非職業的技師の覚え書き

JK1EJPの技術的検討事項を中心に記録を残します。

AFP-FSK Transceiver(9)TCXOへの換装

ノーマルXOでは毎回の起動時に数分の暖機運転が必要になるため、キャリブレーション作業に進む前に、オプションのTCXO(温度補償型水晶発振器)に換装することにしました。AFP-FSK TransceiverのPCBには配線パターンが用意されています。

TCXOの調達

Digikeyの部品番号 XC2070CT-NDのTCXOが指定されていましたが、在庫はゼロでした。代替品を探し、周波数(25.0000MHz)、サイズ(5.0 x 3.2mm)、電圧(3.3V)、精度(1-3ppm)等が適合するFOX924 SERIES(FT5HNBPK25.0-T1)を調達しました。(これも今見ると在庫ゼロになっています。どうなっているんでしょう・・・?)

Small TCXO in a large anti-static bag.

送料の比率を減じるため、他の部品と抱き合わせで発注しました。大きな静電防止袋の中に小さなTCXOが1つだけ入っていました。Digikeyの梱包では、デバイスは全て大き目の静電防止袋に個別に入れられて来ます。コネクタ類等はビニールチャック袋です。大は小を兼ねる規格の袋に規格の個別伝票を張り付けてシステマッチックにピッキングして行く方法が最も効率が良いためと思われます。

Digikeyの配送はFedExになり、国内に在庫拠点があるのではないかと疑われるほどの速さでミネソタ州から届きました。住所もPayPal登録住所から1文字の違いもありません。ITを使えばそうなりますよね。前に報告したUSPSとのロジ品質の差には愕然とします。USPSの輸送中紛失が多いため、米国のベンダの中には海外発送を取りやめるところも出てきているようです。海外調達は円安とロジ障壁のダブルパンチですね。

しかし公平を期せば、FedExが優秀なのであって、USPSだけに問題が生じている訳ではないことが分かりました。最近、EU(オランダ)にエンコーダ部品を発注しましたが、こちらも一度「RETURN IN TRANSIT」(発送国に返送)になり、もうだめかと諦めかけたところ再輸出になり、半月の予定が1.5か月ほどもかかって到着しました。海外サイトのトラッキング日本郵便のトラッキングを併用して追跡していたため、日本に到着する前に「RETURN IN TRANSIT」になったことを確認しています。最初は一体どこに発送したのでしょうか・・・?

閑話休題。TCXOとMS5351Mの間に挿入する100nFのコンデンサの追加も必要です。こちらは2012サイズのSMDを秋月から調達しました。マニュアルでは50VDC MLCCとわざわざ指定されていますが、3.3Vの回路に耐圧50VDCの指定は必要なのでしょうか?

TCXOのドライブ能力

コンデンサの耐圧よりも、TCXOの仕様の1つであるOutput Load 15pF Max.が気になりました。この仕様は、コンデンサ100nFの反対側のMS5351Mの端子がそれ以上の容量を持っていると、TCXOからドライブできないという制限になっているようです。蓄電してHレベルになる前に次のサイクルで放電してLレベルになってしまうということかと思います。この端子容量15pFから見ればコンデンサの100nFはAC的に直結しているのと同等と見做して良いと思われます。

MS5351Mのデータシートは不明ですが、Si5351A/B/C-Bの48ページに及ぶドキュメントにはCrystal Requirementsが規定されています。Crystalに要求するOutput Load Capacitanceは6~12pFになっています。TCXOに15pFのドライブ能力があれば問題ないと思ったのですが、Si5351側に下限上限があるということは、大き過ぎてもリンギング等の問題があるということでしょうか。PCBの寄生容量を期待?して、15pFで良しとしました。MS5351Mのセカンドソースとしての再現性は未知ですが、Si5351と同様の半導体プロセスで作られていて同様の電気的特性を持っていると信じることにします。

ドキュメントをさらに読み進めると、Si5351は内部負荷容量を0、6、8、or 10 pFの間で選択可能になっていました。わざわざ容量切替に回路を割り付けているということは、PLLシンセサイザにとってCrystal RequirementsのOutput Load Capacitanceが重要な要求仕様になっていることが分かります。

AFP-FSK TransceiverのSi5351初期化関数の中に、内部負荷容量の設定箇所がちゃんと下記の通り存在していました。

#define SI5351BX_XTALPF 3               // 1:6pf  2:8pf  3:10pf
i2cWrite(183, SI5351BX_XTALPF<<6 | 0x12);   // Set 25MHz crystal load capacitance

最大の10pFに設定しているようです。CrystalとMS5351Mの距離が近いPCB設計になっているためと思われます。当局はCrystalの実装をソケット方式にしたため、この内部負荷容量の設定に影響する可能性があったことを今更ながら気付きました。25MHzの波形を見ることができるオシロは持っていないため、トラブルが起きていたら原因究明は困難だったろうと思います。

なお、Si5351の出力側のClock信号のドライブ能力も15pFです。終段FETをドライブする74AC02のInput Capacitanceは4.5pFなので、コネクタ経由で配線パターンを引き回しても大丈夫ということなのかもしれません。逆に小さ過ぎてリンギングの原因になっているかもしれません。

TCXOへの換装

ノーマルXOをソケットから抜き、TCXOと100nFをVFO基板の裏面に実装します。100nFはスルーホールの2つの穴の上にはんだ付けしました。ちょうど良い塩梅の穴間隔でした。

TCXO and 100nF capacitor mounted on the back of the VFO board.

TCXOは4隅の裏面電極をはんだ付けするのですが、裏面がはんだで濡れたかどうかが良く分かりません。4隅のエッジにも細く電極が顔を覗かせているため、エッジがはんだで濡れていれば良いものとしました。上からはんだを見ると、エッジに向かって表面張力の模様が走っているような気がします。幻影かな?

Soldering of the electrodes at the four corners of the TCXO.

TCXO換装後の試験

測定結果

前回行った「帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の測定」と同じ測定を実施しました。クロック出力を確認できましたので、ハンダ付けに問題は無かったようです。

7.074MHz oscillation by PLL synthesizer with TCXO as external reference source.

