20m QCX-mini の LPF の改良設計
前回のスプリアス測定によって、20m QCX-mini の元祖 LPF はスプリアス規格(スプリアス領域における不要発射の強度の許容値;50mW 以下であり、かつ、基本周波数の尖頭電力より 50dB 低い値)を満足することが判明しました。
実は USB オシロの FFT 機能によって、スプリアス規格を満足しないのではないかとの予備評価結果が得られていたため、CWAZ フィルタへの改良設計に着手していました。実際に改良を適用するかどうかは未定ですが、LTspice に基づく設計結果を忘れないようにまとめておきます。
CWAZ LPF
W3NQN局 Ed Wetherhold さんが QST 誌の解説 "Second-Harmonic-Optimized Low-Pass Filters"(https://www.arrl.org/files/file/Technology/tis/info/pdf/9902044.pdf)で提案している CWAZ(Chebyshev with Added Zero)LPF の素子値と LTspice によるシミュレーション結果を下記に示します。
第二高調波(28MHz)の抑圧能力は、元祖 LPF の 47.7dBc から 60.6dBc に向上しています。通過域が伸びた結果、リップルが右に移動し、14MHz における通過損失は消滅しています。
個人的には、29.8MHz の共振周波数(トラップ周波数)は高すぎるように思います。第二高調波の左に持ってきた方が、素子値のばらつきに対してロバスト(頑健)な設計になると考えます。
フィルタの構成としては、コンデンサC5を追加すれば CWAZ LPF になります。しかし、7個の素子の値は元祖 LPF とは全て異なり、CWAZ LPF に換装するためには7個の素子も入れ替える必要があります。これは手間がかかるだけでなく、C1の変更はE級ファイナルへの干渉が生じる可能性があります。
そこで、元祖 LPF の変更を最小にする、特にC1を変更しない改良設計を検討しました。
改良版1のLPF
まず、元祖 LPF に第二高調波共振用(トラップ用)の C5 のみ追加したシミュレーション結果を下記に示します。元祖 LPF の L2 = 0.87μH に合わせて 29.7MHz で共振する C5 の値は 33pF になります。
第二高調波(28MHz)の抑圧能力は向上しましたが、通過域が大幅に減ってしまいました。素子値が少しばらつけば、大幅な通過損失が発生する可能性があります。
改良版2のLPF
L2 を CWAZ LPF が提案する 0.608μH に変更しました。C5 も 47pF に戻しました。
第二高調波(28MHz)の抑圧能力は確保したまま、通過域を 16MHz まで拡大することができました。しかし、リップルのため 14MHz で -1.9dB の通過損失が生じてしまいました。
改良版3のLPF
L1 と L3 も CWAZ LPF が提案する 0.67μH に変更しました。
第二高調波(28MHz)の抑圧能力は確保したまま、通過域のリップルを低減し、14MHz で 0.1dB としました。これは CWAZ LPF と同じ値です。3つのLの値は CWAZ LPF が提案する値と同じにする必要があることが分かりました。C1 から C4 の値は CWAZ LPF が提案する値ではなく、仮称「元祖 LPF 」の値のままです。E級ファイナルには干渉しない予定です。
改良版4のLPF
前記の通り、CWAZ LPF は 29.8MHz の共振周波数で設計されていますが、非職業的技師は共振周波数を第二高調波(28MHz)より小さくした方がロバスト(頑健)であると考えます。そこで、C5 を 56pF に換装して共振周波数を 27.3MHz にしました。
第二高調波(28MHz)の抑圧能力は-70dBcに拡大、通過域は縮小しましたが損失は発生せず 14MHz で 0.8dB となりました。
次はロバスト性を評価します。QCX-mini の狭隘スペースに追加実装する C5 は、ムラタの一般用チップ積層セラミックコンデンサGRM21A5C2E560JW01(温度特性 C0G、定格電圧 250Vdc、静電容量 56pF ±5%)の使用を想定しています。
(改良版4p)C5 = 58.8pF(+5%)、(改良版4m)C5 = 53.2pF(-5%)のばらつき両端の特性を調べました。
何れの場合も、第二高調波(28MHz)の抑圧能力と通過域の損失は問題ありません。(2)改良版4mの時に共振周波数は 28.0MHz となり、第二高調波の抑圧能力は計算上 -93.9dBc に達します。
T37-6 コアの L2 を 0.87μH から 0.608μH に換装するためには、現行の 17 ターンを 14 ターンに減らします。同じ T37-6 コアの L1 あるいは L3 を 0.77μH から 0.67μH に換装するためには、現行の 16 ターンを 15 ターンに減らします。何れも減らす方向なので、コアを取り外して巻き線を詰めれば良く、改良の工数は最少で済みそうです。
非職業的技師が組み立てた 20m QCX-mini の個体は、元祖 LPF のままでスプリアス規格を満足することが判明しているため、改良を適用するかどうかは未定です。