結論
HF Low-Band(3.5MHz帯)からHF High-Band(28MHz帯)まで、加えて50MHz帯で、SWRは1.5以下の実用域に落ちました。バンドによってはSWR1.0を達成しました。
動機
アパマンハムには、安全性、景観適合性(ステルス性)、電波障害などのリスク要因があり、特にHFオールバンドでの運用を目指すとリスクが大きくなります。
近年は、カーボン釣り竿+ATUの可能性が開拓され、アパマンハムにもHFオールバンド運用の道が切り開かれてきたように思われます。しかし、拙宅では釣り竿のリスク要因をクリアできません。
そこで、室内ロングワイヤー+ATUの可能性を探ることにしました。室内モービルホイップでも多くを望まなければ交信は不可能ではないため、ロングワイヤーの可能性もゼロではないと考えた次第です。
実験システム
環境という最大の不確定要素を他の要素と切り分けるため、今回の実験資材は全て既製品で揃えました。
一般的に集合住宅で最も眺望が良い部屋は居間です。光が差し込む窓が大きいということは、同じ電磁波の電波も飛びやすいのではないかと期待させます。そこで、拙宅では居間のダイニングテーブルへの宅内移動が運用スタイルになっています。ロングワイヤーエレメントは居間の窓に張り付けることにしました。
居間の窓が大きいと言っても、8mのロングワイヤーエレメントをそのまま展開する幅はありません。そこで、弛みを入れて5.5mを水平展開し、90度折り曲げて1.0m水平展開し、残りの1.5mをダイニングテーブル上のAH-705までの引き込み線としました。
窓には約1m間隔でアルミサッシの支柱が入っています。その支柱にワイヤーをガムテープで張り付けて仮設しました。室内仮設では、アンテナがアルミと鉄筋の籠の中に囚われているような形になりますが、波の性質を利用して滲み出てくれることを期待しました。
ラジアル線5本を散開すると宅内景観条例(不文律)にひかかるため、まとめて床に放置しました。床のフローリングは鉄筋と距離があるため、静電結合は期待できず、カウンターポイズには成り得ていないと思われます。
CQ誌2023年2月号掲載のJG1UNE小暮OMの寄稿「ATUの基礎知識とその活用法」には「ラジアル線を浮かせる」効能が述べられています。また、他の方のBlogにもラジアル線を浮かせることでSWRが下がったとの報告があります。フローリング床の効能は意外に大きいのかもしれません。逆に、下手に躯体アースに落とすと、電波の鳥籠に鍵が掛かってしまうかもしれません。
SWR測定
HF Low-Band(160/80/40/30m)
160mバンドには整合しませんでした。8mのロングワイヤーエレメントの仕様通りです。
80mバンドのSWRは1.3程度に落ち、実用域に整合しました。チューニングポイントに谷があるのではなく、周波数が高くなるとSWRが増加する比例関係があります。高めの周波数ポイントでチューニングするのが良いかもしれません。
40mバンドのSWRは1.1以下です。80mと同様に、周波数とSWRに比例関係があります。
30mバンドのSWRはポイント測定になってしまいました。こちらも1.1以下です。
HF High-Band(20/17/15/12/10m)and 6m
20mバンドのSWRはチューニングポイントで1.1程度、最大でも1.2程度になりました。唯一、チューニングポイントでSWRが最小になる谷の様相を示しました。5mのラジアル線が1/4波長になるのは20mバンドです。その関係が作用しているのでしょうか。
17mバンドのSWRも1.2以下になりました。短縮率を考えると、8mのエレメントでは最も危険なバンドと思いますが、問題ありませんでした。Low-Bandとは逆に、周波数が高くなるとSWRが減少する負の比例関係になりました。低めの周波数ポイントでチューニングするのが良いかもしれません。
15mバンドのSWRも1.2以下になりました。17mバンドと同様に、周波数とSWRに負の比例関係があります。
12mバンドのSWRは1.4程度になりました。160mバンドより整合が難しいようです。それでも、SWR1.5以下の運用可能なレベルになっています。