AFP-FSK Transceiverの強制出力ピンに係わるコードを調べたところ、VFO設定値で励振するようになっていました。この試験でのVFO設定値は7,074,000Hzです。ノーマルXOを外部基準発信源とした前回は、960Hz乖離した7,074,960Hzで発振していました。TCXOに換装した今回は、-752Hz乖離した7,073,248Hzとなり、キャリブレーションが必要な方向が逆になりました。

コード修正の要否

AFP-FSK Transceiverのコードには、下記の通り、最初から2.7kHzの補正が施されていました。

#define SI5351BX_XTAL 25002700

TCXOに換装した場合は、ノミナル値からのずれを想定しない下記25,000,000Hzの設定に変更するように指示があります。

#define SI5351BX_XTAL 25000000

しかし、逆方向に振れたということは、2.7kHz+αのキャリブレーションが必要なことを表しています。今回のTCXOに対してはコードの修正は必要ないようです。

50Hzノイズ

スペクトルを拡大したところ、前回観測された発振周波数両側50Hzのノイズを今回は観測できませんでした。

The oscillation frequency neighborhood where 50 Hz noise is not observed on both sides.

今回、ケーブルの脱着によってケーブル類の重なり具合が変わったため、電源ノイズの回り込みに変化があったものと推定しています。

AFP-FSK Transceiver(8)出力試験

AFP-FSK Transceiverの送信電力およびスプリアスの測定を行いました。

送信電力の測定

送信電力の事前予測

事前のLTspiceシミュレーションでは1.9Wと予測されていました。

しかし、マニュアルには13.8V電源で5W超になると書かれています。終段FET(BS170 ×3)の放熱の仕掛けがないため、5Wを大きく超過する場合はLPF1段目のL3コイルの巻線の粗密を故意にアンバランスにして出力をダウングレードするように指示まであります。普通に作っても約5Wは達成できるようです。

送信電力の測定結果

まず、以下の系統で送信電力を測定しました。AFP-FSK Transceiverには強制送信テストピンがあり、これをGNDに落としたことをATMEGA328Pが検出すると送信モードに切り替わります。WSJT-X と接続していなくても、AFP-FSK Transceiver単体で送信テストが可能です。

Measurement system diagram of transmitted power.

送信電力の測定は2つの方法で行いました。1つ目はDMM(Kaiweets)によるピーク電圧の測定です。ダミーロード(QRP Labs)付属の整流回路のコンデンサの電圧を測定しました。予め測定してある整流回路のダイオードの順方向電圧0.61Vも考慮しました。

2つ目は、オシロスコープによる電圧波形の測定です。オシロスコープにはUSBオシロのAnalogDiscovery2(Digilent)を使用しました。電圧の基準は内蔵されている高精度抵抗です。サンプリング周波数100MHzは7MHzのRF信号の波形測定には役不足のため、タイミングをずらしたサンプリングを複数回行って重畳描画するOvers機能を使用しました。

Photograph showing the measurement of transmitted power.

DC電源を12Vと13.8Vとした場合の送信電力の測定結果、および送信電圧波形は以下となりました。DMMとオシロでは14%程度の差が生じました。マザー測定器が無く校正していないため、どちらも高精度な測定方法という訳ではありません。「このぐらいの範囲にある」との結論になります。

Waveform of dummy load applied voltage.

いずれにせよ、13.8V電源では5W超の出力となり、LTspiceシミュレーション予測よりもマニュアルが正しかったことが判明しました。L3の巻線の状態を写真で拡大すると、均等な粗密になっていないことが分かります。BS170 ×3並列から無調整で5Wを絞り出せるということは、再現性の高い設計になっているようです。

QRP LabsのQCXは基板に放熱する実装方式を採用していますが、AFP-FSK Transceiverは自然空冷です。放熱の仕掛けがないためか、連続送信をしていると僅かずつですが送信電圧が減少して行きます。こういった出力の経時減少トレンドは他のQRPトランシーバにも見られたため、AFP-FSK Transceiverに特別な現象ではありません。放熱の仕掛けがない以上、L3巻線の最適化による出力アップは不要と判断しました。QRPはDC電源で調整できます。

E級増幅スイッチングタイミングの測定

なぜ、LTspiceシミュレーションの出力予測値が1.9Wに大きく乖離したのでしょうか。

  1. シミュレーションモデルに乖離があった、
  2. 実回路の考慮できていない寄生パラメータによってE級増幅のスイッチングタイミングがずれた、

等の理由が考えられます。前者については当局の技術力では処置なしとなるため、後者のスイッチングタイミングについて調べてみました。

以下の系統でE級増幅スイッチングタイミングを測定しました。終段FETのゲートに接続したテストピンTP4の出番です。ゲート電圧はTP4で測定できますが、ドレイン電圧を測るための手懸りをMainボード側に設けていなかったため、プローブのアクセスが容易なLPFの入力電圧を測定しました。コンデンサC7を通過するためAC電圧として測定することになります。

Measurement system diagram of class E amplification switching timing.

最初に、ダミーロードの送信電圧Vant(赤)とゲート電圧Vgs(黄)の測定結果を下記に示します。この測定を行った理由は、送信電圧(赤)に反復再現性の高いトリガーを掛けて、Overs回数を多くした重畳描画機能を利用できるからです。下記測定ではOvers = 32回としました。疑似サンプリング周波数は3.2GHz相当になります。

Transmit voltage Vant (red) applied to the dummy load and gate voltage Vgs (yellow) of the final FET.

終段FETのBS170のゲートしきい値電圧Vth(青)は、データシートからTyp. 2.1V(Min. 0.8V ~ Max. 3V)となり、ウェハ上のゲート寸法やイオン打ち込み量の製造ばらつきが大きいようです。グレード分けをしていないからでしょうか。特に運悪くMin.に当たるとチャタリングが発生しそうです。上の測定結果にはTyp. 2.1VのVth(青)を記入しました。

一見すると、ゲート電圧Vgs(黄)ONで送信電圧Vant(赤)が立ち上がり、OFFで立ち下がっているように見えます。ただし、送信電圧Vant(赤)はLPFによって位相がズレているため、タイミングの比較は正しくありません。あくまで、疑似サンプリング周波数3.2GHzによるゲート電圧Vgs(黄)の波形を確認するための測定です。

次に、本命のドレイン電圧Vds(赤)とゲート電圧Vgs(黄)の測定結果を下記に示します。反復再現性の高いトリガーを掛けることが難しく、重畳描画Overs = 2回が限界でした。疑似サンプリング周波数は200MHz相当に低下しました。

Measured drain voltage Vds (red) and gate voltage Vgs (yellow) of the final FET.

