仮設から永続的架設へ
室内ロングワイヤーアンテナをガムテープで窓のアルミ枠に張り付けて仮設しましたが、2週間程で脱落してしまいました。アルミ枠支柱の表面粗さによって接着力を発揮することが難しいこと、温度変化、結露、紫外線等の環境因子によって接着剤が劣化することが原因と思われます。
そこで、3Mのコマンド™ フック(CMG-SS-CL)によって永続的な架設を試みました。凹凸面には取り付けられないとの仕様でしたが、粘着テープに厚みがあり、アルミ枠支柱の表面粗さ程度でしたら強く接着できました。将来、剥がす際には粘着テープの舌状タブを引き伸ばすことで粘着テープを物理的に塑性変形させて粘着力を弱め、キレイにはがせるとのことです(まだ試していません)。3mmコード用のSSサイズでちょうどアンテナワイヤーを挟み込んで保持でき、テンションを掛けて架設することができました。プラスチックのフック本体も粘着テープも透明なため目立ちません。
運用実績
交信数
その後、順調にHFマルチバンドでのQSO数を伸ばしています。室内LWアンテナの性能指標の一つとして、QSOの内訳を下記に示します。FT8のQSOを2つ含んでいますが、他はCWです。
AH-705のリレー切換の動作時間が長くSWRも高目になることから、チューニングが最も難しいと思われるバンドは12m(24MHz)です。最近、その12mバンドでもDU3(Philippines)と交信でき、星取表が埋まりました。
交信実績のないバンドは、80m(3.5MHz)と6m(50MHz)を残すのみとなりました。6mはSSBなら聞こえているのですが、CWはまだ聞いたことがありません。80mは強ノイズしか聞こえません。
JAは主に移動局を呼んでいますが、9エリアが残っています。LWに変更してから2エリアは強く入感するようになりましたが、飛騨山脈の先は中間スキップになってしまうようです。無線局数が少ないことも影響しているかもしれません。
問題
しかし、問題が発生しました。FT8の交信数が伸びないことには理由があります。IC-705とPCを接続したところ、送信によってCAT/Audio接続が切断されてしまう現象が多発しました。
また、AH-705にラジアルケーブルを付け忘れて運用したところチューニングできてしまい、その日の最後までラジアルケーブルの付け忘れに気付かないことがありました。別の所をラジアルケーブルの代わりにして回り込みが発生し、コモンモード電流が流れている可能性が高いと思われます。室内で相互に近接して、アンテナワイヤー、ラジアルケーブル、無線機、PCが設置されているため、回り込みが発生する条件が整っているように思われます。
Webを調査すると、IC-705のCAT/Audio接続切断の問題が複数報告されているようです。対策は2つあるようです。1つ目はコモンモード電流の削減、2つ目はIC-705のアース設置です。しかし、コモンモード電流を削減するためには無線機を高周波的にフロートさせるのが基本であり、アース設置は悪手とされているようです。そこで、まずコモンモード電流の削減に取り組みました。
コモンモード電流の測定
RF電流計
見えない敵と戦うのは大変です。そこで、まずコモンモード電流を定量的に測定するためのRF電流計を組み立てました。参考にした文献は下記2点です。
山村著「改訂新版 定本 トロイダル・コア活用百科 」、CQ出版 (2006)
第10章 計測機器
10.3 高周波電流計、pp.404-406
HAM world 2020年11月号、コスミック出版 (2020/9)
片倉著「電波障害とその対策」
第3回 アマチュア無線局のコモンモード徹底対策、pp.106-115
RF電流計は大進無線が頒布販売している「ディジタルRF電流計(高周波電流計)バージョン2 パーツセット」を利用して組み立てました。
大型洗濯ばさみ?の存在感が大きいです。
分割コアは初めからナイロンクランプに接着されていました。配線済みのケーブルに設置できるように、汎用部品として販売されているようです。固定用のナイロン突起部は不要のためカットする例が組立マニュアルに示されていましたが、大型ニッパでも歯が立ちませんでした。見栄えは悪いですが、カットしなくても不都合はありません。
検波部基板には、ダイオードブリッジによる全波整流回路とRC平滑フィルタが載っています。このパーツセットは数年前に入手しておいたものですが、頒布元のWebページを確認したところ、現行品は表面実装部品になっているようです。リード部品だと芋ハンダで配線することになるため、表面実装部品の方が綺麗に仕上がるのではないかと思います。
大型洗濯ばさみにコアと基板を装着して完成です。