10mバンドのSWRは1.0です。
6mバンドのSWRも1.0です。
SWR測定のまとめ
屋外で垂直にワイヤーを設置して良好なアースを確保した場合に、8mのロングワイヤーとATUの組み合わせにより、3.5MHz(80m)以上のHFバンドで整合可能という想定でした。
これに対して、室内で水平にワイヤーを架設し、丸めたラジアルを床に置いただけでも、3.5MHz(80m)以上のHFバンドで整合可能という結果になりました。期待以上です。
交信実績
インピーダンスのマッチングがアンテナの放射効率を保証してくれるわけではありません。放射効率を定量的に測定する手段は持ち合わせていないため、交信実績で評価することにしました。
アンテナ仮設からの4日間で行ったCW交信実績を下表に示します。運用は週末だけです。合計47QSOでした。タイミングよく後半の2日間にARRL DX CWコンテストがあったため、DXの交信実績が伸びました。JAの実績積み上げはALL JAコンテストを待つ必要がありそうです。
最下行のDX Zone 31はハワイです。アンテナを仮設した初日と翌日にCQを連呼していたARRL記念局W1AW/KH6と交信できました。2023年はVOTA(Volunteers On the Air)記念局として運用されているようです。初日が15mバンド、翌日が20mバンドです。自局の電波の弱さ(による相手局のコーピーミス)を上手くカバーする技量が無いため、交信が成立しているかどうか心配でしたが、LoTWでコンファームできました。それなりの強度の電波が飛んで行ってくれたようです。
これで自信がつき、ハワイと交信できるなら西海岸とも・・・と思い、ARRL DX CWコンテストに初参加しました。DX Zone 3は北米西海岸、4は中部、5は東海岸です。
ARRL DX CWコンテストの結果を下記に示します。左のCTESTWINによる自己採点結果から、コピーミスマネージメントに失敗した分が減点されていくと思います。10Wのコンテストナンバーが珍しいのか何回か問い合わせを受けましたが、こちらの返答が正確に伝わっていないかもしれません。電波が弱いほどコピーミスマネージメントが重要と思いました。
右に交信数の時系列推移を示します。コンテスト初日は朝寝坊で出遅れましたが、翌日は早起きをして交信実績を積み上げました。北米に日が沈む昼で終了し、昼食に明け渡すためにダイニングテーブルから撤収しました。
残念ながら、DX Zone 5の北米東海岸の局とは交信できませんでした。パイルを避けてCQ連呼の局を呼ぶ運用スタイルですが、CQを出している東海岸の局を見つけられませんでした。五大湖の下のイリノイ州およびインディアナ州までは届いたのですが。
大圏地図(例えばCQ誌付録DX WORLD ATLAS pp.16-17)でショートパスを考えると、西海岸と東海岸で著しく距離が異なるという感じはしません。西海岸の局からは海面反射で届くのに対して、東海岸の局からは北米大陸、アラスカ、カムチャツカと地表反射で届くことが原因でしょうか。
コンテスト2日目の正午前に10mバンドでPT9(ブラジル)がRST579で強く入感しました。コンテスト参加局だったため、こちらから呼ぶことはできませんでしたが、交信の可能性を感じました。PT9を呼ぶWの局も聞こえていましたが、PT9には聞こえていないようでした。南米日没時のE層反射の不思議な伝搬を体験することができました。
今後の課題
室内ロングワイヤーアンテナには十分なポテンシャルがあることが分かりました。ガムテープによる仮設ワイヤーは既に剥がれて脱落しかけているため、永続的な架設方法を考えたいと思います。
交信実績が無いバンドは、80m、12m、6mだけとなりました。6mバンドは開局時の思い出深いバンドです。当時はTR-1300(5W)と5エレ八木の組み合わせでしたが、ワイヤーアンテナとIC-705(10W)の組み合わせでどこまで交信できるか、夏場のEスポ時に期待したいと思います。
室内ロングワイヤーアンテナは安全性と景観適合性のリスクを100%クリアーしています。残るリスクは電波障害です。今のところ電気機器に問題は生じていませんが、コモンモード電流の測定などを検討したいと思います。