非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

13TR-FT8トランシーバ (3)RX/TX電子スイッチ

RX/TX電子スイッチのLTspiceモデル

RFアナログ回路に不慣れなため、AUDIO TX(ATX)信号の混合器への入力経路が回路図上で判然としませんでした。ATX信号がつながるTrのQ1とQ2は、RX回路とTX回路にDC12Vを供給する各々の電源ラインを、ATX信号の有無に応じて切り換えるリレー制御の役割だけをしているようです。混合器につながっているのはAUDIO RX(ARX)信号のみであり、AUDIO TX(ATX)信号はつながっていないように見えます。

図面右上の離れたところにある電子スイッチを経由して、ATX信号がARX信号につながり、混合器に入力されていると推測しました。そこで、混合器に進む前に、まず電子スイッチの機能を回路シミュレーションで確認することにしました。

下記にLTspiceに入力したRX/TX電子スイッチの回路図を示します。

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RX/TX電子スイッチのLTspiceモデル
AUDIO信号

PCのヘッドフォン用出力の仕様は判然としませんが、高出力インピーダンスで信号電圧は0.05~0.5V程度との情報から、10.6mA振幅1KHzの正弦波電流源としました。13TR-FT8の入力抵抗R43(47Ω)に対して0.5Vの振幅を発生させます。

RX/TX電子スイッチのLTspiceシミュレーション結果

TXモード

送信時のシミュレーション結果を下記に示します。

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送信モード

0.5V振幅1KHzのAUDIO信号が、DC6V分圧点(eSW)を経由して、AUDIO TX(ATX)からAUDIO RX(ARX)にそのまま転送されていることが確認できました。

RXモード

受信時のLTspiceモデルとシミュレーション結果を下記に示します。

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受信モード

AUDIO TX(ATX)信号が入力されないと、電源ライン切換リレー制御により、TX用電源ラインは解放になるようです。電子スイッチR51はTX回路の他の素子を経由してGNDに落ちます。

分圧点(eSW)がGNDに落ちた結果、分圧点電圧V(esw)およびAUDIO RX(RTX)信号電圧は抑圧されます。AUDIO TX(ATX)からの仮想ノイズに対して、プラス側はほぼ遮断されています。マイナス側は約1/10に抑圧されています。ダイオードD8の極性から、マイナス側に約1/10のノイズが残る非対称性が生じると思われます。

TXモード限界探索

回路シミュレーションのメリットの1つは、仮想限界実験ができることと思います。例えば、ヘッドホン出力と間違えてライン出力をつないだ等による過大入力の仮想実験が簡単にできます。

AUDIO TX(ATX)信号の電流源振幅を約20倍の200mAにした時の結果を下記に示します。

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TXモード過大入力の検討

AUDIO TX(ATX)信号の電圧V(atx)の振幅は8Vを超えます。マイナス側はそのままAUDIO RX(ARX)に出力されますが、プラス側は6V弱で飽和します。分圧点電圧V(esw)の上限は、ダイオードD8の逆流阻止により電源電圧DC12Vになるからです。

よって、RX/TX電子スイッチから見たAUDIO TX(ATX)信号の上限は、入力抵抗に6Vを発生させる127mA、766mW(28.8dBm)になります。

 

13TR-FT8トランシーバ (2)局部発振器つづき

局部発振器(LO)のLTspiceシミュレーション検討つづき

LTspice回路図の変更

変更した回路図を下記に示します。

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局部発振器(LO)のLTspice入力回路図(変更)

前回報告内容から下記の変更を行いました。

  1. 混合器のトロイダルコア1次側を負荷として追加
  2. C46トリマーコンデンサの無効化

トロイダルコア1次側等価回路の素子値は、下記計算ページ(toroids.info)を利用して、FT37-43コア、7MHz、8 turns に対して計算した値を設定しました。

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混合器トロイダルコア1次側の等価回路素子値
電源ON(シミュレータ上の)

