非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

室内ロングワイヤーアンテナはSWR1.0の夢を見るか(6)

2023年2月より、室内LWアンテナx10Wの性能確認のための交信を週末に実施しています。前回、国内CW交信の実績をまとめました。今回は、DX CW交信の約5か月間の実績をまとめます。

DX交信実績

室内LWアンテナx10Wにより、下記の32エンティティと6月までに交信できました。電子QSL(LoTW)が得られているのは26エンティティです。

室内LWアンテナに強く入感するコンテストステーションを中心に交信できました。今後は新しいエンティティのためにベアフット局(裸足局?=リニアアンプ無し=それでも100W!)と交信する必要が増え、EUを除く新エンティティを得ることが徐々に難しくなって行くと予想されます。EUは国が多く、局所的なパスが開ける毎に異なるエンティティとつながる印象です。そこが599BK方式でも、電波の不思議を感じさせる面白さです。サイクル25のピークに向かう今後数年でDXCC100に到達できるでしょうか・・・。

CQ WPX到達度

LoTWのCQ WPX Accountの集計が分かり易いため、下記に示します。左のバンド別の集計で、40mバンドと30mバンドは全てJA局との交信によるプリフィックス数です。20m以下のバンドはJA局およびDX局との交信が混在したプリフィックス数です。

JA局のプリフィックス数が多い利点を生かして、DXCC100到達よりもCQ WPX300到達の方が速いかもしれません。

WAC到達度

6大陸(AS、OC、EU、AF、NA、SA)と交信すると得られるWAC (Worked All Continents)アワードを、室内LWアンテナx10Wの最初の目標にしていました。AN(南極)が要件に入っていないため、達成の可能性はあると考えていました。

お膝元のAS(亜州)と接するOC(大洋州)、NA(北米)、EU(欧州)は、DXコンテスト参加により比較的容易に交信できました。課題はAF(阿州)とSA(南米)でした。上記CQ WPX Account集計右側が大陸別プリフィックス数になります。最後まで残ると予想していたAF(阿州)は「僥倖」があり、1局だけですがConfirmedできました。残るはSA(南米)となりました。

AF僥倖の経緯は以下の通りです。コンテストに参加しても、室内LWアンテナの耳にAFは一向に聞こえてきませんでした。WACは無理か・・・と考え始めたある日、9J(Zambia)が強く入感しました。Zambiaに行ったことはありませんが地誌を調べたことがあったため、HamLogのZambiaヒットで直ぐにAFのエンティティであることに気付きました。アフリカ大陸南方中央に位置する海岸線を持たない国です。地誌を調べた思い入れもあり是非交信したいと思ったのですが、世界中から呼ばれるため、室内LWアンテナから出て地球を半周する10Wの微弱電波に順番が回ってくることはありませんでした。

良いコンディションが続いていたのでしょうか・・・、日を経ずしてCT9(Madeira Is.)が入感しました。プリフィックスから最初はPortugal(EU)かと思ったのですが、調べてみるとPortugal自治州のMadeira Is.はAF大陸に属する別エンティティでした。日本からの大圏地図によるとMadeira Is.はPortugalの先の大西洋上に位置しますが、緯度はモロッコカサブランカ辺りと同じになるようです。アフリカど真ん中のZambiaとは異なりますが、AFには変わりありません。

Portugalとも交信実績が無かったためEUのCTであったとしても交信したいところですが、AFのCT9ならWAC達成のために是非交信したいエンティティです。しかし、Madeira Is.からはEUがローカルで、障壁のない大西洋の向こうはNA東海岸です。CT9も世界中から呼ばれるため、Zambiaと同じく順番が回ってくることはないかな・・・と諦めかけていました。

ここからが僥倖です。JAが数局交信に成功したところで地球の裏側のJAとパスが開けていることにCT9ABV局が気付いてくれたのでしょうか・・・、途中からフェードアウトするまでJA指定のCQになりました。最後のチャンスと呼び続けていると、遂にリターンコールがありました。ビックガンの陰に隠れながらも、室内LWアンテナx10Wの電波がちゃんと届いていたようです。しかし、このアンテナには耳の性能にも課題があり、サフィックスが正しいことはしっかりと聞き取れたのですが、プリフィックスの「K」がQSBに沈んでしまい、ちょっと確信が持てない終わり方になってしまいました。「まさかJK1がJA1にミスコピーされていないだろうなあ・・・」と悶々としていると、LoTWに吉報が届きました。

