スプリアス規格
スプリアス規格には、
(1)「帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の許容値」
(2)「スプリアス領域における不要発射の強度の許容値」
の二つの規格があります。
40m QCX+に対して、後者(2)のスプリアス領域の不要発射(主として第二高調波)を規格以下に抑圧するためのLPF改良と測定結果の報告を下記の覚え書きに記しました。
今回は、残っている前者(1)の帯域外領域におけるスプリアス発射の測定についての覚え書きを記したいと思います。
しかし、(1)にも(2)にも「スプリアス」(設計上意図されない周波数成分)という同じ言葉が異なる主部と述部に入っていて紛らわしいですね。両方とも「不要発射の強度の許容値」として、規格の異なる領域の名称だけ分けた方が論理的と思うのは私だけでしょうか。過去の法規との整合性等があるのでしょうが・・・。
帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の許容値
まず基本として、規格を一次情報の総務省のホームページを中心に調べました。「アマチュア局の・・・許容値は、・・・に規定する値にかかわらず、次のとおりとする」と言うように、アマチュア局専用の(緩くした?)規格が後で上書きされているため、最後まで丹念に読み込む必要があります。理系の非職業的技師の読解力では以下の調査結果となりました。
30MHz以下の周波数の電波を使用するアマチュア局の「帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の許容値」は、1Wを超える場合には「50mW以下であり、かつ、基本周波数の平均電力より40dB低い値」となっているようです。(2)スプリアス領域と比べると、50dBから40dBに軽減され、電力は尖頭電力から平均電力に代わっています。変調の関係でしょうか。
規格から言葉の定義を拾うと、帯域外領域とは占有周波数帯幅の近傍を指し、30MHz 以下の A1Aの場合は中心周波数 fc±10kHz となるようです。A1Aの占有周波数帯幅の許容値は BN=0.5kHz です。
帯域外領域スプリアス発射の測定におけるあい路
帯域外領域で最もスプリアス発射強度が高いのは、占有周波数帯幅との境界の fc±0.25kHz 超近辺と想定されます。したがって、測定器の RBW(分解能帯域幅)が大きいと、占有周波数帯の発射成分が帯域外領域測定に混入してしまい、正しく評価できない恐れがあります。
測定器として、まず(2)スプリアス領域の測定に用いたスペクトルアナライザ tinySAを(1)帯域外領域の測定にも使用できないか考えました。tinySA は普及が進んだため、下記を例とした専門雑誌に取り上げられることが多くなり、専門家執筆陣の評価を読むことができます。
それによると、tinySA の RBW の最小値は 3kHz です。占有周波数帯幅の BN=0.5kHz が丸々入ってしまいます。tinySA で帯域外領域の境界部を高分解能で評価することは困難であることが分かります。
どうしたものかと思い悩み調査をしていたところ、JE3PRM 局 OM の下記 Blog が目に飛び込んできました。tinySA では分解能が得られないため、USBドングル型SDR の SDRplay を用いて帯域外領域の測定を行い、JARD の保証を得ておられます。
下記の雑誌RFワールド 最新No.55号にも、USBドングル型SDR の Airspy を変調信号の解析に補完使用する評価記事が掲載されています。
幸いなことに、非職業的技師も JE3PRM 局と同じ SDRplay(RSP1A)を保有しています。USBドングル型SDR の RBW は、ドングル側のADCサンプリング速度と、PC側の SDR ソフトの FFT 点数( FFT 計算速度)に依存していると思われます。ドングル側のデータシートには RBW の記載はありませんでした。
標準ソフトの SDRuno のマニュアルには「GUIで RBW の調整が可能」との記載がありますが、設定可能な値の記載はありませんでした。ソフト単独では記載できない仕様なのかもしれません。実際に RSP1A に接続した SDRuno を立ち上げて RBW を最小に調整すると、Main SP パネルで 30.52Hz、Aux SP パネルで 9.68Hz を設定できました。tinySA の約 1/100~1/300 の RBW です。
JE3PRM 局が使用された SDR Console(SDR-Radio.com Ltd.)についても調べてみましたが、RBW の記載はありませんでした。ノイズを測定し、ある帯域のピーク数を FFT の bin 数とみなして目視で数えたところ、bin の間隔は約 31Hz でした。SDRuno の 30.52Hz と同程度の RBW になっているようです。
USBドングル型SDRによる測定1(近接界アンテナ方式)
測定方法
次に課題になるのは、SDRplay への QCX+ の RF 信号(6.6W、38.2dBm)の入力方法です。RSP1A の最大許容入力は、連続 0dBm、短時間 10dBm となっていますので、手持ちの 41dBステップアッチネータを挟めば入力できそうです。しかし、JE3PRM 局 OM の Blog から「市販のトランシーバのSメータの9はほぼー70dBm」との情報を参照させて頂くと、減衰能力が足りないのではないかと心配になります。
そこで、QRP-Labs 製のダミーロードがシールドされていないことを逆手にとって、 RSP1A に付けたミニホイップアンテナを近接界プローブとみなして、ダミーロードから漏れる微弱電磁波を受信してみることにしました。計測システムの構成図およびイメージ写真は下記の通りです。
測定結果
ノイズフロアが上がるのを避ける意図で、ミニホイップアンテナに Bias-T(アンテナ能動素子への RF 重畳 DC 電圧)は加えませんでした。key は連続押下して文字通りCWを送出しました。
SDR Console の画面を下図に示します。測定範囲が中心周波数 fc±10kHz に少し足りていませんでした。
緑の帯は占有周波数帯幅 BN=0.5kHz を示します。「帯域外領域におけるスプリアス発射の強度」は 48dB より低い値となり、規格の「 40dB 低い値」を満足しています。6.6W の送信電力に対して 0.1mW となり、規格の「 50mW 以下」を満足します。