シミュレーションを10ms走らせた結果を下記に示します。電圧の測定点は回路図上の4点です。

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局部発振器のLTspsiceシミュレーション結果

C21によってAC成分のみ通過させ、約±4Vの局部発振で混合器のトロイアダルコア1次側を駆動していることが分かります。エミッターフォロワQ5により、負荷が変わっても発振振幅に変化がないことが分かります。発振顕在化の後の収束が早くなったように見えますが、発振波形が対称になったことによる幻覚でしょうか。

定常状態

定常状態に到達した10ms直前の発振波形を拡大した図を下記に示します。

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定常発振状態の拡大

インダクタンスが負荷に追加されましたが、波形の歪に特に変化はないようです。

発振周波数

LTspiceデータの計算サンプリング間隔を調べた結果を下記に示します。

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LTspice data

負の振幅で計算間隔が長く、正の振幅の肩部と頭頂部で計算間隔が短くなっている点に大きな変化はないようです。ただし、最大8倍以上あった計算間隔の変化は、7倍以下に少しだけ圧縮されています。

安定している低電圧側振幅の下降エッジで-2Vしきい値を通過する時刻をサンプリングしました。9~10msの間に振動は7,045回生じていました。正確な時刻間隔で割ると、周波数は7,044603109960562MHzになりました。C46トリマーコンデンサを無効にした結果、局部発振周波数が少し上昇しましたが、まだ水晶本来の7,074MHzより小さくなっています。水晶の等価回路の設定によるLTspiceモデルに課題があるかもしれません。

 

 

日本ラジオ博物館訪問

松本に立ち寄る予定がありました。

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夕刻の松本城

松本には、日本ラジオ博物館があります。

平日のため閉館しておりましたが、とりあえず門まで訪ねて、場所を確認してきました。車3台分の駐車スペースがありました。

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日本ラジオ博物館の外観

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準備中・・・

蔵が貴重なコレクションを守っています。またの機会を楽しみに今回は帰途につきました。

13TR-FT8トランシーバ (1)局部発振器

13TR-FT8 デジタルトランシーバ着荷

13TR-FT8 デジタルトランシーバ は、JL1KRA局OMが下記「CRkits共同購入プロジェクト」にて頒布されているFT8専用(海外DX用7,074MHz専用)のトランシーバ です。「アナログにデジタルを楽しみたい方、ブラックボックスの無い無線機が好きな方へ」という推薦文に共感して共同購入をお願いしました。海外DX用7,074MHzのみという仕様により13個のトランジスタ(2N4401のみ)で安価なキットを実現するとともに、製作後の運用もチャレンジを鼓舞されるキットです。

機械加工環境のない非職業的技師には加工済みのケースが付いているのがありがたいです。「ブラックボックスの無い」利点を生かすために、一気呵成ではなく機能を学びながら、膨大な数のディスクリート部品を組付けていきたいと思います。

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頒布内容

まずマクロな視点を得るために、回路図(http://jl1kra.sakura.ne.jp/13TR-T4D%2040m%20SSB.pdf)から機能モジュールを読み取ります。TXとRXで共用されている水晶フィルタや混合器等のモジュールでは、両者で信号の流れが逆になることに注意しつつ、まずTXの機能モジュールを考えると下記のような構成になっているのではないかと思いました。

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全回路とLO部

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全回路とLO部(Ver. 2)

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全回路とLO部(Ver. 3)

最初に左下点線枠内の局部発振器(LO)から学びたいと思います。組付けてしまうと試行錯誤が簡単にはできなくなってしまうため、LTspice回路シミュレータで事前調査を行い、組立途中の測定ポイントを検討したいと思います。

 

トランジスタ技術2021年10月号

横道にそれますが、トランジスタ技術2021年10月号の特集は「無償PSpiceLTspice 回路動作フル解析ツール」でした。以前、LPFの設計検討にLTspiceを使いましたが見様見真似でしたので、使い方を見直してみたいと思い購入しました。GUIPSpice for TIの黒基調の方が私の好みですが,directive(指示命令)を回路図に書いていくLTspiceの使い勝手も捨て難いという感想です。