ゲート電圧Vgs(黄)にリンギングが発生していますが、先の結果から反復トリガータイミングの誤差の可能性が高いことが分かります。これは無視しても良いでしょう。

ドレイン電圧Vds(赤)が立ち下がって低レベルになったタイミングでゲート電圧Vgs(黄)がONになり、OFFになったタイミングでドレイン電圧Vds(赤)が立ち上がっていることが分かります。E級増幅器としてのスイッチングが達成されているようです。

上記実測結果と乖離していたLTspiceシミュレーションの結果を下記に再掲します。プロットの色は次のように代わっています。

  1. 送信電圧Vant(緑)
  2. ドレイン電圧Vds(青)
  3. ゲート電圧Vgs(黄)
  4. ゲートしきい値電圧Vth(紫)

Result of LTspice simulation (reposted).

ゲート電圧Vgs(黄)ONで送信電圧Vant(緑)が立ち上がり、OFFで立ち下がるタイミング関係は実測と同じです。ただし、振幅Vpは実測より小さくなっています。

ゲート電圧Vgs(黄)OFFでドレイン電圧Vds(青)が立ち上がるタイミングは実測と同じです。しかし、ゲート電圧Vgs(黄)ONのタイミングでドレイン電圧Vds(青)はまだ下がり切っていません。ドレイン電圧Vds(青)の立下り応答が遅いようです。シミュレーションを繰り返して、ドレイン電圧Vdsの応答因子を探せば原因が分かるかもしれません。別の機会の宿題にしたいと思います。

スプリアス領域における不要発射の強度の測定

測定方法

上記のLPFを通過した送信電圧Vant(赤)の波形は、まだ正弦波に対して歪んでいるかもしれません。E級増幅の出力波形を正弦波に矯正するには強力なLPFが必要になります。過去の経験では、コイル3段に加えて第二高調波トラップが必要になるケースがありました。AFP-FSK TransceiverのLPFは、コイル2段に第二高調波トラップを付加した構成です。経験値が覆されるかどうか、実力を測定しました。

tinySAを用いた「スプリアス領域における不要発射の強度」の測定系統図と測定の様子を下記に示します。

Measurement system diagram of unwanted emission intensity in the spurious region.

Photograph showing the measurement of unwanted emission intensity in the spurious region.

DC電源を12Vとした時の送信電力は、3.8~4.3(W) = 35.8~36.4(dBm)でした。よって、ステップアッチネータ(PacificAntenna)による減衰を38(dB)以上に設定すれば、tinySAへの入力を0(dBm)以下に制限できます。

tinySAはPC上のtinySA-Appから制御しました。周波数掃引範囲は1~36MHzとしました。分解能帯域幅RBWは自動設定とし、周波数掃引点数を変えて測定を繰り返しました。

周波数掃引500点

Measurement result of unwanted emission intensity in the spurious region by 500 frequency sweeps.

周波数掃引1,000点

Measurement result of unwanted emission intensity in the spurious region by 1,000 frequency sweeps.

周波数掃引3,000点

Measurement result of unwanted emission intensity in the spurious region by 3,000 frequency sweeps.

周波数掃引10,000点

Measurement result of unwanted emission intensity in the spurious region by 10,000 frequency sweeps.

まとめ

「スプリアス領域における不要発射の強度」の測定結果を下表にまとめます。最も強度が高い不要発射は第三高調波の-58.9(dBc)でしたが、スプリアス規格を満たします。

Summary of unwanted emission intensity measurements in the spurious region.

LPFの換装を覚悟していたのですが、良い意味で期待を裏切られました。不要発射が良く抑制されている理由としては、

  1. LPFの性能が高い、

  2. E級増幅の出力の高調波が少ない、

の2点が考えられます。

40m QCX+の経験を振り返ると、後者のE級増幅回路の構成は微妙に異なる点もありますが、同じ終段BS170 ×3のピークVdsが40(V)になる点等は共通です。

一方、40m QCX+のオリジナルのLPFで問題になった不要発射は第二高調波の-48.9(dBc)であり、第三高調波以上は有意な不要発射が観察されていませんでした。

これに第二高調波トラップを付加して-67.4(dBc)とし、スプリアス規格をクリアーしたのでした。

AFP-FSK Transceiverの40m LPFは第二高調波トラップを最初から備えており、奇しくも第二高調波は同じ-67.4(dBc)でした。第三以上の高調波も-58.9(dBc)以下ではありますが有意な値が観察されています。ここにQCX+より少ないコイル2段の性能が顕現しているとすれば矛盾なく妥当な結果です。コイル2段のLPFでも、E級増幅の第三以上の高調波に対してスプリアス規格をクリアーするには十分な性能だったという結論になります。第二高調波に対しては性能が不足するため、トラップを仕掛けることが必要になります。

帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の測定

測定方法

USBドングルSDRのSDRplay(RSP1A)を用いて「帯域外領域におけるスプリアス発射の強度」を測定しました。測定系統図と測定の様子を下記に示します。

Measurement system diagram of spurious emission intensity in the out-of-band region.

Photograph showing the measurement of spurious emission intensity in the out-of-band region.

20dBカプラ、41dBステップATT、20dB固定ATTを用いて送信電力を計61dB減衰させ、USBドングルSDRに入力しました。概算で約-45dBmの強度に落ちているはずです。

測定結果

Results of the measurement of spurious emission intensity in the out-of-band region.

USBドングルSDRへの入力信号の強度は約-46dBmでした。公称値による机上の概算との乖離は1dBmでした。帯域外±10kHzの領域のスプリアス発射の強度は-112dBm以下でした。これは-66dBcのスプリアス発射となり、スプリアス規格を満たします。

USBドングルSDRのSDRplay(RSP1A)とPCソフトウェアSDRunoの組み合わせによるRBWは最小5.09Hzになります。どんどん周波数軸を拡大したくなります。最大限拡大した結果を下記に示します。

Expansion of the frequency axis of the measurement results.