検波電圧値から電流値に変換するための校正キットを購入するを忘れました。電流は電圧の約1/10になるようにRF電流計は設計されているとのこと。ただし、電圧が100mV以下になるとダイオードの電圧降下の影響が出て、電流は電圧の1/10よりも若干大きくなるようです。
RF電流の測定
IC-705には下図に示す4本のケーブルが接続しています。ノートPCに接続しているのはDCケーブルだけです。IC-705とPCの間の接続はWiFiです。
IC-705に接続する4本のケーブルの中で、RF電流が最も大きかったのはアンテナ同軸ケーブルでした。同軸ケーブルの外皮がコモンモード電流の帰還経路になっているためと思われます。
以下にRF電流の計測値をまとめます。IC-705の出力は10Wです。電流値は測定電圧の1/10で近似換算しています。
周波数が低いバンドほどコモンモード電流は大きくなります。周波数が高くなると21MHzで約30mAに収束し、それ以降は減少しません。
コモンモード電流の対策
目標
コモンモード電流は「見える化」できたのですが、対策の要否を検討するためには目標値が必要です。上記HAM world誌の寄稿記事に以下の目安が載っていました。
- 20mA以上 対策必要
- 20~5mA 状況により判断
- 5mA以下 対策不要
現行の無線システムでは全てのバンドで20mA以上になるため、対策が必要との結論になります。
対策
RF電流計と同時に大進無線から購入しておいたコモンモード・フィルタ (フロート・バラン)DCF-RF-40LLQE自作部品セットを組み立てて、IC-705とAH-705の間のアンテナ同軸ケーブルに挿入することにしました。
DCF-RF-40LLQEの特徴は以下となっています。
- HF帯無線機ハイパワー500W対応のコモンモードフィルター
- 大型コアの採用、耐熱同軸 2.5D-QEVを使用し、高性能、高耐圧、低価格を実現
- 特にHFミッドバンドの特性が良く、1.8~50MHz帯用におすすめ
2つのコア(E04RJ402715)に同軸ケーブルを各13回巻き、コネクタを付ければ完成です。IC705に合わせてコネクタはBNCにしました。
コア相互でキャンセル巻きになっていると思いますが、巻き方は特殊です。コアから脱出する同軸が相互に近接しないように、オフセットを持たせることを狙いとした巻き方設計になっていると思われます。
対策後のRF電流の計測値を以下にまとめます。15mと10mは測定電圧が小さくなり過ぎたため、山村OMの書籍の校正カーブを参考にRF電流換算値(*)を修正しています。
全てのバンドで20mA以下になり、目標を達成しました。80mと6mを除いて5mA以下も達成しました。80mと6mの減衰が小さい結果はフィルタの仕様通りです。
同軸ケーブル以外のケーブルもクランプ式のフェライトコアを用いて対策を行いました。フェライトコアの挿入位置と、40mバンド10Wの結果を下記にまとめます。
全て20mA以下を達成しました。(4)のIC-705用DCケーブルのRF電流が14mAと高目のため、追加対策が必要かもしれません。試しに(6)のACタップに装着したクランプコアを2個に増やしてみましたが効果はありませんでした。
CAT/Audio接続切断防止の効果
インターフェアのリスクは低減できたと思います。しかし残念ながら、CAT/Audio接続切断は相変わらず発生しています。コモンモード電流が原因ではなかったのでしょうか。
WiFi接続の対策
IC-705とノートPCは、宅内リモート運用の免許を得てWiFiで接続しています。ノートPCの内部にコモンモード電流が発生している可能性を切り分けるため、デスクトップPCへの接続テストも行いましたがCAT/Audio接続切断は発生しました。
IC-705はLANの子機にも親機にもなれるため、親機にしてノートPCにWiFiルータ無しで直接接続してみましたがCAT/Audio接続切断は発生しました。子機の場合はPCの接続ソフトで接続し直せば良いのですが、親機の場合はIC-705の再立ち上げが必要になり却って重症です。
CAT/Audio接続切断の原因はPC側やWiFiルータ側ではなく、IC-705の側にあるとの感触です。CAT接続はクリティカルな制御通信として、パケットロス回数の判定しきい値が小さく設定されているのではないかと想像されます。切断したら手動で再接続することになるため、ソフトウェアで粘り強くパケットを再送したり再接続をするようにしてほしいと願うのですが的外れでしょうか。CAT切断によって送信垂れ流しになることもあります。送信遮断のフェールセーフも必要かと思います。
残る対策オプションは、USB有線接続と、保安アース接続の2点です。どちらも、無線機をフロートさせるためにコモンモード電流遮断のコア挿入は必要になるかと思います。