局部発振器(LO)のLTspiceシミュレーション検討

回路図

LTspiceに入力した局部発振器(LO)の回路図を下記に示します。

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局部発振器(LO)のLTspice入力回路図

コルピッツ型発振回路ですね。水晶発振器をベースとGNDの間に接続し、GNDとの間にトリマーコンデンサを入れて周波数調整を可能にしています。周波数調整環境は必要になるようです。非職業的技師は下記経験を生かして、30Hz程度のRBWで測定できそうなUSBドングル型SDR(SDRplay)を用いた近接界アンテナ方式の適用を検討する予定です。

発振回路はエミッタフォロワ(エミッタ電圧がベース電圧に追従)のトランジスタが2段接続になっているようです。エミッタフォロワは入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低くなるということですので、混合器から発振回路への影響を緩衝するための構成でしょうか。

要のトランジスタ(2N4401)のモデルはLTspiceに標準で備わっていました。別途モデルを準備する必要があるのは、電源接続間違い防止用のダイオードD7(1N4007)と水晶発振器X5です。
ダイオードD7(1N4007)のモデルはメーカ(onsemi)の下記ホームページからPSpice用のモデルファイルを入手しました。

まず、LTspiceのライブラリに組み込もうと試行錯誤をしましたが、上手く行きませんでした。そこで、回路図と同じディレクトリにモデルファイルを置いて、".lib"指示命令(directive)でLTspiceに認識させる方法で対応しました。モデルファイル(1N4007.REV0.LIB)はテキストファイルのため、Text Editorで中を調べることができます。モデル名"D1n4007"を確認し、回路図のダイオードの名前をこのモデル名にします。これで、".lib"指示命令で取り込んだモデルとリンクされます。

水晶発振器X5は等価回路の5つの素子値(Ls、Cs、Rs、Cp)を設定します。添え字の"s"は直列素子を表し、"p"は並列素子を表します。X5には変数名を設定して、変数値は".param"指示命令で回路図上に置きます。
ところが、7,074MHzの水晶の等価回路素子値は探しても見つかりません。そこで、見つかった8MHz水晶の等価回路素子値をベースにして、7,074MHzを発振するように逆算して"Ls"を調整しました。具体的には、直列発振周波数と並列発振周波数の中間が7,074MHzになるように追い込みました。正しい方法かどうかは自信がありません。
後はC46のトリマーコンデンサで調整することになると思います。こちらも変数名"Ct"を設定して、変数値は".param"指示命令で回路図上に設定することにし、暫定として半値の25pFを置きました。

電源ON(シミュレータ上の)

シミュレーションを10ms走らせた結果を下記に示します。電圧の測定点は回路図上の4点です。

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局部発振器のLTspsiceシミュレーション結果

この回路モデルが正しいと仮定して、気づきは以下の通りです。

  1. R9の電圧降下0.82Vから消費電流は17.5mA(= 0.82V / 47Ω)。
    回路が動作しなかった場合のチェックの指針です。

  2. Q4のエミッタ電圧に対して後段のQ5は約1V低い。
    トランジスタ2N4401のデータシート記載のVBE("Base−Emitter Saturation Voltage")が0.75~0.95Vdcであることを反映している。エミッタフォロワなので電圧差はVBEで決まる。

  3. 発振の電圧Peak-to-Peakは約8V(1~9V)。
    電圧変化のダイナミックレンジは思ったより広く使っている印象です。

  4. マクロ的に顕在化した発振開始までに3ms(3/1000秒)弱を要する。
    ミクロ的な発振は電源ONをトリガーとして始まっていると思うのですが、ビッグバンのようにインフレーションして顕在化するまでに時間がかかるという印象です。実際は一瞬ですから、コンデンサチャージの時定数等を考えればこうなるのかもしれません。シミュレーションとしては待ちがもどかしいですね。

  5. 発振が定常状態に到達するまでに10msを要する。
    高電圧側の振幅はすぐに定常状態に到達するのに対して、低電圧側の振幅が定常状態に到達するのに時間を要します。この非対称はどこから来るのでしょうか。高電圧側の振幅が定常状態に到達した時点でコレクタ電圧(赤V(n003))がドロップし、その後にゆっくりと回復していきます。この回復時定数と、低電圧側の振幅が定常状態に到達するまでの時定数が同じに見えます。やはり、コンデンサチャージの時定数でしょうか。