送信信号の両脇にスプリアス信号?が見えてきました。強度は-54dBcのため問題ありませんが、気になります。PLLシンセサイザMS5351Mのジッタかとも思いましたが、周波数の差を確認すると±50Hzでした。AFP-FSK方式に混合器は存在しないため、正体は不明ですが、AC電源由来のノイズと考えています。

そういえば、ダイレクトコンバージョン方式のRx系には混合器SA612Aがありました。Tx時にはFETでRx系統を遮断しているのですが、ここに回り込んでいるのかもしれません。HF信号と油断して、AFP-FSK Transceiverも測定系もメタルケースに入っていないため、回り込んでも不思議ではないと思われます。

まとめ

出力もLPFの性能も期待以上でした。40mのLPFの他に、30mと20mのLPFの部品も付属します。加えて、他のHFバンドのLPFの諸元もマニュアルに記載されています。オールバンドディジタル機を目指し、他のLPFも製作したいと思います。

AFP-FSK Transceiver(7)VFOボード組立

Mainボード

目視チェック

前回報告で測定を失念したと記したコンデンサC23(680pF)について気になっていました。コンデンサの残りを確認したところ、1個使用し1個残っているはずの68pFが2個とも消え、使用したはずの680pFが残っていました。印字の「68J」と「681」を間違えたことが発覚しました。LPFのC23の写真を撮って拡大すると、確かに間違えています。しかし、老眼には分かり難いですね。どうして68pFの方だけに精度記号が付いているのでしょうか。

More haste, less speed; slow and steady wins the race.

LPF換装のための部品取りを考慮してリードを長く残してありましたが、それでもスルーホールからコンデンサを破壊しないで引き抜くのは苦労しました。こういう時はSMDの方が便利と思わざるを得ません。

スモークテスト

マニュアルの記載では、VFOボードを接続する前のMainボードのスモークテスト項目は以下の3点です。

  1. 12V電源供給時の消費電流が10mA強であること。
  2. テストピンTP1の電圧が+5Vであること。
  3. VFOボード接続ソケットのC1(Clock1)ピンの電圧が0V(a few uV)であること。
テスト1

終段FETがON状態に陥った時に備えてダミーロードを接続し、12V電源を投入しました。電源のメータを電流表示に切り換えましたが、スケールが32Aもあり最小目盛りが2Aのため、針はピクリとも動きません。短絡や終段暴走は無いようです。

スト2

テストピンTP1は5Vレギュレータの出力と接続しています。5.001Vを確認しました。

Confirmation of +5V on regulator output in smoke test.
テスト3

VFOボードのPLLシンセサイザMS5351M(Si5351A)からは、Rx用のClock0とTx用のClock1がMainボードに供給される予定です。接続ソケットのC1(Clock1)ピンは終段FETを励振するNORゲートのプルダウン入力に接続します。NORゲートの入力ピンは内部のFETのゲートに接続しているため、プルダウンによって0V(a few uV)が表れるはずです。0.6mVでした。600uVもa few uVの範疇かな?

気になる点

データシートを見ていて気になる点がありました。+3.3V VCCのMS5351MのClock1出力を、+5V VCCの74AC02の入力に直結する回路設計になっています。耐入力電圧の問題はありませんが、駆動出力電圧が心配になるところです。

NOR gate drive voltage concerns.

供給された74AC02は、刻印からモトローラから分離したオン・セミコンダクタ社製のようです。正確には、オン・セミコンダクタ社が買収したフェアチャイルドセミコンダクタ社製と思われます。もっとも、数社のデータシートを比べましたが、各社で仕様に違いは無いようです。

74AC02のVIH(Minimum HIGH Level Input Voltage)は、2.75(Typ.)~ 3.85V(Guaranteed Limit)です。対して、MS5351MのVOH(Output High Voltage)はVDD-0.6Vです。VFOボードは+5Vを2連のIN4148で降圧してVDDを作っています。MS5351MのIDDは22~35mA、この電流値におけるIN4148のVF(Forward Voltage)は約0.8V、2連で1.6Vになるため、MS5351Mへの供給電圧は3.4Vになります。よって、Clock1のVOHは2.8Vになり、74AC02を駆動するためのVIHのTyp. 2.75Vは満たしますが、保証限界の3.85Vは満たせません。また、VFOボードの電源と信号はコネクタの接触抵抗の影響も受けると考えると、仕様充足は薄氷の上になりそうと感じるのですが杞憂でしょうか。Typ.を満たすのは簡単でも、製造ばらつきに完全対応するロバスト設計は難しいですね。

選別品を供給している訳でもないと思います。以上をトラブルシューティング時の予備知識として備え、VFOの組立に臨みました。

VFOボード

組立

部品を分別して過不足を確認します。大丈夫なようです。

Sort and check for missing parts for VFO board.

背の低いダイオード、抵抗から組み付けます。

 Soldering from the lowest height components, diodes and resistors.

MS5351Mの水晶振動子(25MHz)とATMEGA328Pの水晶振動子(16MHz)を取り付けます。両方ともソケットにしました。

本機が戦力になりそうであれば、MS5351Mの水晶振動子は将来TCXOに換装する可能性があります。スルーホール基板に直付けの水晶振動子を取り外すのは厄介です。特に、近くにあるMS5351Mに気を使います。ヒートガン(持っていませんが・・・)は使用しないようマニュアルに注意があります。

一方、ATMEGA328Pの実装は独特で、スルーホール部品である水晶振動子とICソケットの相対両面実装になっています。水晶振動子を直付けすると、瑕疵があってもハンダ付けしたリード部分にアクセスすることは不可となります。

水晶振動子のソケットは、1x3のピンソケットを切り出し、中央のピンを切断して、基板に対して切断部にオフセットが付くようにヤスリで仕上げます。

Making sockets for quartz crystals is folded, cut, and polished.

VFO周波数表示用のLEDディスプレイ、VFO制御用の3個のタクトスイッチ、5Vレギュレータをはんだ付けします。

ICソケットにATMEGA328Pを圧入しますが、背面に部品の実装されたVFOボードを盤に置いて圧入できないため厄介です。下の写真を見ると、ATMEGA328Pが傾いています・・・。スペーサを逆向きに仮組する等の一手間が必要です。

合体

マニュアルにはVFOボード単体のスモークテストを行うように指示がありますが、スキップしました。ピンヘッダ/ピンソケットを挟んで、VFOボードをMainボードに仮組し、ピンヘッダとピンソケットを倣い位置決めしてハンダ付けします。

E級終段増幅器の出力電力調整に重要になると思われるテストピンTP4へのアクセスがVFOボードとの合体で厳しくなったため、テストピンTP4を背面に移動しました。Mainボードの足の高さに収まります。

Relocation of the test pin TP4 to the back of the main board.

