終段回路は、励振増幅器も電力増幅器もインダクタンスを要素に持ちます。励振増幅器と電力増幅器を分離してLTspiceシミュレーションを行うと、インピーダンス不整合によって精度が悪くなるように思えたため、LPFまで一式でシミュレーション回路を組みました。
前回(13TR-FT8トランシーバ (13)水晶フィルタの組立と測定 - 非職業的技師の覚え書き)測定したラダー型水晶フィルタの出力Tr(Q9)のコレクタ電圧波形を下記に示します。
前々回(13TR-FT8トランシーバ (12)緩衝増幅器のLTspiceシミュレーション - 非職業的技師の覚え書き)の緩衝増幅器のLTspiceシミュレーションによる電圧増幅率の推定13.6倍より小さく、4倍程度でした。前々回のシミュレーションモデルの中に、ラダー型水晶フィルタのモデルが入っていなかったのが原因かもしれません。
前回の実測結果に基づき、今回の励振増幅器(Q10)への入力は振幅2Vのサイン波としてモデル化しました。
励振増幅器のLTspiceシミュレーション
励振増幅器のシミュレーション結果を下記に示します。Tr(Q10)のコレクタ電圧の過渡応答の収束に、約5μsecが必要であることが分かりました。
収束後の励振増幅器の応答を拡大して下記に示します。
ベース電圧Vb(緑)とエミッタ電圧Ve(橙)の差が約600mVに拡大した時点で、コレクタ電流Ic(緑青)が流れ始め、コレクタ電圧Vc(赤)が降下しています。コレクタ電圧Vcには、インダクタンスの影響と思われるアンダーシュートが発生しています。
エミッタ接地抵抗を流れるコレクタ電流Icによって、エミッタ電圧Veも上昇するため、コレクタ電流Icの増加は制限されていると思います。Tr(2N4401)のON電圧特性を下記に引用します。
ベースエミッタ間電圧(Vb - Ve)は最大約0.79Vまで拡大しますが、この時のコレクタ電流Icはデータシートから約200mAとなり、シミュレーション結果と一致します。
励振増幅器のコレクタ電圧Vcは、サイン波ではなく、ON/OFFを繰り返す矩形波状になりました。
電力増幅器のLTspiceシミュレーション
電力増幅器のシミュレーション結果を下記に示します。縦軸のスケールが合わないコレクタ電圧(Final_Vc)を除いた電力増幅器の応答を示しました。
前記の励振増幅器のコレクタと電力増幅器のベースは、Bi-filar巻きのトロイダルトランス(T2)によって結合されています。コイルの極性から、前記で調べたコレクタ電圧Vcの波形を反転させて、電力増幅器のベースに印加しています。よって、ベース電圧Final_Vbの波形はオーバシュートを伴うON/OFF矩形波に近いものになります。
電力増幅器のコレクタ電流Final_Icは、オーバシュートの後に急減衰してから増加に転じる複雑な波形を示しています。電力増幅器はTr3並列の構成を取るため、コレクタ電流Final_Icの3倍の電流がLPFに流れます。
LPFのLTspiceシミュレーション(過渡解析)
LPFの過渡解析シミュレーション結果を下記に示します。縦軸のスケールが合わないために上記では省略した電力増幅器のコレクタ電圧(Final_Vc)も合わせて示しました。
電力増幅器のコレクタ電圧(Final_Vc)は、突発変化のないON/OFF矩形波を示しています。突発変化が無くても矩形による高調波を含むため、LPFの役割が重要になります。
LPFを通過したアンテナへの供給電圧ANT_Vも電流ANT_Iもサイン波に近い波形を示します。振幅はそれぞれ約15Vおよび約320mAです。
これらから計算される電力は約2.4Wになります。1Wのはずなので、どこかに誤りか、リアルとの乖離がありそうです。トランスの結合係数か・・・、水晶フィルタの想定出力か・・・。実測で確認したいと思います。
LPFのLTspiceシミュレーション(交流解析)
オリジナルLPF
オリジナルLPFの周波数応答シミュレーションから、第二高調波付近14MHzの抑圧能力は基本波付近7MHzに対して31dBcとなることが分かりました。
スプリアスは-50dBcに達するとの報告があるため、基本波に対する第二高調波の強度は-20dBc以下と推定されます。
第二高調波トラップ付きLPF
キットでは部品公差や組立スキルに依存して個体差が出ることをQCX+で経験済みです。
そこで、13TR-FT8トランシーバ のLPFについても、もしもの時に第二高調波トラップを付加するための検討を行いました。手持ちのコンデンサ2個の組み合わせで実現できるトラップ容量を4組設定して、最適なコンデンサの組み合わせをLTspiceシミュレーションで探索しました。
オリジナルLPFの通過域が広いため、トラップ用のコンデンサを付加しても通過域には余裕があります。
124pF(=68+56pF)と129pF(=82+47pF)の間にトラップの最適値があることが分かりました。第二高調波14MHzよりもトラップは左の低周波数寄りにあった方が安全と考え、129pFを仮選定しました。
通過域の損失は僅かですが、-0.01dBから-0.5dBに拡大しました。第二高調波付近14MHzの抑圧能力は70dBcに拡大しました。基本波と同じ強度の第二高調波が来ても余裕です。
トラップ機能が必要になった際の本選定では、特にトロイダルコイルのインダクタンスを実測して再検討した方が安全です。