定常状態

定常状態に到達した10ms直前の発振波形を拡大した図を下記に示します。

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定常発振状態の拡大

気付きは以下の通りです。

  1. LTspiceのTD計測機能を使った周波数測定結果は7,035MHz。
    C46トリマの影響を検討する必要もありますが、micro秒を測って発振周期を割り出す方法はシミュレーション計算点分解能から見ても精度が足りていないと思われます。今回は".meas"指示命令を利用して、9.9980ms以降に7Vになった最初の立ち上げ時刻と10msまでの間の最後の立ち上げ時刻を計測し、その2usの間に14回振動していることから周波数を7.035MHz(= 14 / (0.01 - 0.00999801))と計算しました。右拡大図から、最後に7Vになった時刻は明らかに0.01秒ではないため、測定精度が出ていません。

  2. 正弦波振動ではない。
    Q4のエミッタ電圧に対して後段のQ5は、立下りよりも立ち上がりの方が位相が遅れ、非対称です。立ち上がりの時定数も大きいように見えます。この非線形非対称はどこから来るのでしょうか。
    この時、コレクタ電圧が少しドロップしています。Q4が立ち上がりでコンデンサの電力を消費したために、Q5の立ち上がりに回る電力供給が遅れたという感じでしょうか。立下りは電力供給が関係しないため遅れが発生せず、綺麗な正弦波になっているという推測の是非は。

水晶発振器は綺麗な正弦波になるという思い込みがありましたが、そうではないかもしれないとLTspiceが気付かせてくれました。実際に回路を組んで確認しないと是非は分かりませんが、今までは実回路の波形が歪むとプローブ等の責任にしていました。ミキサ自体はON/OFF波形で動作させる例もあるため、波形の歪自体は問題にならないと思われます。発振周波数の確認は重要です。

発振周波数

LTspiceの測定機能で周波数を高精度に測定する方法が分からなかったため、計算データをExportしてプログラム(python)で処理することにしました。上記チャートの4項目をファイル出力すると、266万行(208MByte)になりました。ファイルを開くだけで大変です。10msの中の定常状態に到達した最後の1msだけ抜き出すと、38万行(30MByte)に縮小しました。

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LTspice data

最初はFFTで発振周波数を求めるつもりだったため、データのサンプリング間隔を調べました。上図の下段に各データ点のサンプリング間隔を示します。横軸はデータ点カウントであり、時間ではないことに注意する必要があります。

回路計算のサンプリング間隔は約8倍以上変動することが分かりました。挙動が安定している箇所は疎らに、不安定な箇所は密に計算しているようです。上段のエミッタ電圧と比較すると、低電圧領域では計算間隔が長くデータ点が疎らで、昇圧するにつれて計算間隔が短くなり、前段のQ4の電圧がピークに到達した箇所で稠密になった後は一息ついて、Q4の電圧が下降を開始する時にまた稠密になることを繰り返しています。やはり、高電圧側振幅のところで複雑な計算が必要な現象が生じているようです。

FFTが使えないので、安定している低電圧側振幅の下降エッジで2Vしきい値を通過する時刻をサンプリングしました。9~10msの間に振動は7,032回生じていました。正確な時刻間隔で割ると、周波数は7.03197730956062MHzになりました。前記のLTspice測定機能で求めた7,035MHzと同様に水晶の7,074MHzより小さくなっています。C46トリマーコンデンサ(25pF)があると、発振周波数は小さくなると推測されます。(訂正1) 理想状態を扱っているため、C46は無効にすべきかもしれません。