Club Logでも確認できました。最初はOQRS不可だったのですが、数日してOQRS受付可に変わりました。おそらく、OPの方が本国に戻られたのだと思います。LoTWでConfirmedできているのですが、1st AFの記念に下記のQSLカードをリクエストしました。AFを感じさせる配色です(個人的感想です)。コロナ禍対応のお二人の前に写っているのは、おそらく島の産業のひとつであるマデイラ・ワインかな・・・。

交信の記念にマデイラ諸島について調べてみると、良く知られた二人のポルトガル人の出身地であることが分かりました。一人は歴史上の人物のクリストファー・コロンブス、もう一人は現代のサッカー選手クリスティアーノ・ロナウドです。以前、ロナウドが実家に帰って家族と過ごしている様子をTVで放映していましたが、マデイラ諸島でロケしたのかもしれませんね。

追伸:WAC完成

7月に入ってからのIARU HF Contest(2023/7/8~9)にて、SA(南米)3局の信号を室内LWアンテナでも確認できました。WAC完成のための貴重な機会と捉えて、果敢無謀にパイルに参加しました。しかし、SAからの高速打鍵のCW信号は大陸伝搬特有の残響のようなQSBを伴い、リターンコールの確認に苦戦しました。こちらからの微弱CW信号では「E」がノイズに埋もれてしまい、「EJ」が「J」や「EO」にコピーされる例があるため気が抜けません。その際には「E-空白-J」を送信しますが、これで上手く行くケースと、却って混乱を招くケースがあり、未だベストプラクティスを見いだせていません。

それでも挑戦の甲斐あり、PV2(BRAZIL)との交信をLoTWでConfirmedできました。2月初旬に室内LWアンテナを架設してから、約5か月強の週末運用で達成できました。早速、LoTWのQSO Detailの画面コピーをExcelリストに張り付けて、JARLに代行申請を依頼しました。

このコンテストでは、6大陸の中で唯一AFの局のみ確認できませんでした。もし、AFの局とも交信できていればOne-Day WACも可能でしたが、やはりAFとの交信には「僥倖」が必要なようです。

AN(南極)

7大陸目のANはWACの要件に入っていませんが、昭和基地の8J1RLとも何時か交信したいところです。室内LWアンテナの指向から鬼門と思っていたVK(Australia)との交信実績も少しづつ伸びて、南東部のVK3(Victoria州)まで届きました。次の目標は南東海上のVK7(Tasmania州)、そしてその次はいよいよANです。

8J1RLの信号を聞いたことはありませんが、他国の南極基地(Vostok?)の信号が入感したことはありました。当然、パイルになっており交信は出来ませんでしたが、可能性がゼロでないことは確認できました。

DX記念局との交信

前回、国内の記念局との交信について言及しましたが、DXにも記念局があります。室内LWアンテナx10Wで交信可能なDX局は主にコンテストステーションになりますが、DX記念局とも交信の機会がありました。

上記CT9ABV局と交信できた日はEU方面のパスが開けていたようです。CT9ABV局交信と前後して深夜早朝にEUの記念局と続け様に交信することができました。なお、交信成功以上に失敗(交信未達)の記録も重要なため、手書きログを残しています。

国内のように記念局専用のプリフィックスは無いのですが、一風変わったコールサインが目印(耳印)です。特に、コールサインに2文字以上連続する数字が含まれている場合は、国内記念局と同じく、記念行事の開催年や経過年数(周年)を表す記念局のコールサインの可能性があるようです。

DB23SOWG

QRZ.comを調べると以下の情報がありました。

Special Event Call operated by DARC Team SES

Special Olympics World Games 2023 in Berlin,  SDOK: SOWG23

https://www.qrz.com/db/DB23SOWG

ドイツのJARLに相当するDARC(The Deutscher Amateur Radio Club e.V.)の記念局のようです。「オリンピックはパリのはずでは・・・」と短絡的に考えながら調べると、「2023 年スペシャルオリンピックス夏季世界大会」が2023年6月13日~25日にベルリンで開催されていたことを知りました。

JARL記念局と同様にQSLカードはビューロー経由で送って頂けるようです。

II1ITR

コールサインに「I」が3文字も含まれており、高速打鍵では目(耳)が回りそうです。QRZ.comを調べると以下の情報がありました。

After being “ON AIR” in 2013 and 2018, the “Red Tent Team – II1ITR” maintains its own identity and continues over the years to keep alive the memories of 95 years ago event, which has proved how significant radio and radio amateurs are.

