非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

AFP-FSK Transceiver(3)SA612Aの深耕

QRPGuys AFP-FSK (Audio Frequency Processed - Frequency Shift Keying) Digital Transceiver III の受信部に使われているDBM(SA612A)の勘所を事前に探るために、LTspiceシミュレーションを試みました。

なお、バージョンⅢの前のバージョンⅡのキットはDSBトランシーバとなっており、SA612Aを送信機のDBMとしても使用していたようです。

LTspiceモデル

受信部のユニットは混合器のSA612AとオーディオパワーアンプLM386の2つですが、どちらもデバイスメーカ提供のLTspiceモデルはありませんでした。

SA612AのLTspiceモデル

W3JDR局が公開しているLTspiceモデル(SA612.ascおよびsa612.asy)を利用させて頂きました。シンボル(sa612.asy)の中の回路図(SA612.asc)を開くことができました。この回路図のパラメータを実測によって決めていったようです。先人の努力に感謝です。

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SA612のLTspiceモデル回路図(W3JDR局公開)
LM386のLTspiceモデル

著名なアンプですが、LTspiceモデルを探すのに苦労しました。「the EasyEDA Tesseract DIY Guitar Practice Amplifier」というギター練習用アンプのDIYページで、subckt model(サブサーキットモデル:等価回路モデル)のLM386EE.subが見つかりました。

こちらはシンボルが無かったため、LTspiceに標準で備わるLM308.asyを流用改造してLM386EE.asyを作りました。

LO発生器のLTspiceモデル

MS5351Mの出力をPULSE(矩形波)電圧源で近似しました。

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LO発生器のLTspiceモデル(PULSE電圧源)

注意点としては、周期(Tperiod)やデューティ(Ton)の有効桁数を十分に取らないと、復調したAFが大きく乖離してしまいます。LO周波数との差が大きいためと思われます。

今回はLOを7MHz、RFを7.002MHz(AF=2kHz)としたため、PULSEの仕様は以下としました。有効桁数が足りないと問題が生じることが悩んだ末に分かったため、Excelの標準有効桁数目いっぱいの数値をそのままペーストしました。

  • Ton       = 71.4285714285715ns
  • Tperiod = 142.857142857143ns
AFP-FSK Transceiver 受信部のLTspiceモデル

以上のモデルを使用した受信部全体のLTspiceモデルを下記に示します。SA612の存在感が大きくなりました。

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AFP-FSK Transceiver 受信部のLTspiceモデル

LTspiceシミュレーション結果

時間領域の応答結果

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AFP-FSK Transceiver 受信部のLTspiceシミュレーションの時間領域応答結果

AF=2kHzの周期は0.5msであり、AUDIO信号を復調できているようです。

RF=200mVを注入しましたが、AF=120μV程度と小さい出力しか得られませんでした。LM386のシンボル作成でピン配置を間違えたのでしょうか?。上手く間違えないと、動作しないと思うのですが・・・。

周波数領域の応答結果

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AFP-FSK Transceiver 受信部のLTspiceシミュレーションの周波数領域応答結果

時間領域応答結果をFFTした結果です。AF=2kHzの復調が確認できます。RFは矩形波ですが、7MHzより低周波側にノイズの発生は無いようです。

追記(2022/02/10)

LM386の新しいLTspiceモデルが<http://ltwiki.org/files/LTspiceIV>にて見つかりました。こちらは、シンボル(Lm386.asy)とサブサーキットモデル(Lm386.sub)の両方がサポートされています。早速、LM386のモデルを差し換え、追試を行いました。

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AFP-FSK Transceiver 受信部のLTspiceモデル(LM386換装)
時間領域の応答結果

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AFP-FSK Transceiver 受信部のLTspiceシミュレーションの時間領域応答結果(LM386換装)

ノイズの小さい2kHzのAudio信号を復調することができました。5msecのシミュレーションでは電解コンデンサ等の過渡応答が収束していませんが、振幅は±0.7V程度が得られています。

周波数領域の応答結果

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AFP-FSK Transceiver 受信部のLTspiceシミュレーションの周波数領域応答結果(LM386換装)

時間領域応答をFFTした結果から、2kHzのAudio信号の復調が確認できます。7MHzのRF搬送波がノイズになりますが、S/N=52dBcで抑圧できていることが確認できます。前回とは大きな違いです。

前回のシミュレーションには、LM386のLTspiceモデルに瑕疵があったことが確認できました。シンボルの流用作成が上手く行っていなかったのかもしれません。エラーで止まれば容易に気付くことができますが、間違っていても出力が得られると切り分けが難しくなります。