訂正

訂正(2021/10/10)
  1. C46トリマーコンデンサの値を変更したシミュレーション結果によると、C46の容量を大きくすると発振周波数は大きくなるようです。
  2. 「全回路とLO部」の回路図に示した機能解釈を修正し、Ver.2としました。
    「AF増幅器」を上に移し、以前の「AF増幅器」を「Tx/Rx電源切換器」に変更しました。
    Tx時にのみTxAF信号ラインからSBMへの信号ラインを活性化する「Tx信号活性化器
    」を追加しました。
訂正(2021/12/31)
  1. 組み立てを完了し、回路図を読解した最終結論として「全回路とLO部」の回路図に示したトランジスやダイオードの機能解釈を修正しVer.3としました。
    全ての素子の機能を考察しました。水晶フィルタと混合器の間のトランジスタはTXもRXも「緩衝増幅器」とし、水晶フィルタの右のアンテナ側のトランジスタは「RF増幅器」としました。ただし、「増幅」というより「インピーダンス整合」が主たる役割かもしれません。
  2. 回路図のLPFを「LPF改」として第二高調波トラップ用のコンデンサ129pFを追記しました。ただし、未熟な組立スキルが反映された弊局組立個体特性に合わせたチューニング結果であり、動作を保証するものではありません。

Teensy(2)開発環境の構築

PJRC社の下記 Tutorial ページに従って開発環境を構築したいと思います。

Teensy Loaderのインストール(スキップ!)

Teensy の MCU チップ(i.MX RT1064)に、USB 経由でプログラムを書き込むための PC 側の Loader をインストールします。主要 OS(MacUbuntuWindows)の Loader が準備されています。

USB 規格が無かった時代は専用のライタが必要で、チップをボードから外してライタに取り付けて書き込んでいました。プログラムの消去は紫外線でした。紫外線のエネルギーでメモリにトラップした電子を追い出していたのです。紫外線ランプの劣化管理が大変でした。と、昔を思い出すと便利な時代になったものです。個人が SDR を楽しむ環境は整ってきたと言えのではないでしょうか。

インストールページに飛ぶと、「Update: Teensy LC & 3.x are supported by Teensyduino. 」と書いてあります。どうやら、Atmel の MCU を搭載する Teensy 2.0 以前と、NXP の MCU を搭載する以後とでは Loader が異なるということのようです。Webページの Update がボードの開発とナンバーリングに追い付いていませんが、Teensy 4.x も同じと思われます。ということでスキップします。

Arduinoのインストール

Tutorial を順番に実行すれば良いという訳ではありません。重要な情報は後から出てくることがあります。Arduino インストールの後に、Teensy サポート機能を付加するTeensyduino をインストールするのですが、その Teensyduino インストールに下記の制限事項がありました。

  • Teensyduino 1.54 supports Arduino versions 1.8.5 and 1.8.9 and 1.8.12 and 1.8.13 and 1.8.14 and 1.8.15.
  • Future versions of Teensyduino will drop support for Arduino 1.8.14.
  • On Windows, the Arduino installer and ZIP are supported, but the Windows store "app" is not.

Arduino のバージョンは現時点最新の 1.8.15 とするのが良さそうです。Windows の場合、インストール方法の選択肢は3つありますが、 incompatible と言及のある Windows store "app" は選ばないで、installer か ZIP を選ぶ必要があるようです。セキュリティ強化を図る Windows 11 の動向を見るに、Windows store "app" はセキュリティ管理の仕組みが厳しく(それは良いことですが)、後付けで Teensyduino をインストールできないのではないかと想像しています。非職業的技師は既に Windows store "app" の Arduino をインストール済みでしたので、まず "app" 起源の Arduino のアンインストールが必要でした。

installer である arduino-1.8.15-windows.exe(現時点)をダウンロードして実行します。非職業的技師は個人的に、インストール先の指定にスペースの入った Windows 方言のディレクトリ名は避けるようにしています。最近は改善してきてはいますが、Linux 起源の開発用ソフトが Windows 方言をサポートしている保証がないからです。

Teensyduinoのインストール

Windows 用のインストーラは1つしかありませんので迷うことはありません。
TeensyduinoInstall.exe(現時点)をダウンロードして実行します。Explore 上のファイル名が長い間「未確認・・・」になっていました。Antivirus が入念にチェックしたのでしょうか? 