The Award is established on the occasion of the “95th Anniversary of the Red Tent”.

https://www.qrz.com/db/II1ITR

イタリアのTEAM - LA TENDA ROSSA(赤テントチーム?)が、ある出来事の95周年記念局を運用しているようですが、これだけでは詳細は不明です。95年前にradio amateursの重要性を証明した何があったのでしょうか?

簡単には検索できませんでしたが、wikipediaの「ウンベルト・ノビレ」のページに95年前の出来事の情報がありました。

1928年、ファシスト政権からの国家援助によって新たな飛行船を設計、完成した飛行船イタリア号で二度目の北極探検を計画する。

・・・

5月25日、「イタリア」号は北東島までわずか30kmを切った地点で海氷に墜落する (スヴァールバル諸島の東端)。

・・・

16名の隊員と共に北極点到達という大きな望みを持って出発したノビレだったが、しかし極点到達後の事故はいち早く世界中に配信され、北半球中の救助隊が動き始める。生存者たちは飛行船の無線機でSOSを発信、さらにアニリンでテントを赤く染めて目印とし、救助を待った。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%93%E3%83%AC

救助隊への目印となるように、アニリンでテントを赤く染めたことが「赤テント」の由来であることが分かりました。また、無線機でSOSを発信したことが墜落の一報につながったと推定されます。radio amateursの役割の記述はありませんでしたが、いち早くSOSを受信したのではないかと想像されます。

wikipediaの「イタリア (飛行船)」のページに、ロシアのアマチュア無線家の記述がありました。

 5月25日 - イタリア号、流氷上に墜落。#ビアージ通信士が無線機を掘り起こし、ラジオマストを立ててSOS送信を開始。
5月31日 - イタリア号生存者との無線の接触が中断。原因は気象状況に加え、無線監視の維持および定時送信の継続を怠った母船「#チッタ・ディ・ミラノ」号の怠慢であった。#マルムグレン、#マリアーノ、#ザッピの3名が救援を要請するため、徒歩で出発。
6月3日 - イタリア号のSOS信号を、ロシアのVokhma村のアマチュア無線家ニコライ・シュミットが傍受[7]。
6月5日 - ノルウェーパイロットが初めてイタリア号捜索飛行を実施。翌週にはノルウェースウェーデンフィンランド、ロシア、イタリアのパイロットも捜索救難飛行を開始。
6月8日 - 流氷上のイタリア号生存者とイタリア捜索隊の乗る#チッタ・ディ・ミラノの無線接触が確立。捜索活動継続。

・・・

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2_(%E9%A3%9B%E8%A1%8C%E8%88%B9)#CITEREFSolomon,_Cala-Lazar2008

引用地図の3回目の飛行経路(北極点到達⇒遭難)が、eQSLカード右中央下の地図と同じであることが分かります。

このeQSLはhamaward.cloudからダウンロードできました。WRTC 2022開催記念局のeQSL配信と同じ仕組みです。イタリアではhamaward.cloudが一般的なのでしょうか。なお、WRTC 2022開催記念局は1ポイントでもAward(参加賞)を発行してくれましたが、赤テント95周年記念局はAwardに30ポイント必要であり、1ポイントでは遠く届きませんでした。

一般的にeQSLが紙QSLに及ばない点として品質(解像度)を挙げることができますが、hamaward.cloudのeQSLは十分な品質を備えています。加えて、二次元バーコードによる交信証明機能も備えています。双方向のQSL交換システムではなく、1-Way配信システムだから成立しているものと思います。