以上で完成です。

Assembly of AFP-FSK Transceiver is complete.

スモークテスト

 

Smoke test of the completed AFP-FSK Transceiver.

ダミーロードを接続して電源を投入すると、ディフォルトの初期動作を実行し、40m Band moduleボードの抵抗値IDを読み取って40m FT8の周波数7.074MHzを表示しました。

左のタクトスイッチがVFOメニュー切換スイッチで、押下時間に依って(1)チューニングする周波数の桁の切り換え、(2)周波数表示のシフト切換(MHz~kHz表示⇔10kHz~10Hz表示)、(3)キャリブレーション、(4)EEPROMのキャリブレーション値の消去、を選択します。中央のタクトスイッチが周波数Down、右が周波数Upです。

メニュー(1)および(2)のVFO制御動作まで確認しました。ATMEGA328Pは正常に動作しているようです。送信テスト、受信テストと進めていく予定です。

AFP-FSK Transceiver(6)Mainボード組立

QRPGuys AFP-FSK Transceiverは、Mainボード(+Band moduleボード)およびVFOボードの2式のボードから構成されています。Band moduleボードの差し換えとVFOによって、HFオールバンドでFSK(FT8等)を運用できる点が魅力的です。

今回は、Mainボードと40mのBand moduleボードの組立を行いました。その記録です。

Mainボード組立

まず、部品をヨーグルトカップに大雑把に分類し、主要部品に欠品がないかを確認します。

Sort and check for missing parts for main board.

抵抗やコンデンサ等はスルーホール部品であり、はんだ付けは難しくありません。ICだけは入手の容易性から表面実装タイプが採用されているものと推測されます。

ICの実装

表面実装が必要なICは以下の3点です。

  1. 型番:74AC02
    品名:IC GATE NOR 4CH 2-INP 14SOIC
    用途:E級増幅終段FETの励振増幅

  2. 型番:LM386
    品名:Low Voltage Audio Power Amplifier
    用途:FSK(FT8等)受信AF信号の増幅、PCマイクへの出力

  3. 型番:SA612A
    品名:Double-balanced mixer and oscillator 
    用途:FSK(FT8等)受信RF信号からAF信号へのダウンコンバート

表面実装ICの位置決めには何時も苦戦します。「決まった!」と思っても直ぐにずれてしまいます。今回はQRP labsで紹介されていたBlu-Tackを使ってみました。必要な分をちぎって使う一般民生用途の粘着ラバーです。チューインガムを想像して頂ければ近いと思います。チューインガムと間違えないように、わざわざ青色に着色した経緯があるようです。

Blu-Tack板から米粒の半分ぐらいの大きさを爪楊枝で切り分け、ICの下に付けてPCBに押し付けます。量が多すぎるとリード間の隙間からはみ出して来るため、控えめな量にします。位置をずらす復元応力も発生せず、ICの位置をキープしてくれました。あい路は、そのままICの下に永遠に留まってしまうことです。経年化学変化やPCBとの化学反応の有無は未知です。

Soldering of three SO (Small Outline) package ICs.

手ハンダで信頼性を得るためにはリードの上まではんだを付けること、とマニュアルに注記がありました。量多目にハンダを流し、最後にコテ先でガルウイング状(L字状)のリードの上をなぞりました。拡大すると、リードの裏までハンダが流れてくれたことが確認できました。

ダイオード、抵抗、コンデンサの実装

ダイオード、抵抗、コンデンサは全てスルーホール部品です。数は多くありません。ダイオードおよび電解コンデンサは極性に注意して実装します。経験はありませんが、電解コンデンサの極性を間違えると酷い臭いがするとマニュアルに書いてあります。VFO基板を2階に増築するため、電解コンデンサは寝かせて実装します。

Soldering of through-hole components: diodes, resistors, and capacitors.

PCBにテストピン用のスルーホールがありました。テストピンは付属していませんでしたが、秋月から購入してストックしてあったテストピンを実装しました。特に、終段FETのスイッチングを行うNORゲート(74AC02)出力の1、4、13ピンに接続するテストピンTP4は重要と考えました。後々、終段FETのVds(Drain-Source Voltage)電圧波形とTP4のVgs(Gate-Source Voltage)電圧のスイッチングタイミングを見ながら、LPF初段コイルの調整をする必要があることをLTSpiceシミュレーションで確認済みです。送信電力だけを指標に暗中模索するよりは情報量が多くなると思います。

しかし、なぜかテストピンTP4だけ回路図から欠落しています。終段FET周りの回路が混み入っているために記載を省略したのでしょうか・・・。

その他の部品の実装

その他の部品の実装上の気づきを以下にまとめます。

終段FET他のTOパッケージ部品

3個1組の終段FETと、TX/RX切換用FETと、3端子5VレギュレータはTO(Transistor Outline)パッケージです。Mainボードの2階にVFOボードを増築するため、その下に位置する終段FETのTOパッケージの頭頂部がスペーサ長を超えないようにする必要があります。はんだ付け時に放熱クリップ等を使用する都合で、TOパッケージの頭頂部が高くならないように注意してPCBに押し込みます。コンパクトなVFOボードは両面実装で、ATMEGA328Pが裏面に実装されますが、終段FETの頭上には干渉しないように配置設計されています。スペーサ長未満を遵守することだけを考えれば良いようです。

インダクタL1

DC13.8V電源ラインのインダクタはトロイダルコアに巻く必要があります。回路図やBOMにインダクタンス設計値の表示はありません。FT50-43に13回巻きで74.36uHとなり、線材は26.5cm切り出す必要があること等を、予めtoroids.infoから確認しておきます。

後述の40m Band moduleボードのLPF用のトロイダルコアと合わせて製作しました。インダクタンスの測定では何時も計算値よりも10%程度大きな値が出るため、LCRメータ(Peak LCR40)のプローブキャリブレーションを行ってから測定しました。はんだメッキにばらつきがあるため、クリップする場所を変えながら3回測定しました。

Fabrication of toroidal coils and measurement results of inductance.