インストール中に、USB serial driver を見つけた旨の表示が出ます。その後に、上記 Arduino のインストールディレクトリを指示すればインストール可能になります。

 Tutorial ページに戻ると、「Windows Serial Installerを実行せよ」とありますが、先の表示と矛盾する気がするため、とりあえずペンディングとします。Windows 10 は driver のハンドリングが進化していると思うのです。

Start Arduino & Choose The Board

Arduino 起動後に、無事に Teensy 4.1 を選択できました。最初の例題である LED Blink Example を試します。

LED Blink Example は、 Tutorial ページの指示する場所とは異なり、下記の File -> Examples -> Teensy -> Tutorial1 -> Blink にありました。

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Blink の場所
Edit pin number

コードのコメントには Teensy 3.x までの LED のピン番号が書いてあり、ボード選択に合わせてコードを修正する指示があります。Teensy 4.1 のピン番号のコメントへの記入は間に合っていないようです。回路図およびピンアサイン図でダブルチェックすると、13ピンであることが分かりました。Teensy 3.x と互換性を確保しているようです。

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Teensy 4.1 の LED のピン番号 = 13
Compile and Download

コンパイル後に、最初にインストールをスキップした Loader が自動的に起動しました。スキップで正解でした。

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Loader の起動

Teensy Board を PC に USB 接続すると、即座に LED が1秒間隔で点滅を始めます。出荷時に、テスト用の Blink プログラムが MCU に書き込んであるからです。

そこで、点滅周期を書き換えてテストを繰り返しました。Arduino の Upload アイコン(⇒)をクリックすると、USB コネクタ近傍にある赤色の別の LED が一瞬点灯して書き込みが終了します。その後に、MCU チップ横のオレンジ色の LED の点滅周期が設定したとおりに変わりました。

Coding -> Compile -> Load -> Start の Debug サイクルを簡単高速に回せそうなことを確認できました。

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Blink 確認

Teensy (1)着荷

Home-brew SDR 検討用に発注した Teensy® 4.1 Development Board 他オプションパーツ一式が着荷しました。

発注先の選択肢は、PJRC社(開発元)、米国の正式代理店、日本のパーツショップ等がありますが、今回は小物のオプションパーツも合わせて注文するため、PJRC社に発注しました。

開発元に発注するメリットはオプションの品揃えがあることに加えて、価格が安い点をあげられますが、送料が落とし穴になります。追跡サービスのない Air Mail の送料は $22.33 でしたが、追跡・迅速通関・保証等のサービスが付く海外配送大手の Expedited Shipping では $90 を超えます。本体より高くなってしまいます。注文ページに「 $200 を超えたら Expedited Shipping を推奨する」とありましたが、超えていないので迷わず Air Mail を選択しました。QCX 購入の時も一番安い配送方法を選択して、特に(たまたま?)問題はなかったので。しかし、こればかりは個人責任になり、行方不明になったら泣き寝入りです。

今回も問題なく着荷しました。「 COVID-19 で Air Mail は著しく遅延している。航空便で1~2週間、通関で遅れると4週間」と発送通知メールに書いてあり、少し後悔しましたが、実績は注文日 8/23 に対して着荷日は 9/2 でリードタイムは 11日、2週間は要しませんでした。米国および日本の郵政は優秀で、税関も電子部品個人輸入の通関を効率的に処理してくれたようです。

Air Mail に追跡サービスは付いてないけど、国によっては追跡サービスの提供がある」と発送通知メールに書いてありました。Air Mail は日本に着くと「国際eパケットライト」という商品になり、追跡バーコードの付いたシールを箱の裏に貼られるようです。

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Air Mail 外観

PJRC社が発行した税関申告書の通知番号を、日本郵政の追跡サービスページ(下記)に入力したら追跡できました。

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発注・発送のメール送受信時刻と追跡結果

USA の追跡ポイントは現地西海岸の時間ですので、時差分の16時間を進めて日本時間に変換して考える必要があります。オレゴン州ポートランドの PJRC社から、 USPS(United States Postal Service)のロサンゼルス Sorting center である USLAXA に「引受」になるまでに随分と時間がかかっています。米国内貨物便の飛行機で輸送されている時間と思われます。そこまでは追跡できないということですね。このあたりの時間が配送大手でどう変わるか比較したいものです。通関処理時間はちょうど1日なので変わらないと思います。