95年前の飛行船「イタリア」号墜落事故は映画になっていました。

通販A社にレンタルアップの中古DVDが出品されていました。この記念局交信も何かの縁と思い、クリックしてしまいました。邦題名には「SOS」が付されていますが、果たしてロシアVokhma村のアマチュア無線家ニコライ・シュミットは登場するでしょうか・・・。

OL750HOL

プリフィックスの「OL」がサフィックスの末尾にも山びこのように再出現し、聞き間違い?を疑ってしまうコールサインでした。750 years Holysov town(ホリショフ市創立750周年)記念局でした。

プリフィックスの「OL」はチェコのエンティティを表し、サフィックスの「HOL」はHolysovの頭3文字を表しています。なお、Holysov市の公式HomeページではTownではなくCityとなっています。

www.mestoholysov.cz

750年前の1273 年は、日本では鎌倉時代中期で翌年が蒙古襲来です。調べてみると、ホリショフが言及された最初の下記文書が起源の根拠になっているようです。

ホリショフについて最初に文書で言及されたのは、1273 年の教皇グレゴリウス 10 世の証書です。

https://en.wikipedia.org/wiki/Hol%C3%BD%C5%A1ov

「証書」が何を指すのかまではwikipediaでは分かりませんでしたが、何らかの権益の証書ではないかと推測します。上記Holysov市の公式Homeページに具体的に説明してありました。

1273年5月23日、教皇グレゴリウス 10 世の特権が文書化され、チョテショフ修道院の全土地所有権の範囲が決定されました。

https://www.mestoholysov.cz/750-let-vzniku-mesta-holysova/ms-11930/p1=11930

その他DX局との交信

室内LWアンテナx10Wで交信可能なDX局は、主にコンテストステーション、次いでクラブ局が運用する記念局になります。その他にペディション局との交信例も若干ありますので、その例を最後に付け加えます。

4W6RU

RUDXT(Russian DXpedition Team)による東ティモール(Timor Leste)からのQRVです。東ティモールは「世界で最も若い独立国家の一つ」ということで、いつもUP指定のパイルになっていました。

室内LWアンテナx10Wの性能評価ということで、聞こえてきたら数回トライしてみるを繰り返していたところ、ある日15m CWでリターンコールがありました。

既に7万弱のQSO数に至っている模様で、パイルも小規模になっていたのかもしれません。7万QSOの一角に入ることができました。FT8のQSO数が多いようですが、CWのQSO数を知りたいところです。

V31XX

30m CWにV31XXのCQが聞こえてきました。HamlogにV31XXを入力するとBelizeと出てきますが、Vで始まるエンティティは世界中に遍在しているため、何処のエンティティなのか地理的位置は不詳でした。信号の強度から、東アジアかオセアニアかと思ってしまった次第です。UP指定なのでパイルになるエンティティということは分かりました。

VK9DX(Norfolk Is.)の時と状況は似ており、次々とピックアップされて行きますが、スコープ上にパイルの山は見えません。これは、ハイパワー局がまだ参加していない初期状態であることを示していると思います。

V31XXがどの周波数をピックアップしているか分からないため、適当(適切に当たりを付けての意)にSplit設定をして呼びます。すると、プリフィックスサフィックスの最初の「E」までコピーされ、再送要求がありました。「E-空白-J」作戦で再送したところ、無事にピックアップしてもらえました。RSTは579のリアル?レポートをもらいました。室内LWアンテナx10Wでも交信に必要な強度の電波は出ているようです。

その後にDXクラスターにアップされ、スコープ上にパイルの山が出来ました。こうなると599オーバのハイパワー局に埋もれて、室内LWアンテナx10Wでは交信不可になります。

さて、無事に交信が終了したためBelize学習タイムです。Belizeは思いも寄らず、メキシコの向こうのカリブ海に面した中南米の国でした。(WACではNAです。)

北米大陸を地表反射で横断してくると思われるのに、特有のQSBの無い聞き取りやすい信号でした。QSLカードの写真を見るとスーパーステーションであることが分かります。(QSLはダイレクトのみとのこと。Green Stampを探さねば。)

機会を捉えて相手の設備に助けられれば、室内LWアンテナx10WでもDX交信は可能であるというのが中間結論です。

このスーパーステーションは下記のお値段で売りに出されているようです。後継者が見つかると良いですね。

v31xx.com