フェライトコアのL1は、計算値に対して測定値が4%程度小さく出ました。拡大して見ると、外周部(写真左側)で巻線がコアに密接していない箇所があるため妥当な結果です。

カーボニル鉄コアのL2とL3は、計算値に対して測定値が10%程度大きく出ました。LCRメータに「Low Registance and Inductance」と表示されるため、測定誤差かもしれません。

Band moduleボード用ピンソケット

Mainボード上の2個の5端子ピンソケットによってBand moduleボードを接続します。2個のピンソケットは離れた位置に実装するため、独立にはんだ付けをすると位置公差内のずれによってBand moduleボードのピンヘッダが上手く嵌合できなくなる可能性があります。まず1つのピンソケットを実装した後に、仮組したBand moduleボードによって残りのピンソケットを倣い位置決めして実装します。

以上でMainボードは完成です。ただし、VFOボード接続用のピンソケットは、後でVFOボードを嵌合して倣い位置決め状態ではんだ付けします。

Main board completed.

40m Band moduleボード組立

トロイダルコイル2段と1つのウェーブトラップの組み合わせによるLPFでは、日本のスプリアス規制の要件を満たせない可能性があります。そこで、40mのBand moduleボードを先行して組み立て、スプリアスの測定を行うことにしました。

後で部品を取り外してトロイダルコイル3段のLPFに換装する可能性があるため、各部品のリードは長く残して仮組立としました。特にリードインダクタの入手が国内では難しそうです。

toroids.infoから確認したトロイダルコイルL2とL3の計算値は次の通りです。

トロイダルコイルの製作と出来栄えは上述した通りです。40m Band moduleボードに搭載するフィルタ関係の素子値は下記の通りでした。C23(680pF)の容量値の測定は失念しました。

Temporary assembly of the 40m Band module is completed and mated with the Main board.

以上で完成です。時間を置いて新鮮な目で目視チェック、スモークテスト、VFO組立、調整を進める予定です。

QRPGuys Z Tuner(3)試験と改良

CW運用だけならTunerは必要ないかもしれませんが、アンテナ再調整なしでFT8運用と両立させるのは困難です。そのためにQRPGuys Z Tunerを組み立てましたが、試験結果は思わしくなく、改良が必要になりました。以下、その記録です。

Dummy Loadの整合試験

下記の構成でQRPGuys Z Tunerの試験を行いました。NanoVNAを用いてSWRを測定するために、TunerのSWRブリッジ測定モードはOFFにしてOperationモードに設定します。NanoVNAの横軸は Z Tunerの仕様範囲40~10mに合わせて7~30MHzとしました。

Setup of a QRPguys Z Tuner test using a 50Ω dummy load.

整合共振回路に直列に配置されたLoadポリバリコンと並列に配置されたTuneポリバリコンを調整して、狙ったバンドでSWRが落ちるかどうかを確認しました。なお、ノブの回転位置の印字数字が大きくなるほど、逆にポリバリコンの容量は小さくなります。

インピーダンス切換スイッチHigh設定

インピーダンス(High/Low)切換スイッチはHigh(二次巻線数が多い)カップリングの方が効率が良いとのマニュアルの記載に従い、まずHigh位置に設定してHighバンドからLowバンドに向かって順に整合を試行しました。

12mバンドと10mバンド

整合操作の結果、10mバンド(下写真右)のSWRは1.17(@28.85MHz)、12mバンド(左)は1.33(@24.25MHz)が最小値になりました。ポリバリコンはLoadもTuneも容量が小さい側になりました。10mバンドの方が12mバンドよりも整合容量が小さくなりました。

整合範囲は10mバンドの方が狭くなっています。10mバンドの方がQ値が大きく、SWRを小さくできているように見えます。

Results of matching operations on 12m (left) and 10m (right), with a minimum SWR of 1.33 (@24.25MHz) on 12m and 1.17 (@28.85MHz) on 10m.
17mバンドと15mバンド

整合操作の結果、15mバンド(下写真右)のSWRは1.43(@21.49MHz)、17mバンド(左)は1.57(@18.50MHz)が最小値になりました。17mバンド整合のLoadポリバリコンは容量が大きい側に転じました。

整合範囲も17mバンドの方が広くなっています。整合目標の周波数が低くなるに従ってQ値が小さくなり、SWR最小値が大きくなって行くように見えます。

Results of matching operations on 17m (left) and 15m (right), with a minimum SWR of 1.57 (@18.50MHz) on 17m and 1.43 (@21.49MHz) on 15m.
40mバンド、30mバンド、20mバンド

40mバンドと30mバンドはSWR 2.0以上となり、整合不可と判断しました。

20mバンド(下写真)のSWRは1.77(@14.36MHz)が最小値になりました。ただし、下写真の通りSWR曲線の最小値を20mバンドに持ってくることはできませんでした。この時、Loadポリバリコンは左に回り切り、容量は最大値になっています。Load容量不足が否めません。

Matching operation results for the 20m band at a minimum SWR of 1.77 (@14.36MHz) when the High/Low impedance switch is in the High position.

インピーダンス切換スイッチLow設定

続いて、インピーダンス(High/Low)切換スイッチをLow(二次巻線数が少ない)位置に切り換えて、LowバンドからHighバンドに向かって逆順に整合を試行しました。

40mバンド、30mバンド、20mバンド

40mバンドはSWR 2.0以上となり、整合不可と判断しました。この時、Loadポリバリコンは左に回り切り、容量は最大値になっています。

30mバンド(撮影失念)はSWR 1.02(@9.99MHz)が最小値となり、良好に整合できました。

20mバンド(下写真)のSWRは1.01(@14.13MHz)が最小値となり、こちらも良好に整合できました。

インピーダンス切換スイッチをLow位置にした場合は、下写真の通り、SWR曲線に2つの共振点が現れました。この中、左側の共振点でSWRが最小になりました。この時、Loadポリバリコンは回転位置中央となり容量は半分になっています。Load容量をもっと大きくすることによって40mでも整合する可能性が示唆されているように思います。

Matching operation results for the 20m band at a minimum SWR of 1.01 (@14.13MHz) when the High/Low impedance switch is in the Low position.
17mバンドと15mバンド