下記が開封した様子です。きれいに梱包されていました。Teensy Board はネームの付いた専用の静電防止袋に入っていました。"Assembled in USA"が誇らしげです。

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開封

蛇足ですが、Teensy 4.1 の MCU はオランダの NXP 社製ですが、i.MX シリーズ MCU は元々は米国 Freescale Semiconductor 社の製品でした。半導体メーカは栄枯盛衰が激しいのですが、Freescale Semiconductor 社の前身は Motorola 社の半導体部門です。 懐かしい MC6800 のメーカですね。

RT(Real Time?)が付く i.MX RT series はメモリ階層に特徴があります。
https://www.nxp.com/docs/en/application-note/AN12437.pdf
Flash を捨てて高速大容量の SRAM を集積しています。Teensy 4.1 の MCU は2種類の SRAM を計 1 Mbyte 集積します。プログラムを永続的に格納する FlashMCU の外に 8 Mbyte を搭載します。Teensy 4.1 Board で組込 MCU システムとして完結します。

MCU コアは 600MHz、バスは 132MHz で動きます。大容量 SRAM の半分の 512Kbyte は、超高速の 64bit 幅 600MHz でアクセス可能です。他の半分は DMA によるコア外部とのアクセスのため、バスと同じ 64bit 幅 132MHz でアクセス可能です。シリアル Flash は 4bit 幅 133MHz 動作です。

大容量超高速の SRAM の使いこなしがポイントですが、コンパイラが自動的に優先割付を管理してくれそうなので、アロケーション指定で悩む必要はなさそうです。DSP extension instructions と超高速の SRAM の組み合わせで DSP 演算機能は整うため、SDR の大規模な畳み込み演算を無配慮で実装しても、キャッシュの偶発的ヒットミスによるサンプリングタイムのオーバには悩まなくて済みそうです。

他に、Teensy 4.1 は MKL02 という Cortex-M0+ のチップを搭載しています。このチップに bootloader のプログラムが格納され、セキュリティ管理されているようです。このチップの単体販売によって、Teensy 4.1 開発ボードを毎回使わなくても、ユーザが専用に起こしたボードで Teensy システムを構築することが可能になります。逆に、流通を管理することで、模造品が出回ることを阻止しているようです。知財管理の上手い方法の1つと思います。

 

20m QCX-miniのLPF改良(2)CWAZフィルタの設計

 20m QCX-mini の LPF の改良設計

前回のスプリアス測定によって、20m QCX-mini の元祖 LPF はスプリアス規格(スプリアス領域における不要発射の強度の許容値;50mW 以下であり、かつ、基本周波数の尖頭電力より 50dB 低い値)を満足することが判明しました。

実は USB オシロFFT 機能によって、スプリアス規格を満足しないのではないかとの予備評価結果が得られていたため、CWAZ フィルタへの改良設計に着手していました。実際に改良を適用するかどうかは未定ですが、LTspice に基づく設計結果を忘れないようにまとめておきます。

CWAZ LPF

W3NQN局 Ed Wetherhold さんが QST 誌の解説 "Second-Harmonic-Optimized Low-Pass Filters"(https://www.arrl.org/files/file/Technology/tis/info/pdf/9902044.pdf)で提案している  CWAZ(Chebyshev with Added Zero)LPF の素子値と LTspice によるシミュレーション結果を下記に示します。

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20m CWAZ LPF の特性

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20m QCX-mini の元祖 LPF と CWAZ LPF の比較

第二高調波(28MHz)の抑圧能力は、元祖 LPF の 47.7dBc から 60.6dBc に向上しています。通過域が伸びた結果、リップルが右に移動し、14MHz における通過損失は消滅しています。

個人的には、29.8MHz の共振周波数(トラップ周波数)は高すぎるように思います。第二高調波の左に持ってきた方が、素子値のばらつきに対してロバスト(頑健)な設計になると考えます。

