リクエストも必要になります。OQRSで送料を払った上でSASEが必要という合わせ技もあります。

ベストな組み合わせとされている無地の角型8号封筒、洋型2号封筒、QSLカード、+α(GS等)を材料にしてSASE kitを印刷し組み立てます。近所で地味な無地の洋型2号封筒を見つけるのが難しく、5色組み合わせの派手な封筒しかありませんでした。目立たない方が良いのですが、致し方ありません。

送料が不明なため、近所の郵便局に持ち込み、計量してもらいました。送料OQRS別払いで+αがないと130.0gで90円でした。この重さがボーダーラインで、超えると110円になりました。もちろん、SASE kitに使用する封筒の材質で変わってきます。

最後のスマートレターはJARL転送用の封筒です。180円で国内はがき大のQSLカードの束が2式、2cmの厚さまで入ります。合計で4cmになるため、電子QSLで照合できなかったQSLカードを一気に送付できます。(溜め込んで申し訳ありません。)

II1ITR記念イベントの調査(続報)

イタリアのTEAM - LA TENDA ROSSA(赤テントチーム)記念局の対象イベントの調査続報です。95年前の北極探検飛行船「イタリア」号墜落事故についての映画「SOS北極 レッド・テント」を視聴し、radio amateursの重要性を証明した出来事について調査しました。

ニコライ・シュミット

radio amateursの重要性を証明した「ロシアVokhma村のアマチュア無線家ニコライ・シュミット」は登場しました。先入観で壮年~初老のアマチュア無線家を想像していたのですが、映画に登場するニコライ・シュミットは青年でした。

Rigは真空管式の受信機です。無線家というよりSWL(Short Wave Listener)として登場しています。アンテナは子供たちが揚げるタコに取り付けたLWです。子供たちに指示を出してタコの場所を移動させて感度最大点を探しています。そして遂に墜落した「イタリア」号のSOSと墜落座標を受信します。

その後、無線で救助隊基地に知らせるのではなく、電報局まで馬を飛ばして(おそらく)有線で電報を打っています。やっぱり送信機は無いのかな・・・。

最後は、SOS受信者の自負から出港する救助船に飛び乗ろうとして間に合わず、跳ね橋の上で泣き崩れるところで登場場面は終了しています。

どこまでが史実でどこからが映画の演出か分かりませんが、確かに救助に重要な役割を果たしたradio amateurs(SWL?)の「ロシアVokhma村のアマチュア無線家ニコライ・シュミット」は登場しました。

アニリン

もう一つの疑問も氷解しました。記念局のチーム名にも映画の題名にもなった象徴的な「赤テント」の由来です。救助隊への目印となるように、アニリン(合成染料)でテントを赤く染めたことが「赤テント」の由来ですが、そのアニリンはどこから来たのかが疑問でした。

飛行船の高度を計測するために、アニリンを入れたボーリングボール大の球が使用されていました。球を飛行船から自由落下させ、地表に激突して赤い染料が飛び散るまでの時間を計測して高度を算出する場面が映画で描かれていました。目視で地表激突を認識するためにも、風の誤差を抑制するためにも、大量のアニリンが注入された球を飛行船に多数搭載していたものと思われます。これで、テントを染めるのに十分な量のアニリンを確保可能です。

以上、II1ITR局との599BK交信後の余韻を十分に楽しむことができました。