整合操作の結果、17mバンド(下写真左)のSWRは1.21(@18.04MHz)、15mバンド(右)は1.57(@21.03MHz)が最小値になりました。Loadポリバリコンは容量が小さい側に転じました。

整合目標の周波数が高くなるに従ってQ値が小さくなり、SWR最小値が大きくなって行くように見えます。インピーダンス切換スイッチをLow位置にした場合は、前記High位置とは逆の傾向になります。

Results of matching operations on 17m (left) and 15m (right), with a minimum SWR of 1.21 (@18.04MHz) on 17m and 1.57 (@21.03MHz) on 15m.
12mバンドと10mバンド

12mバンドと10mバンドは、2つの共振点の中の左側の共振点では整合できませんでした。

右側の共振点を使うと、12mバンド(撮影失念)は1.21(@24.49MHz)、10mバンド(下写真)のSWRは1.51(@28.62MHz)が最小値になりました。ただし、ポリバリコンの回転位置に対して感度が高くなり、調整は難しくなります。10mバンドでは、Loadポリバリコンは右に回り切り容量が最小になりました。

Results of matching operations on 10m, with a minimum SWR of 1.51 (@28.62MHz) on 10m.

まとめと改良

ダミーロードとNanoVNAを用いた試験結果を下表にまとめます。15-10mのHF High側バンドはインピーダンス切換スイッチをHigh位置に、30-17のHF Low側バンドはLow位置に設定すれば全域でSWR 1.5以下に整合できるとの結果が得られました。

Summary table of Z Tuner matching test results using dummy loads and NanoVNA.

40mバンドはどちらのスイッチ設定を使っても整合できませんでした。整合試行の履歴から浮かび上がる改良の指針は以下となります。

  1. Loadポリバリコンの容量を増やす。
  2. インピーダンス切換スイッチのLow側の二次巻線(6回巻き)の巻き数を減らす。
LoadポリバリコンのTrimmer調整

マニュアルの指示に従い、Loadポリバリコンの2つのTrimmerは付加容量を最小にする位置に調整していました。これを最大位置に変更して合計約20pFを付加して効果を確認しました。

Plot of capacitance value change of Load polyvaricon and the effect of adding 20pF by trimmer adjustment.

ポリバリコンのTrimmerは可変容量比を最大化するために付加容量を最小化する位置に調整するものと考えています。可変容量を測定した上図では約20pFのオフセットが乗っただけで可変範囲の絶対値に大きな影響は無いように見えます。ただし、可変容量比は228.4/24.8=9.2から248.4/44.6=5.6に小さくなってしまいます。

Trimmer調整の結果、7.23MHzのSWRが1.76に改善しました。ただし、SWR曲線の最小値はまだ40mバンドから外れています。さらに容量を付加することで40mバンドの運用帯域での改善が見込めますが、他のバンドを含めた整合範囲に影響が及ぶ可能性が高くなります。バンド切換無しで整合させるには無理があるということですが・・・。

Matching operation on 40m after adjusting the Load polyvaricon with an additional 20pF maximum trimmer capacitance resulted in an improved minimum SWR of 1.76 (@7.23MHz).
Low側二次巻線の巻き数低減

次に、Low側二次巻線の巻き数を設計値の6回から4回に減らしました。途中に5回も試しましたが不十分だったため、最終的に4回にしました。

ダミーロードに対する40mバンドのSWRは1.0を達成しました。しかも、バンド全域(7.0~7.2MHz)でSWR約1.2以下を達成しています。

An SWR of 1.0 is achieved in the 40m band for dummy load. Moreover, an SWR of approximately 1.2 or less was achieved for the entire 40m band (7.0 to 7.2 MHz).

モービルホイップHF40FXWの整合試験

アンテナ直結

モービルホイップアンテナHF40FXW(DIAMOND)をNanoVNAに直結した際のSWR曲線を下写真に示します。

アンテナはCWバンドに対して調整しているため、FT8(7.074MHz)に対してはSWR 2.88になっています。これをZ Tunerで整合するのが課題です。

The mobile whip antenna HF40FXW is tuned for the 40m CW band, so the SWR is 2.88 for FT8 (7.074 MHz). The challenge is to match this with the Z Tuner.

Z Tuner挿入

Tunerを系に挿入して整合を取った結果、SWRは2.88から1.68に低減しました。7.074MHzはTunerの2つの共振点のちょうど腹(シーソーの支点)になっており、これが最良値でした。Z-match Tunerは調整の自由度が足りない印象です。

After the Tuner was inserted into the system and matched, the SWR was reduced from 2.88 to 1.68. 7.074 MHz was the fulcrum of the seesaw just between the two resonant points of the Tuner and could not be reduced any further.

Z Tunerの挿入損失

40m QCX+からダミーロードに向けてパワーを出し、Z Tunerの挿入損失を測定しました。ダミーロード印加電力は整流回路によるピーク電圧測定値から算出しました。整流ダイオードの電圧降下0.61Vも考慮しています。

ダミーロード直結では4.4W、Z Tuner挿入によって3.7Wに低下しました。挿入損失は0.6W(14%)になりました。

SWR 1.9で10%程度の損失になりますので、それ以上のSWRを低下させるためにTunerを挿入するのなら効果が期待できるかも知れません。

コンテスト参加

思い立って、ALL JAコンテスト(4/23-24)とQRP Sprintコンテスト(5/1)に参加しました。目的は室内アンテナによる交信可能性の探求です。

集合住宅にある当局の無線部屋は窓の開口が小さく、ベランダへの出入りが簡単ではない(遠回りして別の部屋から出入りする必要がある)ため、アンテナの調整が厄介です。対して、居間はベランダが無い代わりに2面が比較的大きなガラスになっているため、電波に関しては無線部屋より開放されている感があります。

そこで、家人が留守の間にモービルホイップを居間に仮設し、リグ他を食卓の上に展開して試験を行いました。

ALL JAコンテスト

ALL JAコンテストは下記構成で7MHz CWに参加しました。

  • リグ:QCX+(7MHz、5W)
  • アンテナ:HF40FXW(室内仮設)
  • アース処理:CQオームラジアルケーブルセット(5M×5本)