フィルタの構成としては、コンデンサC5を追加すれば CWAZ LPF になります。しかし、7個の素子の値は元祖 LPF とは全て異なり、CWAZ LPF に換装するためには7個の素子も入れ替える必要があります。これは手間がかかるだけでなく、C1の変更はE級ファイナルへの干渉が生じる可能性があります。

そこで、元祖 LPF の変更を最小にする、特にC1を変更しない改良設計を検討しました。

改良版1のLPF

 まず、元祖 LPF に第二高調波共振用(トラップ用)の C5 のみ追加したシミュレーション結果を下記に示します。元祖 LPF の L2 = 0.87μH に合わせて 29.7MHz で共振する C5 の値は 33pF になります。

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改良版1の 20m CWAZ LPF の特性

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改良版1の 20m CWAZ LPF の比較

第二高調波(28MHz)の抑圧能力は向上しましたが、通過域が大幅に減ってしまいました。素子値が少しばらつけば、大幅な通過損失が発生する可能性があります。

改良版2のLPF

 L2 を CWAZ LPF が提案する 0.608μH に変更しました。C5 も 47pF に戻しました。

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改良版2の 20m CWAZ LPF の特性

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改良版2の 20m CWAZ LPF の比較

第二高調波(28MHz)の抑圧能力は確保したまま、通過域を 16MHz まで拡大することができました。しかし、リップルのため 14MHz で -1.9dB の通過損失が生じてしまいました。

改良版3のLPF

 L1 と L3 も CWAZ LPF が提案する 0.67μH に変更しました。

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改良版3の 20m CWAZ LPF の特性

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改良版3の 20m CWAZ LPF の比較

第二高調波(28MHz)の抑圧能力は確保したまま、通過域のリップルを低減し、14MHz で 0.1dB としました。これは CWAZ LPF と同じ値です。3つのLの値は CWAZ LPF が提案する値と同じにする必要があることが分かりました。C1 から C4 の値は CWAZ LPF が提案する値ではなく、仮称「元祖 LPF 」の値のままです。E級ファイナルには干渉しない予定です。

改良版4のLPF

前記の通り、CWAZ LPF は 29.8MHz の共振周波数で設計されていますが、非職業的技師は共振周波数を第二高調波(28MHz)より小さくした方がロバスト(頑健)であると考えます。そこで、C5 を 56pF に換装して共振周波数を 27.3MHz にしました。

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改良版4の 20m CWAZ LPF の特性

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改良版4の 20m CWAZ LPF の比較

第二高調波(28MHz)の抑圧能力は-70dBcに拡大、通過域は縮小しましたが損失は発生せず 14MHz で 0.8dB となりました。

次はロバスト性を評価します。QCX-mini の狭隘スペースに追加実装する C5 は、ムラタの一般用チップ積層セラミックコンデンサGRM21A5C2E560JW01(温度特性 C0G、定格電圧 250Vdc、静電容量 56pF ±5%)の使用を想定しています。
(改良版4p)C5 = 58.8pF(+5%)、(改良版4m)C5 = 53.2pF(-5%)のばらつき両端の特性を調べました。

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(改良版4p)+5%ばらつきのC5を持つ20m CWAZ LPF の特性

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(改良版4m)-5%ばらつきのC5を持つ20m CWAZ LPF の特性

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改良版4の 20m CWAZ LPF のC5の±5%ロバスト性の比較

何れの場合も、第二高調波(28MHz)の抑圧能力と通過域の損失は問題ありません。(2)改良版4mの時に共振周波数は 28.0MHz となり、第二高調波の抑圧能力は計算上 -93.9dBc に達します。

T37-6 コアの L2 を 0.87μH から 0.608μH に換装するためには、現行の 17 ターンを 14 ターンに減らします。同じ T37-6 コアの L1 あるいは L3 を 0.77μH から 0.67μH に換装するためには、現行の 16 ターンを 15 ターンに減らします。何れも減らす方向なので、コアを取り外して巻き線を詰めれば良く、改良の工数は最少で済みそうです。

非職業的技師が組み立てた 20m QCX-mini の個体は、元祖 LPF のままでスプリアス規格を満足することが判明しているため、改良を適用するかどうかは未定です。