ラジアルケーブル5本は個々に分散しないで、まとめたまま床に放置しました。フローリングのため床の鉄筋とは距離があると思います。床を支えるフローリング骨格が金属であれば容量結合する可能性がありますが、材質は確認できていません。また、床暖房の埋設物には放熱のための金属が含まれていると思いますが詳細は不明です。

天井の梁を避けてアンテナを出来るだけ窓に近づけるために、三脚にスライディングアームを付けて自由度を追加しました。

NanoVNAで確認したスイートスポットのSWRは1.27でした。当局は1.9以下(伝送電力90%以上)をSWRの目標としているため合格です。SWRが1.9以下になるバンド幅は50kHz程度あります。7MHzのJARLコンテスト使用周波数帯の幅は30kHzのため、頻繁なアンテナ調整なしで運用可能です。

SWR of a 7MHz mobile whip antenna temporarily installed indoors.
The SWR confirmed by NanoVNA was 1.27. This was acceptable because my SWR target is less than 1.9 (more than 90% transmission power). The bandwidth where the SWR was less than 1.9 was about 50 kHz. The JARL contest frequency bandwidth for 7 MHz is 30 kHz, so it could be operated without frequent antenna adjustments.

4/24当日午後、当局が参加した頃のイオノグラム(電離層観測データ)は下記の様相でした。遠方の局とはF層反射で交信できそうですが、関東にはE層の端が7MHzに掛かっていてQRPで突き抜けるのは難しく、近中距離中心になりそうな状況でした。

Ionograms in the afternoon on the day of the ALL JA contest.
It seemed possible to make QSOs with distant stations by ionospheric reflection in the F layer, but in the Kanto region, the edge of the E layer was hanging at 7 MHz, and it seemed difficult to penetrate it with QRP, so I predicted that QSOs would be mainly with near- and mid-range stations.

CQを出している局を探し、他に呼ぶ局がいないタイミングを見計らって呼んでみました。イオノグラムの予言?の通り、最初は近中距離の0、1、3エリアの局と交信できました。Logbookの1ページを埋めることを目標に、休憩の後の夕刻に再挑戦したところ、1、2、7、8エリアの遠方を含めた局と交信できました。E層の端が後退してF層反射に移行したと考えるのが自然ですが、夕刻のイオノグラムの記録を失念したため、残念ながら真実は不明です。最終的に、0、1、2、3、7、8エリアの計15局と交信できました。西遠方の局と交信できなかったのは、電離層の状況と言うよりも、アンテナの仮設状況に依るものと考えています。次回の宿題です。

後で調べてみると、交信できた各局は過去のコンテスト上位入賞者が多く、素晴らしいタワー上のアンテナをお持ちであることが分かりました。こちらの室内アンテナから送出したQRP電波が微弱でも、相手局の耳が良ければ交信は不可能ではないということが分かりました。微弱な電波を拾い上げて頂きありがとうございました。

結果(2022/08/01追記)

JARLよりログチェックの完了通知メールが7/20に届きました。結果報告は8月上旬とのことでしたが、本日8/1にJARLホームページに公開されていました。

コンテスト・スコア・データベースからコンテスト結果を検索して、参加証(PDFデータ)の作成・ダウンロードができるようになっています。

「電信部門シングルオペ7MHzバンド C7」にて138/148位でした。「覚え書き」への順位の記録のため、早速、参加証をダウンロードしました。

QRP Sprintコンテスト

ALL JAコンテストでは14MHzの試験まで気が回らなかったため、後日QRP Sprintコンテストの14MHz CWに下記構成で参加しました。

  • リグ:QCX-mini(14MHz、3.5W)
  • アンテナ:HF20FX(室内仮設)
  • アース処理:CQオームラジアルケーブルセット(5M×5本)

当日は雨天でした。コンテスト開始直前の正午頃のイオノグラムは下記の様相でした。7MHzならF層反射で遠方と交信できそうですが、14MHzにはF層が達していません。

Ionograms in the afternoon on the day of the QRP Sprint contest.
It was raining on the day of the contest. The ionogram around noon, just before the contest started, showed the following aspect: If it had been in the 7MHz band, it would have been possible to QSO with distant stations in the F layer reflection, but the F layer did not reach the 14MHz band to be operated in.

結果、電離層反射の必要のないローカル1局との交信に終わりました。それでも、室内仮設のモービルホイップから14MHzの電波が出ていることは確認できました。コンデションの良いときに再チャレンジしたいと思います。

A temporary radio station was set up on the dining room table.

Teensy(8)T41-EP Book

T41-EP Book発売

T41-EPの解説本「Software Defined Radio Transceiver: Theory and Construction of the T41-ep Amateur Radio SDT」がAmazonにて2022/04/04より発売されていました。groups.io にて気付いた方がおられ、話題になっていました。著者のW8TEE局Jack OMによると、早速に加筆する予定がありアナウンスを控えているそうです。脱稿したとたんに加筆したくなる心境は良く分かります。

素敵な表紙ですね。洋書ですが、日本Amazonでも購入することが出来ます。残念ながら電子版はなくペーパーバック版のみでした。Amazonの試し読みで目次を閲覧することができます。379ページ以上の大著です。洋書は高価な上、印刷本は断捨離中ですが、こればかりは食指が動きます。

追記(2022/04/16)

T41-EPのオリジナルPower Ampの整合のためにフィルタが必要になる可能性が顕現し、加筆を考えていた模様です。最終的に抵抗のみで整合できる目途となったため、Jack OMよりT41-EP Book発売の正式アナウンスがありました。変更は回路図のみで済み、最終回路図他のOpen Sourceは3/19-22 5/19-22開催のFDIM(Four Days In May)での講演後に発表するとのことでした。

昨夜、T41-EP Bookを入手したという欧米Hamからの投稿が続々とありました。今日になって当局の手元にも届きました。日本Amazonが洋書を何冊仕入れているのか不思議でしたが、最後のページを捲って納得です。「Printed in Japan 落丁、乱丁本のお問い合わせは・・・」との文字が。オンデマンド印刷だったんですね。

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肝心の中身は、ハードとソフトの両方の説明があり、SDRの入門には好適と思いました。数式は控えめで、信号処理の数学的側面については参考文献に誘導するスタイルです。フォントは大きいので文章を読むのは大丈夫ですが、回路図はスケールが小さく老眼には厳しいです。回路図はOpen Source公表後にPDFをPCで参照するのが良いと思いました。